八十九話 図書館と魔女
紅魔編は順調だなぁ……今までの不調が嘘みたいだ
「わぁ……」
本日何度目かの、感嘆の声を小傘は洩らした。
あのあと荷物整理を終えた参真たちは、咲夜によって紅魔館内部を案内され、最後に図書館へとやってきていた。中には、とても読み切れそうでないほどの量の本が、きちんと整理されて置かれている。
「調べ物などは、ここでだいたい済ませることができますわ。ただし、魔道書関連は保証しかねますが」
「理由を聞いても?」
「時々、魔理沙がやってきて本を借りていくんです。本人曰く、『死ぬまで借りてくぜ!』といって」
「うわぁ……」
参真の中で、ますますイメージが悪くなる魔理沙。困った人だなぁと、同情はしておいた。
「写真集とか、図鑑とかなら見るかもしれないですね。それを元に描いたりとか」
「なるほど……連れの方は……」
「多分読まないと思うよ。一緒にはいると思うけど」
辺りを適当に動き回っている小傘。とても一人でゆっくり読書をする……という性格ではないことは明らかである。
その様子を見てか、はたまた以前から疑問だったのか、咲夜は参真にこんな質問をしてきた。
「気になったのですが、お二人は主従関係でよろしいのでしょうか。失礼ですが、ずいぶんと小傘様は自由になされているように思われますが……」
この人は根っからの真面目な人らしい。どこか安心感を覚えながら、苦笑気味に参真は答える。
「僕としては、かたっ苦しい関係は望んでないんですよ。彼女らしくいてくれて、一緒にいてくれればそれでいい」
「……もしかして、恋人でしょうか?」
「僕は恋とかよくわからないけど……周りからはそう見えるみたいですね。僕としては、大事な家族のようなものです」
咲夜さんはどこか納得していないようだが、しかしどうにか自分たちの関係を飲み込めたようだ。
「「わああ!?」」
と、あちらこちらを移動していた小傘が、本棚の陰から出てきた少女と激突した。ごてーんとその場に二人とも倒れ込む。
「大丈夫!?」
「大丈夫でしょうか?」
参真は小傘に、咲夜は赤い髪の女性の方にそれぞれ駆け寄る。
「う、うーん……」
「小傘ちゃん、入れ替わったりしてないよね?」
「あはは、そんなこともあったね~今回は大丈夫みたい」
いつも通りの小傘に一安心し、激突してしまった少女の方にも足を運ぶ。
「いたたたた……図書館ではお静かに、ですよ!」
「ごめんなさい。大丈夫?」
「はい! こぁは頑丈なのが取柄の一つですから!!」
頭にたんこぶをこさえながらも、にっこり笑顔で彼女は返事をする。特に大きな怪我もなさそうだ。
「こぁ、何をしてるの?」
「パチュリー様!」
騒ぎを聞きつけて、もう一人少女が現れた。こちらは紫色の……パジャマのような服装をした少女である。色白で、なんとなく気だるそうな空気を各所から振り撒く彼女に、参真は不健康そうなイメージを抱いた。
「あら、咲夜……と、その子たちは?」
「お嬢様に連れてこいと命じられた方です。そちらの青髪の女性は、彼の従者だそうですよ」
「西本 参真といいます。えっと、パチュリーさんでいいんでしょうか?」
「その呼び方でいいわ、こっちは小悪魔。こぁって呼んで頂戴」
「よろしくお願いします~」
軽く自己紹介を済ませる四人、ちなみに、細かい補足説明は咲夜してくれたので、スムーズにお互いの情報を交換できた。
「にしてもその服装……ミスマッチね」
「ああ、やっぱり? 僕も浮いてるなぁと思っていたんですよ」
現在参真が着用しているのは、青の作務衣である。洋風な作りで赤を基調としたこの館とは、何もかもがすれ違っていて、正直大丈夫なのか、不安でしょうかない。
「まぁ、お嬢様もその辺いい加減な所がありますから、問題ないかと」
「咲夜がそう言うなら間違いないわね」
「本当かなぁ……」
館の住人達からお墨付きだが、それでも心配である。
その不安を吹き飛ばすように……
「ねぇねぇご主人さま! あんなとこに地下への階段があるよ!」
「そ、そこには行っちゃだめです! 関係者以外立ち入り禁止ですよぉ~!!」
小傘は相変わらずはしゃぎっぱなしで、小悪魔が振り回されてる。仕方ないなぁと思いながらも、今度小傘に注意しておこうと、呑気に思った参真であった。
今回もスラスラと出てきました。作者の都合上、なんとか四月までには終わらせたいところ……!