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婚約者に女性として見てもらえないようなので一縷の望みをかけて五年分の時魔法を使いました

作者: 桃井夏流

ご都合主義ですみません。よろしくお願いします。


私には生まれた時から婚約者が居た。

彼は私の両親の親友の息子さんであり、私より八年前に産まれていた。四人は学生時代から仲が良く、自分達に子供が出来たら婚約させようと話していたそうだ。

だけど先に産まれた当家の子供は男子で、次の年に生まれたフォルマイヤー様も男子だった。


ようやく女である私が生まれた時にはフォルマイヤー様は八つである。八つの子供に赤子の婚約者。可哀想過ぎる。


けれどフォルマイヤー様は私を蔑ろにはしなかった。私をよく抱っこしてくれたらしいし、本を読み聞かせてくれた。お昼寝にも付き合ってくれた。


でもこれって完全に妹枠。分かっていた。分かってはいたのだけど。


「セリスの事、正直どう思う?」

「うーん…凄く可愛いとは思うけれど、ね」

「…そうだよなぁ。お前、俺よりセリスの面倒見てたもんな。気持ちは分かる。でも本人には言うなよ?」

「分かってるよ。大事な女の子である事にかわりはないんだからね」


本人の口から聞かされると、泣きそうになる。仕方ない事だ。赤子から見て来た子を、好きになれる訳が無い。


私は考えた。

もしかしたらそれで縁は途切れてしまうかもしれないけれど。それならそれまでだったと言う事だし。両家の仲に今更亀裂が入る事も無いだろう。


早速私は信頼出来るメイドのマーサに相談する事にした。


「マーサ、私、時魔法を使おうと思うの」

「お嬢さま、ですが時魔法は身体に負担が…」

「それでもよ。必要な事なの。私が五歳成長した時に着られるドレスが欲しいわ。既製品で良いの。悪いけど、サイズがどうなるか分からないから幾つか用意して貰える?」


お母さまにも相談した。その後にどうなるのかわかっているのかと叱られたけれど、このままでは大好きなフォルマイヤー様とは結婚出来ませんと言うと、渋々頷いてくれた。


お父さまとお兄さまには女心が分からないから内緒にしておいて下さい、そう言うとお母さまは笑ったけれど、泣かれるわよーとも言われた。

正直、お兄さまなんか泣けば良い。あんな事お兄さまが聞かなければ私がこんな事をしようなんて思わなかったんだから。


準備中も、フォルマイヤー様は私に会いに来て下さった。


「ご機嫌ようフォルマイヤー様」

「あぁ…どうしたのセリス。ここの所元気が無いね?」


前はフォルマイヤー様が来て下されば笑顔で迎えて、手を握って歩いた。でも、今の私にはそれが出来る元気が出ない。


「もう少しで分かりますから」

「何か危ない事をしてるんじゃないよね?」

「危なくは無いです。結果は分かっていますから。ただ、ほんの一時だけでも、欲しいものがあって」

「何が欲しいんだい?今度持って来るよ」


私はゆるゆると首を横に振った。笑わなければ。今気付かれてしまったら私が欲しいものは永遠に手に入らない。


「今の私では、手に入らないものなんです」

「……セリス?」

「すみません、今日はやっぱり体調が悪いみたいです」

「あ、あぁ。気が利かなくて悪い。今日は帰るよ」

「フォルマイヤー様」

「なんだい?」

「もしも、好きな方が出来たら、仰って下さいね。それはきっと大事な縁ですから」

「何を言って……」

「さようなら、フォルマイヤー様。また、お会い出来る日を楽しみに待っております」


もう、この姿の私で会える日は永遠に来ないですけれど…。



そうして次にフォルマイヤー様が来て下さる前に準備は整った。

フォルマイヤー様が来る前に私は自らの身体の時を五年進める魔法をかけた。

