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レンゲソウ






 入れ替わり立ち代わり生者も死者も迷い込む春の花が閉じ込められたその村で、おまえはたったの一人で過ごし続けなければならない。

 永遠とも呼べる、長い、ながい時間を、

 おまえの愛しいものが目覚める刻まで、春の花を贈り続けなければならない。

 必ず、

 迷い込んできた生物に春の花を受け取ってもらわなければならない。

 そうしなければおまえは愛しいものが目覚めたとて、再会を果たす事は叶わないであろう。











 春の花を閉じ込めたこの村には、穏やかな気候が流れ、春の花々のほかに植物と言えば常緑樹しか存在していなかったが、例外もあった。

 生物が迷い込んで来た時である。

 今回は、乾いた冷たい風と紅葉が吹き乱れていた。


「呪われそうだから要らないわ」

「いいから遠慮すんなって」

「要らないってば。それより。地獄の長のところに早く案内してよ。鬼」

「は? 鬼? 誰が?」

「あんたよ。あんた。ここ地獄なんでしょ。早く私を裁いてくれるところに案内してよ。鬼」

「あんた。この景色を見てよくここが地獄だと思うな。どう考えても天国だろ」

「天国に似せた地獄でしょ。いいから早く案内してよ」

「………あ~。うん。分かった。ただ、案内する前に俺に話をしてもらう必要がある」

「話って。下っ端の下っ端の鬼に何で話す必要があるのよ。あんたに話す事なんてないわ」

「いいや。話す必要があるね。俺に話さないと案内できない規則だから」

「………嘘くさい」

「このまま疑い続けて時間を無駄にするのか? さっさと裁いてほしいんだろ」

「………妹の看病に疲れて妹と一緒に海に身投げしたの。妹を殺したの。だから私は地獄の長に裁いてもらわないといけないの。ほら。話したわよ。案内しなさいよ」

「いや。無理」

「は? 無理って何よ」

「あんた。死んでないから」

「………死んでない? 私が。妹はっ!?」

「妹も死んでない。そもそもあんたは身投げなんかしていない」

「嘘よっ!!!」

「嘘じゃない」

「………じゃあ。なに。地獄じゃないならここは何なのよ? 天国?」

「天国でも地獄でもない。春の花の手渡し場所。ほら。受け取れ」

「受け取ったらすぐに帰らなくちゃいけないって規則なの?」

「まあ。そんな感じだな」

「………私。本当に。死んでないのね。妹も。本当に。死んでないのね」

「ああ」

「そう………ねえ。手渡す花はあんたが決めてるの?」

「ああ。直感で決めてる」

「そう………私。この花でよく冠を作ってあげたわ。指輪も。妹に。妹は言ったわ。元気になったら私にも作ってくれるって」

「そうか。なら。帰らないとな」

「ええ………ねえ。妹は元気になるかしら?」

「さあ? 俺は神様でも仏様でもないからな。知らない。だが、とりあえずあんたが元気でないといけないんじゃないか?」

「そうね。私が元気でいないと………元気。少しだけもらったわ。少しだけ。ほんのちょびっとだけど。ありがとう」

「俺こそ感謝する。受け取ってくれて」

「………ねえ。もし私が受け取らなかったらどうしてた?」

「受け取るまで辛抱強く待ってた。あんた。物分かりがよすぎるな。もう少し駄々っ子になった方がいいんじゃないか? まあ。素直に受け取ってくれて助かったが」

「冗談じゃない。って。噛みつきたいところだけど。そうね。本当に妹を殺してしまう前に。私が元気になるために。だだっこ。頑張ってみるわ。あんたからもらった花を見て。これ。元の世界でも実在できる?」

「ああ」

「なら。これ見て。あんたを思い出して、脱力しながら頑張ってみるわ」

「っふ。ああ。俺に感謝しながら、生きろよ」

「ええ。さようなら」

「ああ」




 虎は白と赤の斑模様のレンゲソウを受け取った一人の少女を見送った。

 少女の姿が消えると、吹き乱れる乾いた冷たい風と紅葉も居なくなってしまった。











(2026.4.6)




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