九十三話 狂気との遭遇
そして、彼女も登場します! さて、これで舞台は整いましたよ!!
わたしは、運命って言葉か嫌い。
あいつが口癖のように言ってるからかもしれない。もっと深い理由があったからかもしれない。
だけど時折わたしは、わたしでさえよくわからなくなってしまう時がある。その時に頭か、心がすり減ってしまう。そうなると、今まで考えていたこととか、思っていたことの一部が壊れて、訳がわからなくなってしまうのだ。
でも、ちゃんとその理由は覚えてる。
嫌なのだ。まるでそういって言い訳しているようで。あるいは諦めるようで。
とにかくそういう響きがするフレーズだから、わたしはこの言葉が嫌い。
そんなものだから、わたしは四百年以上の時間を、できるだけ外に出ないようにして過ごしてきた。まあ、それを容認してくれたことに関しては、あいつに感謝してもいいかもしれない。
それでも――全部見透かしたフリをして、運命などといって、全部初めから諦めたような口調のあいつが、許せなかった。
ここ最近は、あいつに仕えているというメイドがここにやってきて食事を渡すようになっている。……咲夜という名前の彼女自作の食べ物は、結構おいしい。実は毎日の楽しみだったりする。
彼女の目は淡々としていて、特にわたしについて思うことはないみたい。でも、おいしいと言って私が笑うと、表情にはほとんど出ていないが、その目はとても嬉しそうにしていた。素直じゃないだけなのかもしれない。
外の廊下に、何かが落ちる音がした。カラン、コロンと軽い音を立てて、こちらに転げ落ちてくる。
今日は気分が良いので、外に出て拾ってあげることにした。もしかしたらメイドがドジの一つでもやらかして、困っているかもしれない。
扉にかかっている魔法の目を握り潰して、わたしは扉を開いた。そこには、この館の雰囲気をぶち壊すような格好……青い作務衣を身に付けた青年がいた。
もう一度言う、わたしは運命が嫌いだ。
それでも……これだけは言える。
何もかも見透かすような、透き通る目をしたこの人との出会いは、運命だったって。
***
その日、彼は紅魔館の図書室にいた。
そこの本が目当てなのではない。そこにいる人物たちと、図書館その物を描くためにそこにいた。
ちなみに小傘は、絵について勉強したいらしく、真面目に本を読み漁っていて、珍しく参真の声が届かないほどの集中力であった……のだが、途中から疲れて、今は眠ってしまっている。
一人になってしまっていたが、特に気にすることもなく、秘書の子と図書館にいた魔女の姿を描いていく。
「にしても、面白い力の使い方ね。私の精霊魔法と方式が似てるわ」
「うーん。専門的なことはよくわかりませんが、珍しいとは言われましたね」
「精霊との接し方が違うのよ。例えるなら、私は契約に近い。対して、あなたは隣人ね。あなたの場合、条件がそろったりしないと使えない上、相手に無理はさせられない。けど、使った霊力に対して、得られる力の効率のよさはトップクラスよ。私の方が若干燃費が悪いけど、安定して力を使えるということね」
どうやら彼女、パチュリーは魔法の専門家らしく、精霊魔法? の方向から参真の力を解析してくれた。それによると、方式が似ているらしい。
「もしかして、僕も火とか雷も使えるんですか?」
「少なくても私は使えるから、多分いけると思うわよ」
あまりイメージできない方向性ではあったので、使うのを控えていた属性……火と電気。
パチュリーによれば、それも使うことができるようだ。
「……ここでは試し打ちしないでよ」
「しませんよ。ちゃんと外でやりますから」
「その時は、火の用心! ですよ!」
「はは、水のスペルカードで消火しますよ、こぁさん」
談笑しながら、参真は二人分の絵を描き上げた。彼女たちは満足そうに頷く。
「さて、この図書館も描こうかな」
「「えっ」」
「えっ? 何かおかしなこといいましたか?」
疑問の声を発した二人に、参真もまた疑問を返す。
「こんなところ描いて、何が楽しいのよ……」
「あはは……本当に絵を描くのが好きなんですね……」
「……そんなに変かなぁ? こういう場所は細かい物が多いから、いい練習にもなるんですよ」
そう言って、彼は本の樹海を潜り、奥へ奥へと足を運んでいく。と、暗がりにさしかかった時だった、
