九十四・五話 失う前に……
番外だけど実質本(ry
「あ……ご主人さま! 無事でよかったぁ!!」
私が目を覚ますと、ご主人さまはもう起きていた。嬉しさのあまり、つい飛びついた。
ぎゅ~と思いっきり抱きしめて、改めて無事を確認する。
「ごめん。また心配かけたね……」
「本当だよぅ! 私が目を離すとすぐこれなんだから!!」
そう言って、私は頬を膨らませた。ご主人さまは、もう少し自分を大事にした方がいいんじゃないかな。いつもいつも、知らない間に危ない目に会ってるよ……
「それはそうとさ……ちょっと確かめたいことがあるんだけど、いい?」
「ま、またそうやって誤魔化して……」
「……大事なことなんだ」
急に真剣な声になって、ご主人さまは私の肩に手を置いて、くっついっていた身体を少しだけ離す。それでも十分近い距離なんだけど、そのままじっ……と私の顔を見つめていた。
そしてそのまま、何も言わない。真剣な眼差しのまま、ただひたすらに私に視線を向け続けた。は、はうぅ……
「え、えと、その。ご主人さま……?」
いい加減恥ずかしくなってきて、上擦った声が出てしまう。急にどうしたんだろう? ご主人さまの行動の意味がよくわからないよ……
「……見られて、どうだった?」
「えっ?」
「見られ続けてて、どう思った?」
それに、何この質問!? 一帯どうしちゃったのと思ったけど、きっと何かの意味があるはず。だけど、答えたくないなぁ……
「すごく……恥ずかしかった……」
「……? ……そうか、一対一だと、そういう感じ方にもなるのか……質問を変えるよ。例えば……いろんな人から、四六時中見られ続けるのって、どう?」
「えぇ~……それは嫌かも」
「……だよね。見られてるって思うだけでも、嫌だよね」
ご主人さまは、何がしたいんだろう? 私にはさっぱりわからない。
「変な質問ばっかりして……ご主人さまは、何がしたいの?」
「何がしたい……か」
深く考え込んで、今度は黙り込んでしまった。私を巻き込みたくないのかなぁ。でも……
「もうおいてけぼりは嫌。ご主人さまと一緒にいるだけじゃなくて、ちゃんと役にたちたい」
「今の質問に答えてくれただけでも、十分助けられたんだけどね」
困ったような表情のまま、器用に笑みを浮かべる。やがて、決心がついたのか、ぽつぽつとご主人さまは語り始めた。
「フランドール・スカーレットのことは、聞いたよね?」
「うん……心が不安定で、それで暴れるって。能力も危ないし、だから地下に閉じ込めてるんだって」
「姉が妹を閉じ込める。普通そんなことしたいと思う?」
「……それは仕方ないと思うよ。現にご主人さまは危ない目に遭ってるし……」
私の言葉に、「そうだね」と頷いたけど、その顔は納得していない。
「だけど……僕は姉に妹を諦めさせたくない。このまま放置していたら、最悪僕みたいな目に遭う」
ああ、そうか。
ご主人さまのお兄さんも、気がふれてたんだっけ。
だけど、それでも、お兄さんはご主人さまのことを気にかけてくれてたんだっけ――
きっとご主人さまは、あのフランって子に、いや、スカーレット姉妹に自分たちを重ねて見てるんだ。
「僕は兄さんが死んでから気がついた。だけど、あの子たちはまだ間に合う。大切な関係の人をまだ失っちゃいない」
「だから、なんとかしたいんだね」
「そのための糸口をつかんだとなれば、なおさらだよ……」
ご主人さまは、それっきり俯いて喋らなくなった。
「ご主人さまは、優しいね」
「どうだろう。身勝手な同情とも言えるかもしれない。それにどう考えても、もう一、二回は危険を覚悟しなきゃいけないから、君を巻きこみたくなかったけど――それは嫌なんだよね」
「もちろんだよ! ご主人さまの役にたたせて!!」
私がそう言うと、今度はご主人さまから私を抱きしめた。
「ありがとう」
少しだけかすれた声は、いろんな感情が混ざっていて、私の身体の中で、しばらく反響していた……
無事に小傘の協力が得られた主人公。
はたして彼は、フランとレミリアを良好な関係にすることが出来るだろうか――