運良くサイズの合うドレスがあって。それは偶然にもフォルマイヤー様の瞳に似たアイスブルーのドレスだった。

伸び過ぎた髪をマーサに切ってもらい、綺麗に結ってもらう。

鏡の前の十七歳の私は、それなりに綺麗な女性だと思う。胸も豊かになって、良かった。

本来なら順に育つ筈だった私を、もう見られない私を少しだけ惜しく思うけれど、仕方ない。


これで手に入らなかったなら、最初から叶わなかった恋なんだ。



「……まさか、セリス?」

「ご機嫌よう、フォルマイヤー様」


呆然と私を見ていたフォルマイヤー様が、珍しく怒った顔をした。


「君は自分が何をしたのか分かっているのか!?」

「分かっております。自分がした事ですもの」

「もう元には戻らないんだぞ!?」

「だから、分かっております。この後自分がどうなるのかも分かっていてやりました」


「どうかマーサとお母さまを責めないで下さいね。私の一生に一度の我儘、は昔使いましたから、最後の我儘だと思って下さい」


何故かフォルマイヤー様は泣きそうな顔をなさっている。


「どうしてこんな事を…」

「貴方に女性として見て貰える、最後の方法だと思って」

「そんな事で…」

「私にはそんな事で、五年失っても良いと思ったんです。失敗したようですけれど」


フォルマイヤー様が遂に涙を溢した。


「だってこれから五年、君は眠ってしまうんだぞ!?」

「そうですね。大丈夫です。勉強は信頼出来る家庭教師に読み聞かせていただけるよう手配して下さるとお母さまが…」

「そう言う事じゃない!五年も話せなくなるんだぞ!?あんなに可愛かった君が、どうしてこんな一気に大人にならなきゃいけなかったんだ!!」


「だって貴方が、私を女性として見られないと仰ったから…」


私の言葉にフォルマイヤー様は私以上にショックを受けていらっしゃるようだった。


「まさか、あれを聞いて…」

「良いんです。こうして大人になってみて分かりました。私が貴方にとって妹のような存在でしかない事が」

「違う、違うんだセリス…」

「いいえ、違いません。やっぱりお母さまにお願いしておいて良かった。私が眠りについたら、婚約を解消して貰うようにお願いしてあります」

「そんな!」


何故そんな絶望した様なお顔をなさるんですか?ようやく子供のお守りから解放されると言うのに。


あぁ、眠たくなってきたわ。そろそろ限界ね。そうだわ、最後くらい、とっておきの秘密を打ち明けてしまっても良いんじゃないかしら。


最後だもの。次に目が覚めるのは五年後だもの。今くらい、良いよね?



「フォルマイヤー様、私は貴方の恋のお相手にはなれませんでしたけど、私の恋はずっと貴方だけのものでした」



「待ってくれ、嫌だ、こんなのは嫌だ!」


「さようなら、フォルマイヤーさま、どうかおげんきで」


「セリス!!」



最後が好きな人の腕の中なんて随分と贅沢だな、と私は思いました。

フォルマイヤー様は私を抱えてお母さまのところまで走り、泣いて謝っています。

申し訳なくて、私の目からも涙が溢れます。

お母さまは約束通り、私達の婚約は白紙に戻すこと。もう無理をして私に会いに来なくても良いのだとフォルマイヤー様に言います。


「私は一度だって無理をしてセリスに会いに行かなくてはと思った事はありません!」


本当に、随分幸せな言葉を貰ってしまいました。これで私はフォルマイヤー様を諦めることが出来るのか不安になります。

でも五年あるのですから。きっと大丈夫でしょう。



こうして私は五年の眠りにつきました。


つくはずでした。



「セリス、君との婚約は継続させて貰えるよう、侯爵様にお願いしたよ。随分叱られた。あぁ泣かないで。君が悪いんじゃないよ。気付かなかった私が悪かったんだ。君の事、可愛いってずっと思ってたから、それがどうにも可愛いと思い過ぎな事とかね。続きはまた今度。また会いに来るね」




