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八十七話 尽きた鉛筆

今回は長めです。調子に乗って書いてたらこうなりましたw

「あ、鉛筆がもうない」


 ある日、いつも通り絵を描いていた時、気がついたことだ。

 こちらにきてからそれなりの枚数を描いたせいか、愛用している鉛筆の内、HB鉛筆がなくなってしまった。消耗品故仕方がないことではあるのだが、ないと非常に困る。特にHB、B,2Bの消耗がひどい。このままだと、他の濃さで無理矢理描くような形になってしまう。正直死活問題といっていい。


「道具屋においてあるかな」

「わかんない。でも人里に入ることになるよ? いいの?」

「う~ん短い時間なら平気だけど……」


 参真のトラウマの引き金は、『不自然』な状態の人間との接触だ。他には哄笑している人間などもNG。また、視線が集中するのも苦手で、いかにも人間が多数いそうな「人里」など、出来れば立ち入りたくなかった。


「それなら香霖堂に行ってみる?」

「香霖堂? そういえばリグルって妖怪の子に紹介されたかな」


 確か、『外の世界の道具も結構置いてある』と言っていた気がする。鉛筆は現世の道具だろう。と考えると、置いてある望みはありそうだ。


「行ってみようか。場所は分かる?」

「魔法の森の近くだよ。ここからそんなに遠くないし、このまま行く?」


 参真は頷き、小傘は微笑んで彼の前を行く。

 ……あの日、過去を打ち明けてから、小傘は妙に気を使ってくれるようになった。今の笑みも僅かに『不自然』に見える。参真の負担を考えれば、常に自然体でいてくれた方が嬉しいのだが、気づかいを無下にするのも悪い。

 となると、参真の動作はぎこちなくなり、それを見てますます小傘が気を使う――という、悪循環にはまってしまっていた。


「あのさ」


 どうにかしようと声を発する。しかし具体案は何もない。


「ん~何~?」

「……小傘ちゃんは、どれぐらい一人でいたの?」


 ……我ながら最悪だと思う。参真は自身に悪態をつきたくなった。これではまるで、この前の意趣返しではないか。しかし、自分の過去を聞かれた際、彼女の過去も気になったのも本当だった。


「けっこう長いこと一人だったよ。ご主人さまがのおかげでそうじゃなくなったけど」

「……ごめん」

「いいよいいよ。今は楽しいから」


 気まずい。非常に気まずい。

 いかんせん参真は口下手である。一人山に籠って絵を描いた代償は、コミュニケーション能力をことごとく低下させるというものだったらしい。それ以前も、他人を顧みない姿勢でいたせいか、こういう時何の話をすればいいのかわからない。


「そ、そうだ好きな食べ物とかある?」

「ご主人さまの感謝の心だよ。すっごく温かくて美味しい」

「ああ、そっか……」


 うっかり彼女が妖怪であることを忘れて、食事のことを聞いてしまった。視線を泳がせてどうにか話題を探す。


「じゃあね……えっと……えっと……!!」

「あはは! 無理しなくていいよご主人さま!!」

「いや、でも……」


 普段絵を描いている時もだんまりだし、こういう時に話さないとお互いのことを知れない。そう思って会話をしようと努力したのだが……


「私は、喋ってなくてもなんとなく心が伝わるから、話さなくても大丈夫だよ。不安に思ったかもしれないけど、平気だから」

「……そう?」


 だからと言って今ここでだんまりしていたくはない。それでは今までと同じことの繰り返しのような気がして嫌なのだ。けれども、そこで小傘が、


「私は、ご主人さまのそばにいるだけで十分幸せだよ」


『自然』な笑顔で告げられて、参真は硬直した。


「それに、静かに二人でいるの、嫌じゃないよ。絵を描いてる時も、すごく透明な目をしてて、綺麗だし。いつも私は見つめてたんだけどな~」


 全く気がつかなかった……それだけ集中しているのだろう。

 そうこうしている内に――建物が一つ見えてきた。どうやらここが香霖堂らしい。第一印象は、『浮いている』と言うのが本音だ。

 外には古い洗濯機や、色落ちがひどくすり減ったタイヤに、液晶の壊れたテレビなどがころがっていて、知らなければ店だと思わずに通り過ぎてしまうかもしれないような状態であった。


