九十話 紅い月との邂逅
ついにおぜう様登場です。
参真たちが紅魔館へとたどり着いてから、ずいぶん時間が経った。
既に太陽は沈み切り、夜の帳は降りている。
参真と小傘は案内された部屋で待機しているのだが、いつまでたってもお呼びの声がかからない。咲夜は夜になったら呼んでくれると言っていたのだが……
「ご主人さま~おそいね~」
「そうだね」
彼らはこんな感じで、声を発しては黙り込むの繰り返しで時間を潰していた。絵を描くことも考えたが、それだと急に呼びだされた時に困ると思い、自重している。
「何かあったのかな~?」
「の割には静かだから、なんてことないと思うよ」
「そっか~そだね!」
廊下に出て、妖精メイドとでも適当に話をしていようか?
この館には妖精がメイドとして雇われており、館のあちらこちらで働いている。妖精に好かれる性質を持った参真なら、邪険にされることもなく会話することが可能だ。
「廊下に出て待ってようかな?」
「いえ、その必要はございません。大変お待たせしました」
「ひゃう!?」
唐突に現れた咲夜さんに驚かされつつ、ようやく吸血鬼に会えるのだと胸が高鳴る。一体どんな人物なのか、想像するだけで期待に胸が膨らんだ。咲夜のような能力者を配下に出来るのだから、それはそれはすさまじいカリスマ性を持った人物に違いない。
「よし……じゃあ案内お願いしますね」
「お任せを……それと、小傘様はここでお待ち下さい。あくまで、参真様のみと会いたいと仰せです」
「えぇー!?」
不満そうにしながらも、小傘はしぶしぶ承諾して、部屋に残った。参真としても残念だが、同時に何故と疑問も浮かんでくる。そんな心情を見透かしたように、咲夜は参真に理由を話した
「お嬢様によると、『ハチャメチャになる運命が見えた』とのことです」
「運命……? 未来予知みたいなものですかね?」
「近いです。お嬢様は『運命を操る程度の能力』を保持していらっしゃいます。運命を見通すことで、未来予知に近いことも可能です」
「……こっちの住人は、規格外が多いですね」
最も、参真も既にただの一般人の領域から外れている人間なのだが、本人はそのことを全く意識していない。
「それが幻想郷ですわ……さあ、この扉をくぐってください。そこに我らが主、レミリア・スカーレット様がお待ちになっています」
ごくりと一つ、生唾を飲んで彼は扉を開ける。果たして、その先に待つ人物とは――?
まず目に飛び込んだのが、背中に生えた異様な翼だ。蝙蝠のような羽は、いかにも人外じみている。
瞳は赤く、魅入られるような……けれども同時に威圧されるような印象を受ける。
体つきは幼いが、放つ気配は見た目のそれではない。優雅にかつ傲慢に椅子に腰掛けながら、強大な気配を発していた。
「――初めまして」
残念ながら参真はこういう時、どのような言葉遣いをすればいいのかを知らない。本当なら適切な敬語を使いたいぐらいなのだが、習慣から外れた言葉は、とっさに出てきてくれなかった。
「ふふ、ずいぶんフレンドリーな挨拶ね?」
「申し訳ない。こっちの分野は勉強不足なもので」
「その話し方を許すわ。そのまま何も喋らず呆然としているよりはマシだもの」
これが、吸血鬼。
戦わずとも、実力差は明らかだ。本気を出されたら、参真程度はあっという間に屠られてしまうだろう。底知れぬ恐怖が身体を蝕もうとしたが……参真は平気だった。
――もっと恐ろしい物を、かつてその身に体験したから。
「貴女が、レミリア・スカーレットさん……ですね」
「その通り。さんづけで呼ばれるのは久々なものだけれど。お前は西本 参真でよかったか?」
「はい。幻想入りしてきた絵描きです。して、今回はどんな用件ですか?」
挨拶もそこそこに、参真は最大の疑問を彼女に訊ねた。
「そうね……今日は気分がいい、特別に教えてあげる。それは、『お前の運命を操作した覚えもないのに、運命操作が出来なかったから』……よ」
参真は戦慄した。知らぬ間に、運命を操作されそうになっていたらしい。
「私は運命を操れる。だけど、それは一人の相手に一回きりのみ。さらには一度運命を操った相手からは、運命が見えなくなってしまう。
だが、お前の運命は、限定的であるとはいえ見ることはできた。だから操作できるはずなのだけれど……できない」
「それは、今もですか?」
「ええ」
それで興味を引いてしまったらしい。なんとも身勝手な理由のように思えるが、彼女は至って『自然』な様子であった。
「ついでに言えば、見える運命はすべて絵に関係することばかりだったわ」
「それは……いかにも僕らしいですね。描くの好きですから」
「なら、私たちの絵を描いてもらえるかしら? ある程度この館に滞在してもらって、自由に描いてほしい。私たち紅魔館の住人の様子を、思う存分に」
「もしかして、そちらが本当の理由ですか?」
「まぁね」
行儀悪く椅子に肘をつけながら、そっけない態度で彼女は言う。――何故かこの態度は少々『不自然』に見えたが、参真は彼女の依頼を受けることにした。
彼女たちは誰もかれも魅力的である。絵にすれば間違いなく映えるほどだろう。これを逃す手はない。
「喜んで受けます」
「決まりね。食事や身の回りの世話は咲夜に任せるから、何かあったら言ってちょうだい」
「お世話になります」
ペコリとその場で頭を下げて、参真はその場を去る。
彼は知らない――
この時点で――「フランドール・スカーレット」との遭遇が、運命で決められていたことに。
という訳で、カリスマ全開なお嬢様をイメージして書いたらこうなった。なんだろ、レミリアっぽくないなぁ……やっぱりカリスマブレイクするシーン入れた方がいいんだろうか?
能力云々はオリ設定です。真に受けないでくださいね。
まー元々強大な能力だし、個人的に言わせてもらえば、これぐらいの制約ないとチートだと思うの。というのが本音です。
あ、次回はちょっと遅くなります。