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九十一話 二人の夜

今回は甘めのつもり。恋愛経験ない作者にはこういうのよくわからないんや……

 緊張から解放され、参真は与えられた客室へと戻る。

 小傘が笑顔で出迎え、どうだったと色々聞いてきた。

 プレッシャーこそ凄まじかったものの、比較的常識人だと判断する。見た目は幼いが、そら恐ろしい圧力であったと告げておいた。


「いいなー私も会いたかったな~」

「いつか会えるよ。時間はあるんだし」


 この館に参真が滞在する以上、彼女も一緒にいることになる。となれば、自然と遭遇する機会はあるはずだ。そう難しいことではないだろう。


「さてと。今日はもう寝ようか。疲れちゃったし、久々のベットで――」


 そこまで言って……参真はあることにようやく気がつく。それは――


「一つのベットに、枕が二つ……!?」


 そう、この部屋には大きなベットが一つしか存在せず、そこに枕が二つ並んでいたのだ。今の今まで気がつかなかったが、これはつまり――


「一緒に寝ろ……ってこと!? 毎回!?」


 まさかの事態に、非常に焦る参真。彼の大声で、小傘も事態を把握したのか、顔を真っ赤にしている。


「は、はうう! ご主人さまと……一緒に寝る……」


 初めて出会った時以来、別々の寝床で夜を明かしていた二人にとって、同じ布団で一緒に寝るなど、普段では決して考えられない状況である。しどろもどろになる二人であったが、小傘の言葉で事態は収束することになる。


「そ、その……ご主人さまは……一緒に寝るのイヤ……?」

「べ、別に……嫌じゃ、ないけど」

「ならさ……早く寝ちゃえば大丈夫だよ! ね! き、きっとそうだよ!!」

「そ、そうかな……でも寝ない訳にもいかないしね……」


 やむを得ずと言う形で、二人は同じベットの中に潜る。

 お互いに顔が赤いのが、嫌でも分かる。参真としては小傘は家族であり、こうして寝るのはやぶさかではない。ないのだが……それでも、すぐ隣で異性が眠っているというシチュレーションは、とてもじゃないが落ち着いていられるものではないのだ。

 それは小傘も同じらしく、時々もぞもぞと動いてはこちらに視線を向ける。参真も同じような動作をしているので、お互いに目があった。

 すぐさま、恥ずかしくなって視線を逸らす。

 そしてまた気まずい沈黙が流れ、お互いにお互いが気になりだし、また視線を合わせる――の繰り返しで、全く眠れる気配がしない。


「……羊でも数えようかな」


 ぼそ、と呟いた参真の言葉を、小傘は聞き逃さなかった。


「なにそれ? おまじない?」

「に、近いね。羊の数を数えていると、いつの間にか眠れてるそうだよ。効果がない人もいるみたいだけどね」


 言いながら、長男が、「この前一万数えたが眠れなかった。数えるのをやめたらすぐに眠れた」などと言っていたことを思い出し、吹き出してしまった。何かと兄は色々と「失敗」する人であったが、こんな些細なことでさえ成功できないという、全くもって不思議な性質の持ち主であった。そのことを小傘にも教えてやると、


「ご主人さまのお兄さんって、面白い。できれば会ってみたいけど……」

「難しいね。真也兄さんは死んじゃったし、生きてる二番目の兄さんは、外の世界で医者として飛び回ってるだろうからなぁ。僕と違って、幻想入りなんてまずあり得ないよ」


 それこそ、大失態でもして追放されない限り、次男が幻想入りしてくるのはまず無いだろう。しかし外の世界で、参真が家出する前から『神童』と評されるほどの才能の持ち主の兄が、失態を犯すという光景は、どうしても浮かばなかった。


「そっか……ねぇご主人さま。一つ聞いていい?」


 そわそわとしたまま、小傘が参真の表情を窺うような顔つきで話す。参真はもちろん。と言った。そして、彼女の口から出てきた言葉は――


「ご主人さまはさ、私のことどう思ってる?」

「……あれ、言ってなかったっけ?」


 既に何人もの相手から、似たような質問をされたから、てっきり小傘にもしたものだと思っていた。


「小傘ちゃんは……そうだね、大事な家族みたいなものだよ。絶対に手放したくない」


 相手の正面からこんなことを言うのは恥ずかしかったが、目をそらしては気持ちは伝わらないと思い、真っ直ぐ少女の瞳を見つめながら言った。

 すると、元々赤らめていた頬にさらに朱が差したものの……彼女はどことなく、残念そうな表情を作る。


「私とは、ちょっと違う気持ちなんだね」

「えっ……小傘ちゃんは違うの?」


 新鮮な小傘の反応に、参真は興味を抱いた。


「うん。大事なのは同じなんだよ? 同じなんだけど……私はもっとこう、難しい理由じゃないというか、もっとこう、ご主人さまといると胸がじんわりあったかくなるからというか……ごめんなさい。上手く言えない……」

「へぇ」


 不覚にも、こうしてしどろもどろになる小傘のことを、すごくかわいいと思ってしまった。決していじわるしたいという意味ではないが、その姿はただただ可憐で――まるで、恋する乙女のようであった。


(あ、あれ……? 僕は何を考えているんだ!?)


 らしくない思考に、参真本人も戸惑う。確かに小傘は可愛いが、決して手を出そうなどとは考えていない。本人もそれは望んでいないはず……


(だ、だから、さっきから僕は何を――)


 顔が熱い。心臓が早鐘を打っている。今まさに彼は、『家族として』ではなく、『一人の異性として』多々良 小傘を見ていた。


(う、うわ……なんだこれ……!)


 感情が渦のようにうねりを上げる。

 無意識に溜めこんでいた小傘への想いは、想像以上に大きなものだったらしい。彼女に触れたいのに、同時にそれを強烈に拒む。いろんな色の感情が混ざり合い、何なのかが全く判らなかった。

 などと、参真が一人悶々としている間に――


「……すぅ……すぅ……」


 穏やかに胸を上下させて、健やかな眠りに落ちている小傘。何も喋らずにいてヒマになってしまったのだろう。その僅かな隙に睡魔は忍び寄り、彼女を眠り姫に変えていた。

 起こすのも悪いし、自分も寝ようとする。が……先ほど以上に意識してしまって眠れない。


「し、仕方ない……レミリアさんでも描きに行くか……」


 今はまだ夜も深い。吸血鬼なら間違いなく起きているだろう。小傘を起こさないようにベットから出て、彼は道具を持って部屋を出ていってしまった。

 そうして自分の感情を、誤魔化してしまったことに気がつかないまま。


 感情って、急に猛烈なのが襲いかかってくることってありません? で、それが時たま制御できなくて、大変なことになったりするんじゃないんでしょうか。今回の参真はそれをイメージしています。 

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