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ミヤコワスレ




 俺の手を取ってくれるなんてびっくりだ。

 チューリップを受け取った高齢の女性と声が重なる。

 老いらくの恋。

 相反する性質。

 そもそも敵視されているか、もしくは視界に入ってすらないのではないかと思っていた。

 戦々恐々。

 当たって砕けろ。

 その精神で愛の告白をした。

 無視をされるか、最悪、殺されるだろうと思っていたのだが。

 まさか手を取ってくれるとは。

 未だに夢ではないかと疑っている。

 眠りに就いて目を覚ましたその時に、実は手を取ってもらっていなかった、いいや、そもそも愛の告白すらしていなかったのではないか。

 そう、

 疑ってしまうのだ。











 春の花を閉じ込めたこの村は常ならば数え切れないほどの色で満ち満ちているのだが、今は一色、白だけに染められていた。


「いやあ。だめだよ。だめだめ。欲張っちゃいけない。あんたが貰える花は一種類だけって決まってんだよ。な。だから。雪の中に飛び込んで雪の下に眠っている花を獲ろうとするんじゃない」

「………」

「こらこら。そんな可愛い膨れっ面と膨れ身体してもだめだ。いくら愛らしくたって俺は絆されないからな。ほら。寒いだろう。そんなに雪塗れになって。タオルで温めてやるから来いって。そんで。一種類だけでよしとしてくれ」

「………」

「ああ。ああ。言いたい事は分かってるよ。色々な春の花をいっぱい持って帰りたいんだろ。あんたに米をくれたやつは春の花が好きだったんだろ。だから、あんたに米をくれたやつが帰って来た時には、いっぱいの春の花で出迎えてやりたかったんだろ。その気持ちは尊重したい。だが。悪い。だめなんだ。この村の決まりだ。俺がこの村に迷い込んだ生物に手渡せる春の花は一種類だけなんだ。諦めてくれ」

「………」

「もうよせ。な。分からないが。これ以上、雪の中に勢いよく突っ込み続ければ。あんたは多分。消滅してしまう。輪廻転生の輪に還れない。あんたが会いたがっているやつとも本当に二度と会えなくなっちまう。な。後生だ」

「………」

「………ああ。分かった。なら、一種類だけ。あんたが花を選ぶ。それで堪忍してくれ。俺が譲れるのはそれだけだ。いいか?」

「………」

「よし。じゃあ。ちょっくらこの雪を三十秒間だけ消す。悪いな。短くて。本当はこの雪は解消すべきじゃないんだ。それを無理して解消する。村の理を捻じ曲げる。あんたも俺もどうなるか………ああそう。脅しても気持ちは変わらないのか。よし。分かった。じゃあ俺も腹を括る。その前に、ほら。来い。タオルで雪を拭わせてくれ。よし。よし。よく頑張った。根性を見せた。すごい。すごいな。俺も頑張るから、無事に生き残ったら褒めてくれよ」

「………」

「よし。じゃあ。目をかっぴらいておけよ。三十秒間だけだからな」




 虎は一羽の雀を自身の傍から離れさせると、両手を広げては、深呼吸を三度繰り返してのち、息を止めて力を放出させたのであった。











(2026.4.7)




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