「こんにちはセリス。今時魔法について調べているんだ。とても珍しい魔法だから、なかなか良い文献が見つからないけれど、一日でも早く君が目を覚ませるよう、諦めるつもりはないよ。勿論、君のこともね」




「セリス、君はまだ誤解したままかもしれないけれど、本当に私は君を妹として見ていたわけじゃないよ。ただ君と大人の恋をするのはもう少し早いと思っていたんだ。君を傷付けてしまってごめんね。あぁまた泣かせてしまった。私はずっと後悔しているよ。あの時ダンテに聞かれた時、とても可愛い女の子だと思っているよって、それだけ正直に言えば良かったって。つまらない見栄でこうして君と話せなくなるくらいなら他の奴にロリコンだって馬鹿にされたままでも良かったのにな」




「今日はね、セリス。時魔法について分かった事がある。君は今極度の魔力欠乏症を発症している。そして魔力欠乏症には治療方法がある。パスを繋いだ人間が定期的に魔力を送る事だ。これから私は君の了解無しにパスを繋ぐ。これは一生解ける事は無いそうだ。ごめん。パスを繋ぐと相手の感情を色で目視出来るようになるらしい。君は今目を開けられないから分からないだろうけれど、私にはもう見える。君は今、多分困惑しているんじゃないかな?ははっ、驚いた。こんな風にね、見えるようになってしまうけど、許して欲しいな。今日から君に魔力を注ぐ。不快かもしれないけれど、我慢してね」




「こんにちはセリス。今日のご機嫌は、うん、良いみたいだね。あれから一年が経ったよ。私が後悔した日から一年も経った。最近怖くなるんだ。君の可愛い声を思い出せなくなったらどうしようって。ん?それどんな感情?まさか私が怖がってるのに喜んでいないだろうね?全く、いつから君はそんな薄情な子になってしまったのかな?……君の声が聞きたいよ、セリス」




「今日はとても天気が良いよ。もう季節は春だ。そろそろ君も目が覚めても良い頃だよ。実は君を我が家に移住させてもらえないかお願いしたんだ。それなら私も毎日魔力を送れるしね。でも駄目だった。どうやら私はまだ信用に足る人間じゃないらしい。大丈夫、そんなに心配しないで。私は諦めないよ。君の魔力はちゃんと回復してきている。多分あともう一押しなんだ。君が本当に起きなきゃ、って思ってくれないと、起きられないんじゃないかなって最近思ってる。何か無いかな。君が起きなきゃって、思ってくれる方法」




「二年経ったよ、お姫様。そろそろ起きてくれても良いんじゃない?君の紫の瞳が見たいよ。目を開けてくれないか、セリス。愛しているんだ。昔より、ずっと、はっきり分かる。君を愛してる。どうか起きて」


私の顔にフォルマイヤー様の涙が落ちてくる。

泣いている。好きな人が私を愛していると泣いている。起きなきゃ。今、起きなきゃ。この人が壊れてしまうかもしれないの!どうか起きて私の身体!!


何度試しても開かなかった瞼を必死に開けようと努力する。

やっぱり開かない。フォルマイヤー様が泣いているのに。

私には何も出来ない。


悔しくて、悲しくて。涙が溢れる。


「俺は君を泣かせてばかりだな。それでも君が好きだよセリス。ごめんね、今日は、こうさせて」


唇に何か触れた感触がした。

え?なんだろう?まさか……?




「ふぉ、る……」

「……セリス?」

「き、す、した?」

「うん…ごめん、した」

「ふぉる…」

「うん…?」

「すき」


「俺も。愛しているよ」




この後セリスは必死でお勉強をする事に。時魔法使用者として魔法院に呼ばれなんやかやんや聞かれます。

そんなセリスを見守り過ぎて怒られるフォルマイヤー。

読んで頂きありがとうございました。

いつも評価、ブクマ、リアクションなどありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
甘くてほろ苦くて、それでも後味はやっぱり甘い甘いお話でしたわ。
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