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九十九話 フランの狂気

 今回は長いよ! 後、すごくややこしいよ!!

 アリスが帰り、再びパチュリーと言葉を重ねた、その日の夜。参真は一人レミリアに呼びだされた。

 理由はだいたい予測がつくが、問題はどこからその話が伝わったかである。パチュリーからなら、既にフランの状態の説明も終わっているだろうが……


「ご主人さま……緊張してる?」

「……まあね、機嫌を損ねた可能性もあるし」


 最悪、館を出ていけと言われてもおかしくない。それならそれで仕方のないことではあるのだが、それでも真実だけは告げるつもりである。


「それじゃ、行ってくる」

「頑張って……それと、怪我とか無茶とかはしないでね」

「……善処するよ」


 弾幕ゴッコに発展する危険性も考えると、怪我も無茶もしてしまうかもしれない。そう考えた参真は、はっきりと「大丈夫」とは言えずにいた。約束にして、破りたくはなかったから。

 少女は部屋に残り、青年を見送ることしかできない。参真は彼女に見送られながら、たったの一人で吸血鬼の元へと歩みを進める。


「……咲夜さんの迎えもないのか」


 前回謁見した時は、途中まで咲夜さんが自分を案内してくれていた。だが今回は、やたらと広い館内部を一人で進む。孤独感と緊張が身体に纏わりつき、参真の歩みを鈍らせる。しかし、胸に秘めた真実と、フランとレミリアの関係を改善したいという気持ちに押され、ついに歩みを止めることはなかった。


「……入ります」


 扉を二回叩き、静かに告げて彼は領主の前に姿を現す。椅子に肘をついて座る彼女は、ほう、と一つ息を吐いた。


「……よく逃げなかったわね。それとも、ただの馬鹿?」

「伝えないといけないことがあるので。呼びだした理由は、僕がフランちゃんについて色々と情報を集めていることでしょう?」

「ええ、咲夜から聞いたわ。なんでも、『真実』とやらを掴んだんですって?」


 参真はレミリアのそばにいる咲夜の方を、ちらと見た。特に表情に変化はない。どうやら彼女に、今日の話を聞かれていたようである。


「お前の真実とやらにも興味があるけど、その前に……逃げずにここに来た褒美よ。なんでも一つ、私に質問することを許すわ。せいぜい有意義に使うことね」


 傲慢な態度は崩さず、余裕たっぷりに少女は告げる。

 ……既にパズルは完成しているも当然で、特に質問したいことは――あった。それは、フランに関係あると言えば大いにある、今回のことにも、少しは関わっている可能性のあることだ。

 だから、参真は迷うこと無く、口を開く。


「……あなたたち姉妹の能力は生まれつきですか?」

「そんなこと? ええ、そうよ。大体4、5歳ぐらいから使えるようになっていたわ。物心がつくのと同じぐらいかしらね」

「……ドンピシャか」

「何か言った?」

「いえ。これで――フランちゃんが生まれつき狂気の世界にいることが、はっきりしたわけです」

 

 レミリアは何を今さらと呆れている。彼女にしてみれば、それは知っていたことだろう。


「確認のために質問を使ったのか? もったいないことを――」

「いえ、ならなおさら急がないと。文字通り間に合わなくなる前に」

「そうね。そろそろお前の見つけた真実とやらを聞こうじゃない」


 唇が震える。吸血鬼と話すからか? それとも――その真実の重さゆえか――


「まず、答えから先に言います。フランちゃんにとって世界は――『常に何かに見られ続ける』と言うモノです」

「見られ続ける……? いったい何に?」

「だから、『モノ』にです」


 レミリアは困惑している。言っている意味が理解できていないようだ。

 そこで参真は、スムーズに話を進めるために順序を立てることにする。


「フランちゃんの能力は生まれつきで、『ありとあらゆる物を破壊する程度の能力』です」

「そうだ、それはさっきお前も確認したはずよ。ありとあらゆるモノについている『目』と呼ばれる部位、特異点を握りつぶすことによって、対象を破壊する――」

「……そこが誤解なんです」


「え?」と、初めてそのことに気がつかされたのか、少女は呆然としている。だが、やがてやや怒気を孕んだ声で反論してきた。


「誤解などしていないわ。実際、私たちはフランが手を握ることで、対象を破壊している場面も見ているし――」

「違う。そこじゃなくて……いや、こう聞いた方が早いか。じゃあ……『特異点と言う部位をどうして目などと、回りくどい表現を使ったんですか?』」

「それは――フランがそう言ったからで」

「ならなんで、フランちゃんはそんな回りくどいことを? 特異点なら、そうだと言えばいい。点や、線、面……言い方はいくらでもあるのに、『どうしてわざわざ、目を選んだのでしょう?』」

