九十五話 吸血鬼の証明
四月までに終わらせる予定でしたが……むりそうですなorz
「無事だったか……運のいい奴だ」
どことなく不機嫌そうに、レミリア・スカーレットは、参真に言った。
青年が倒れたあと、数日会わずにいたのだが、開口一番にこれである。相変わらず傲慢な彼女だが、咲夜から話を聞いていなかったのだろうか? いや、それ以前に――
「……もしかして、僕とフランちゃんが会うの分かってました?」
「お前がフランの絵を描く未来は見えたからね」
忠告の一つでもしてくれれば良かったのに、放置されてしまっていたようである。まぁ、「運命」なのだから、その程度で変わるとは思えないが……しかし一つ、妙な点がある
「まだ描いてませんよ。となると、もう少し先の話になるのかな」
「意外ね。即座に描くと思っていたのだけれど」
「道具を渡してましたし、そんな時間はありませんでしたから……彼女も吸血鬼ですか?」
「もちろんよ……どうしたの急に?」
「あまり吸血鬼っぽく見えなかったもので。羽は特殊でしたし、見た目も中身も子供でしたから」
彼女は、精神が不安定な点を除けば、どこにでもいる小さな子供だろう。参真とはまた違う……あえて言葉にするなら、「幼い」というべきか。力は人外じみていたか、それは他の妖怪にも言えることだ。となると、いよいよ彼女を吸血鬼として見る要素がなくなってしまう。
「ふむ……確かにフランは吸血鬼らしくないでしょうね。……そういえば私もまだ、お前には吸血鬼らしい所を見せていなかった様な気がするのだけど?」
「そうでしたっけ? もうプレッシャーとかで十分認識……ああ、それだけじゃ妖怪であることは分かっても、吸血鬼かどうかまではわからないか」
本当は証明などしなくても、参真は能力で相手の種族を指定すれば、簡単に見分けることができる。なので、そうすればよかったのだが、この時はうっかりそのことを忘れていた。
「そうね……なら血を吸うところでも見せてあげようかしら」
「……は?」
参真は硬直した。確かに血を吸う行為は吸血鬼の由来だし、証明としては申し分ないのだが……この場に人間は、一人しかいない。
「い、いやそれはちょっと遠慮したい……」
「咲夜」
「はい、お嬢様」
レミリアが名を呼ぶと、瀟洒なメイドは瞬時に参真の背後に現れる。まるで、「動くな」と言わんばかりだ。
「さ、咲夜さん!? ちょっと! 冗談はよしてくださいよ!!」
「大丈夫です。痛いのは最初だけですわ」
メイドはにっこりと柔和に微笑む。その表情とは逆に、青年の顔は青ざめた。
そして、両腕をがっちり固められ、動けなくされてしまう。
いよいよかと、目をきつく閉じてその時に備えたが……いつまでたっても、噛みつかれる様子はない。
「……咲夜、そうじゃないわ。ちょっとこっちに来なさい」
「? かしこまりました」
両腕が自由を取り戻すのと、レミリアの前に咲夜が立つのはほぼ同時だった。もがいていた青年は身体のバランスを崩してよろめく。
一方、レミリアは咲夜にかがむように命じ、困惑しながらもメイドはそれに従う。
「いい子よ咲夜……それじゃあ……いただきます」
「お嬢様!? ああっ……!」
やさしく咲夜の首筋を撫でて、その付近に牙をつきたてた。途端咲夜が悲鳴を上げて、参真は驚愕した。
「ちょ、ちょっと何やってるんですか!?」
「見ての通り吸血よ?」
「お、お嬢様……おやめになってくださ……あうぅっ」
咲夜の抗議を、レミリアはますます牙を深く食い込ませて封じた。
「ふふ……何よ咲夜……普段より興奮してるんじゃない。参真に見られているからかしら?」
「い、いやぁ……お嬢……様……」
「お前の血は正直よ? 素直になっちゃいなさい?」
悪魔のように、咲夜の耳元で囁く。
気になる単語があったので、それについて聞いてみることにした。
「血は正直って……」
「吸血鬼の特性みたいなものよ。血を吸うことで、相手の感情などを大まかに知ることができる。それによって、味も変わるわ……ねぇ、咲夜」
「ひ、人前で……はずか、し……い」
羞恥で顔を真っ赤にしながら、それでも無抵抗でいる咲夜。その様子を……参真はまじまじと観察する。
「……描いていいですか?」
「ふふ、いいわよ」
「や……やめ……いやぁ……」
咲夜は嫌がっているが、この館の主は肯定しているので、参真は遠慮なく描くことにした。
後にこの、「咲夜がレミリアに吸血される絵」は、フランに見つかって、咲夜がまた吸血されてしまうのだが、それはまた別のお話。
吸血シーンをもっと色っぽく書きたかったのですが……上手くいかず断念する羽目に。
この小説にR-15がついてるのは、このシーンのためだったんですが……これなら外してもいいかな?