「店主さんヤル気あるのかなぁ……」


 碌に整理が出来ていないのを考えると、正直怪しい。それでも立ち去ろうとは思わなかったのは、同時に希望も十分にあったからだ。こうして外の世界の道具がおいてあるのだから、鉛筆ぐらいはあってもおかしくない。期待と不安に揺れながら、青年は香霖堂内に足を踏み入れた。


「おや、いらっしゃい」


 気さくに話しかけてきた店主は、メガネを掛けている若い男であった。

 店内には乱雑に様々なものが置いてあり、本当に店なのかますます怪しくなる。


「ん? その子は……」

「ど、どうも」


 小傘もペコリと頭を下げ、辺りを見渡しながら入ってきた。もしかしたら入るのは初めてなのかもしれない。


「僕の連れです。妖怪ですが、悪い子じゃないですよ」

「ああ大丈夫。ここは人妖問わず利用できるからね……一ついいかな」

「はい? なんでしょう?」

「間違ってたらすまないのだが、君はもしかして『参真』君かい?」

「……そうですけど」


 いきなり名前を当てられ、戸惑う参真。警戒する気配を見せた参真に、彼は苦笑しながら告げる。


「いや、魔理沙から噂を聞いてたんだけど、本当に普段はおとなしいんだね」

「あの人、僕のことをなんて?」

「『絵がうまくて、妖怪を連れまわす変わり者。のんびり屋だけど、怒らせるとやばい』だそうだ」

「あれは魔理沙が悪いよ! 私に向かってマスタースパーク撃つんだもん!!」


 小傘が頬を膨らませながら、店主に抗議する。どうもこの店主は、魔理沙とある程度関わりがあるらしい。


「まぁ、君たちの仲にともかくいうつもりはないよ。ところで、何か求めてる品があるのかな」


 彼が本題を振ってきた。もちろん、欲しいものは明確に決まっている。決まっているのだが……そこで彼はある問題に気がついた


「あの、鉛筆を探してるんですが……まいったな。お代がない」


 頭を掻きながら、参真は正直に喋った。出ていけと言われるのも覚悟して。


「ふぅむ……鉛筆の在庫自体は山ほどあるよ。しかしどうして……ああ、君は絵を描く人間だったか。それに使うのだね?」

「ええ、まぁ」

「よければ見せてもらえるかな。気に入った物があれば買い取るよ」

「……いいんですか? そんなので?」


 予想以上に寛容どころか、願ってもない申し出に参真は目を丸くした。まずはみてみないとわからないと店主が言うので、参真はスケッチブックを差し出す。

 査定が終わるまでの間、参真と小傘はそわそわとしながら、店主の次の言葉を待つ。果たして鑑定の結果は――


「……すごいね。これは。どの絵もよく描けている……何枚か欲しいが、それでは鉛筆程度では申し訳ないぐらいだよ。おまけで何かつけるから、売ってくれないかい?」


 かなりの高評価をいただいた。その自然な表情での評価は、素直に嬉しい。


「え、えっと……じゃあ何か保存の利く食料とかあります? あと消しゴムも」

「消しゴムも問題ないよ。食料か……それならレーションとかどうかな?」


 二人は順調に、交渉を進めていく。最終的に参真は5枚の絵を売り、かわりに不足していた鉛筆、予備の消しゴム、さらには、しばらくの間困らない量の携帯保存食を購入した。


「まいどあり! 定期的に来てくれると嬉しいな。その時にまた何枚か買い取るよ」


 彼は参真を気に入ってくれたらしい。こちらとしても、鉛筆と消しゴムの心配をしなくていい上、食料まで手に入るのだからいい取引だ。今後もここを利用しようと決め、店主に一礼して去ろうとしたその時だった。

 ガラリと扉が開かれ、新しい客が入ってくる。


「いらっしゃい。おや、咲夜さんか」


 ……彼の目の前に、いかにも古風な『メイド』が立っていた。


 ようやく咲夜さん登場! ずいぶん前の紅魔館フラグをようやく回収できました。

 これが、最後のシナリオです。気合入れていきますよ!

 ああ、今まで以上にオリ設定や伏線の仕込み、及び発動などが多くなります。気をつけてくださいね☆

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