「……」


レミリアは言葉に詰まった。それはそうだ。この能力を、今の今まで彼女たちは誤解していた。この能力は――『ただ単に相手を破壊する能力だけではなかったのだから』


「簡単です。それは、『フランドールスカーレットにとって、万物の特異点は目に見えていたからです』見えていたそのままを、あなたに話しただけなんです。だけど、起こる出来事から、あなたたちは彼女の能力を歪めて解釈していたんですよ。だから、フランちゃんは外に出たがらなかった。『幽閉』と言うのは嘘で、本当は半分自分から彼女は閉じ籠もっている。だって、『外に出たら、それだけモノに見られてしまうから』」

「!? お嬢様、それは本当ですか?」


 傍らに佇んでいた咲夜が、初めて口を開いた。自身に説明されていたこととの齟齬に、戸惑っているように見える。


「……フランを幽閉しているのは、確かに半分嘘よ。たまに外に出たがるけど、しばらくしたら何もしなくても部屋に戻るわ。私たちが止めに行っても、フランにとっては遊び半分……いわば気晴らしよ」

「どうしてそんな嘘を……」

「メンツがあるのよ私たちには。それに嘘で体面を保つことに関しては、フランも納得してくれたわ。その時確か、見られるのが嫌だとか言ってたわね」


 レミリアの顔色が悪い。なんとか真実を受け入れようと必死なのだろう。

 そんなレミリアに、参真は、ある絵を取り出した。


「これが、その証拠です。フランちゃんの描いた絵です。見ればわかると思いますが……」

「いろんな場所に目が――!」


 咲夜は驚愕し、レミリアはため息をひとつ吐いた。


「認めるしか、無いわね」


 折れるように、震えるように、吸血鬼はがっくりと俯く。

 フランのいる世界は、異常としか言いようがない。なぜなら――ありとあらゆる物に、目がついているのだがら。そしてそれが――常時、自分を見ている。その視線は様々だが、四六時中見られていたら――長くは正気を保てない。

 それでも、時々安定しているのを見ると、おそらく完全には狂気に呑まれてはいないのだろう。恐ろしい精神力だ。妖怪だからか、あるいは生まれつきだったからかもしれない。


「レミリアさん。僕はフランちゃんの狂気の源を取り除きたい。あの子の狂気さえ取り除けば、あなたたちは普通に姉妹として接することだって……」

「馬鹿なことを言わないで! 今さらどんな顔をして接すればいいのフランは……フランは……!」

「……それ以上は、言わなくていいです」

「な――!? あなた『知ってる』の!?」


 参真は無言で頷いて、そして続けた。


「あなたはそれを罪だと思っているかもしれない。でもそんなことは、重要じゃないんだ」


一つ息を大きく吸い込んで、参真は一呼吸ですべて吐き出した。


「兄弟や、姉妹、っていうのは、かけがえのないものです。上手く言えないけど……あるに越したことはない――いや違うな、無い人には一生分からないかもしれないですけど、かけがえのないものなんです。無くなるとすごくさびしくて、それでいて、すごく悔しくて! きっと後悔し続けることになる……そんなのはもうごめんなんです。だから――どうか、僕にあなたたちを助ける手伝いをさせてください……」


 何度目かの沈黙が、彼らを包んだ。

 参真は懇願するように頭を下げ、

 咲夜はやりきれないという表情で沈み込み、

 そしてレミリアは――


「お前の血を、吸わせろ」

「!? お嬢様!?」

「お前の覚悟を、意思を、血で示せ。それによって、考えてあげるわ」


 ふっきれてはいない。むしろ迷いだらけの中で、灯明を探すように、けれども彼女らしく、堂々とそれを覆い隠すように、言った。参真もそれを無下にはしない。


「……わかりました」


 覚悟を決め、首筋の肌を露わにし、屈む。

 ほどなくして、痛みが奔ったのと、痺れるような、どこか甘い様な感覚が襲ったのは、同時であった。


 ここでのフランドールスカーレットの能力は、「特異点が目に見える」「それを手元に持ってきて握りつぶすことで破壊する」「ありとあらゆる物を壊せる」の三つに分割することができ、それがつながることで、『ありとあらゆるものに目が付いていて、それに見られる』というデメリットが発生します。

 昔、あとがきで『目玉だらけの世界にいたら気が狂いそうですよね』というのが伏線だったり。確か、スキマに放り込まれる辺りかな……

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