うっかり手を滑らせ、手の中から鉛筆が転げ落ちる。「あっ」と思った時はもう遅い。そのまま隠すように佇んでいてた、地下への階段に吸い込まれていく……
軽い音を反響させて、下の方へと落ちていったそれを、参真は拾い直そうか迷った。一応替えのある道具だが、こちらの世界では貴重品でもある。少々その場で考えたが、結局拾い直すことにし、彼もまた地下へと降りていった。
「あれ? 咲夜じゃないの? あなたはだあれ?」
「えっ……!?」
そこには、何故か人が――いや、背中に翼のようなものがあるから、人間ではないだろうが――とにかく、初めて会う人物がいた。
紅を基調とした服に、紅い瞳。見た目は幼く、可愛らしいという言葉が似あいそうな女の子だ。どうして紹介してくれなかったのだろうと、内心レミリアに毒つきつつ、参真はとりあえず、自分のことを話すことにした。
青年説明中……
「参真って言うんだ! 私はフランドール・スカーレット フランって呼んで。それで、これはあなたの?」
「ああ、そうだよ。僕が絵を描くための道具でね……」
返してほしい。と告げようとしたところ、少女は何か考えるような動作のあと、
「ねぇ、私も何か描いてみていい?」
意外なことに、何か描きたいと言ってきた。……そう言えば誰かに何かを描かせたことはなかった。幻想郷の住民は、描くことには誰も興味を持っていなかったようである。
故に参真にとっては新鮮な反応で、それでいてこういった申し出にどう対応すればいいかは、よくわかっていない。が、
「いいよ。何か好きなものを描いてごらん」
「やったぁ!」
せっかくなので、彼女にも何か描かせてみることにした。誰かに指導したことなどないが、少女がどんな絵を描くのか興味が湧いた。
……と言うのも、子供は時に、大胆な発想で絵を描くことがある。自分の思うがままに世界を表現するためなのか、外から見たら思いもしないことを描いていることがあるのだ。
(子供の絵って、時々すごいのが出てくるからね……楽しみだ)
自分の子供っぽさを棚に上げて、勝手に参真はそんなことを思った。……しかしここで、妙なことに気がつく。
「スカーレット? となると、君はレミリアさんの姉妹なのかな?」
「そうだよ! アイツの妹なの」
実の姉を『アイツ』呼ばわりしたのを、つい咎めようとしたが……レミリアが自分に紹介しなかったことを考えると、姉妹の仲が悪いのかもしれない。あるいは――助言してくれるまでの兄との関係――言いたいことはあるが、距離を置いているというのも可能性としては十分にある。
「いくつ離れてるのかな? もしかして100歳ぐらい?」
地底の姉妹と全く同じ年数を言ってみたが、少女は笑って、
「そんなに離れてないよ。5歳違いだから」
「……吸血鬼って生まれる年数が短いのかな」
「わかんない。私はこの館から出たことがないから」
さとりたちの言葉を当てにしたのがまずかったか? 全く見当違いの年数が出てきた。にしても、外の世界を知らないというのは少々特殊な気がする。狭い世界に閉じこもっているという、やや強引な解釈をすれば、参真とフランは似たもの同士ということになるのだろう。
「出たことがない……か。出ようとは思わないの?」
「……出ても、見られるだけだよ。だって今も――今も今もいまもイマもい魔もいマも目が芽がメガめガ――!!」
「っつ!? フランちゃん!?」
ほとんど唐突に、鉛筆と紙を落として、少女は両手で頭を抱えた。たちまち顔が歪み、苦しそうに呻く。
何事かと駆け寄るが、吸血鬼の力は強く、あっさりと参真は弾き飛ばされてしまう。うちどころが悪かったのか、視界が白黒に染まった。どうやら頭を強く打ったらしい。意識が遠のいていく中――
「見るな! 視るな!! ミるな!!! みるな!!!! ミルな……!!」
狂気を孕んだ怒声と共に、彼女は両手を壁などに向けて、握りしめる。たちまちフランが手を向けていた方向にあるものは、砕け散ってしまった。
「アハ! アハハハハ!! アハハハハハハハハハ!!! ワタシヲミルメナンテ、ゼンブニギリツブシテヤル!!」
意識が閉じる前、頭に響いた笑い声は、
何故か彼女の、悲鳴に聞こえた。
絶賛狂気モードの妹様。しかも唐突に狂気モード突入というね。だがそれがいい。狂った吸血鬼なんて最高じゃないかっ!!(オイ)
ええ、作者は間違いなく中二病です。でも小説ってある程度中二要素を含んでいた方が面白いと思うの。(←言い訳乙)