表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄予定のはずなのですが、悪行もしていない、没落もしていない、嫌われてもいない?どうやって破棄してもらえばいいのでしょうか。  作者: 織子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/3

Episode1

――煌めくシャンデリア。美しい音楽。色とりどりのドレスを身に纏い、ダンスを踊る生徒たち。

皇都アルガナ魔術アカデミーでは、学年末の慰労パーティーが行われていた。


「キャアァ!」


ルシアナが上を向くと、シャンデリアが降って来た。危うく直撃を受ける所だったが、シャンデリアはルシアナの真横に落ちた。


その衝撃で、ルシアナは自分の運命を思い出した。


ルシアナ・オルテガ。オルテガ侯爵家の長女。ルシアナが知る限り、先ほどのシャンデリアの直撃を受け、死ぬはずだった人物だ。


婚約者のカイゼル・ザカリー公爵令息の、信じられない瞬発力がなければ。


くらくらする頭を手で押さえ、ルシアナは立ち上がった。自分より青ざめた顔をしているカイゼルが、震える手でルシアナを支えている。


「大丈夫か?ルシアナ。怪我はないか?」

「ええ。カイゼル様のおかげです」

「······良かった」

長い息を吐き、カイゼルはルシアナを抱きすくめた。


ルシアナは違和感を感じた。

(おかしいわね。ここが【エリィの真実】の話なら、カイゼルとわたくしは心配するような仲ではないはずなのに)


【エリィの真実】とは、ルシアナが前世で愛読していた小説だ。カイゼルとルシアナは幼い頃からの婚約者だった。しかし2人の間には恋心どころか情すらあまりなかった。アカデミーに入り、カイゼルはエリィと出会い恋に落ちる。つまり、カイゼルは男主人公。ルシアナは主人公を虐めたのち、死んでしまう悪役だった。


(え?わたくしがここで死ななかったら、どうなるの)


シャンデリアが頭上に落ちて来た衝撃より、前世を思い出した衝撃の方が勝っている。自分を抱きすくめているカイゼルを手で押し返して、ルシアナは思案にくれた。


「ルシアナ?」

押し返そうとしたものの、びくともしない体躯。


(あら?また変よ。カイゼルはこんなに筋肉隆々ではないはず)

騎士でもないカイゼルがこんなに筋肉質である必要はない。ルシアナは思わずペタペタと服の上から確かめる。 


カイゼルが堪らず腕を掴む。眉尻をぴくぴくさせ、口元だけにっこり微笑った。


引き攣った微笑みに、ルシアナはすぐに手を離した。

(令嬢に相応しくない振る舞いだったわ)


前世の記憶と、ルシアナとして生きてきた記憶がごちゃ混ぜになり、あやうくフランクに接してしまう所だった。

しかしカイゼルは離された手を不服そうに見ると、ルシアナを抱き上げた。


「カ、カイゼル様?何を」

さすがにルシアナも慌てた。前世の記憶も蘇ったものの、前世でも今世でも男性にお姫様抱っこなどされたことがない。


「怪我をしていてはいけない。医務室へ連れて行くから動かないでくれ」


軽々と運ばれ、ルシアナは最初は慌てていたものの、観念して大人しく運ばれた。


漆黒の髪に、金の瞳。主人公の相手役だけあって、造形がとても整っている。ルシアナは思わず見惚れた。

(睫毛が長いわ)

顔を見つめていると、顎の下に小さな切り傷があった。

(シャンデリアの破片で切ったのかしら?)


自分よりまずカイゼルを診てもらわねば。

顎の傷に手を伸ばす。


「その気安さは、僕だけだろうね?」

ジロリと睨まれ、ルシアナはまた手を引っ込めた。


「もちろんです。だってカイゼル様はわたくしの婚約者でしょう?」

「その通りだ。気安く触れて良いのは僕だけだと肝に銘じてくれ」






医務室に着くと、それぞれ治療を受けた。カイゼルもそうだが、ルシアナも小さな切り傷をいくつか負っていた。

「すまない。僕がもっと早くに動いていたら」

「いいえ!助けていただけただけで感謝しております」

(だってシャンデリアが落ちるまで離れた場所に居たわよね)


あの距離にいて、どうやったら間に合ったのか。


その後、またもルシアナを抱いて運ぼうとするので、丁重にお断りした。これ以上アカデミーをお姫様抱っこで闊歩されては溜まらない。


馬車までのエスコートは断れず、ルシアナとカイゼルは馬車で別れた。

今日から長い休暇に入る。ルシアナは安堵していたが、カイゼルの表情は暗い。


「こんなことがあって心配だから、また会いにいくよ」


ルシアナは返事をせず、笑顔で手を降った。






❉❉❉❉❉❉


オルテガ侯爵邸。ルシアナは自室に戻ると、すぐに侍女を下げらせた。

羊皮紙と羽根ペンを取り出し、覚えている限り出来事を箇条書きにする。


(私が死ぬのは、物語の終盤だったはず)


シャンデリアが落ちる事件は物語の終わり頃だ。

男主人公のカイゼルとルシアナは婚約者だが、当時事業が傾いていたザカリー公爵家と、オルテガ侯爵家で取引された政略婚。その後立場は逆転する。

ザカリー公爵家の鉱山で金が見つかり経営が順調になったのに比べ、オルテガ侯爵家の事業は次々と失敗し、経営破綻寸前に追い込まれた。―そこから、物語の舞台が始まる。アカデミーに入学したカイゼルとエリィが運命的な出会いを果たし、カイゼルはルシアナとの婚約解消を望んだ。


(でも、金銭面で援助を受けてたオルテガ侯爵家はなんとしてもザカリー公爵家との縁を繋ぎたかった。ルシアナもカイゼルが好きだったし) 


それからルシアナはエリィに対し、嫌がらせをしたり脅したり、あらゆる方法でカイゼルから遠ざけようと画策する。


(あのパーティーでは、ルシアナがした悪行が暴かれ、逃げようとしたルシアナにシャンデリアが落ちるのよ)


そして死ぬ間際に、ルシアナはカイゼルとエリィに謝罪する。

嫉妬に狂ってしてしまった。申し訳なかったと。



(カイゼルとエリィは結ばれるけど、何故かカイゼルがオルテガの借金を肩代わりして返済してくれるのよね。おかげで家門の没落は免れたって書いてあったわね。婚約者がいる身でエリィと結ばれたから、罪悪感でも感じたのかしら)



兎にも角にも、物語を正常に戻さねばなるまい。【エリィの真実】は前世のルシアナの愛読書だ。何度も擦りきれるほど読み、もう1冊買ったほど。


(エリィも、カイゼルもどちらも好きなキャラだった。幸せになる2人を見届けれるなんて、なんて役得なの)



書き出したノートを閉じ、ルシアナはベッドに移った。明日から忙しくなる。2人の幸せな姿を目に焼き付けたら、私も幸せになりたい。

(父の事業を手伝って、借金を自分で返しましょう。明日お父様に色々聞かなきゃ····)

記憶が戻ったハードな一日だった。ルシアナの瞼は重く、そのままぐっすり朝まで眠った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