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楽園  作者: 雨宮寿霖
とある星
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第十八話 宝物




 

 確かに、グレイヴィアンは自滅した。












 それでも、グレイヴィアン全員が、相手を思いやる心を持っていなかったなんて、思いたくない。













 自然の美しさを、他者を信じることの喜びを知っている者もいたのだと、信じたい。


















 なぜ、自分がここまでグレイヴィアンに肩入れしているのか、自分でもよく分からない。









 びっくりするくらい鮮やかで、綺麗な星に住んでいて。





 そこに生きる彼らの建造物は、溜息が出るほど美しかった。












 徐々に、少しずつ、ぼんやりとしていた思考が輪郭を取り戻していき、心の底から答えを欲した、彼らへの問いを思い出す。




 それは光が瞬くように、次々と心の内に浮かんでいった。














 あの生き物の名前は何ですか。




 あなたたちは、何を食べますか。




 あなたたちはこの星を、何と呼んでいたのですか。




 あなたたちは恒星を、何と呼ぶのですか。




 あなたたちの持つその美しい色彩は、何と言うのですか。








 なぜ、あなたたちは溜息が出るほど精巧な建物を造ることが出来たのですか。




 なぜ、あなたたちはお互いを殺し合うほど憎みながら、協力することを惜しまなかったのですか。

















 なぜ、あなたたちは、滅んだのですか。



















 自分は、知りたかったのだ。







 果てしなく、どこまでも続くこの広大な宇宙の中で出会った、自分たちによく似た存在のことを。











 しかし、彼らはもういない。










 そして、その本質はまだ分からない。




 ナハトの言うように、他者を絶対的に排する恐ろしい種族なのかもしれない。













 それでも、いつも想像してしまう。




 彼らと共に街を歩いて。






 あれは何ですか、これはどう使うのですか、と質問する自分の姿を。






 共に様々な場所を巡り、その地特有の食べ物を食べながら他愛のない話をして笑い合う自分と、彼らの姿を。










 必ずまた会おうと約束して別れ、星が瞬く夜空を見上げながら、その無数に光る星々のどれか一つに確かに存在し、今この瞬間も自分たちと同じ宇宙に生きる彼らに思いを()せる、そんな光景を。














 もしかしたら。













 ――友だちに、なれたかもしれない。













 じわり、と視界が(かす)む。










 こんな考えをナハトが知ったら、楽観的で、楽園育ちのような思考だと怒られることなんて分かり切っている。













 それでも。











 それでも俺は――。
















「ねぇ。これちょっと中身見てみようよ」




 はっ、と思考に沈んでいた意識を現実に引き戻すと、ラノが何も身に(まと)っていない方のグレイヴィアンを指差していた。




 いや、正確に言うならばグレイヴィアンが抱えている、ズタボロになった布製の入れ物のことを指しているらしい。










「破壊しないでよ」



「もちろん慎重にやるって」






 胡乱(うろん)()な目つきのナハトにそう言って、ゆっくりと骨の腕を持ち上げながら、それを引き抜く。












 ズズ、と床の上に置かれたそれは入れ物というより、上に布を被せただけと言った方が分かるほど原形を留めていなかった。







 ラノが、そっとその布の隙間から中に収められていた物を取り出す。













 出てきたのは、鉄製の箱。





 ちょうど人の顔くらいの大きさで、(さび)が酷かった。














 ちょっとずつちょっとずつ、蓋を引き上げていく。















 ギ、ギ、ギ、という嫌な音をさせながら、2分ほどして蓋が開いた。











 3人で一斉に中を覗く。














 まず見えたのは、硝子(がらす)で出来た透明な入れ物だった。









 この世界に満ちる(だいだい)色の光を反射してきらきらと光り、それを手にしたラノの指先にも淡い(きら)めきを投げかけている。













 調査資料のデータや映像などで“硝子(がらす)”というものの存在は知っていたが実際に見たのは初めてで、自分たちの骨によく似たその美しい入れ物を順番に手に取りながら、(しばら)く観察していた。















 誤って落として割ってしまわないよう、それを地面に置いてから次にラノが取り出したのは、紙に貼り付けられて茶色くしわしわになった花だった。










「何これ?」



 ラノが裏表にひっくり返したりしながら怪訝(けげん)そうに言う。











「確かに、花も植物なんだから時間が経てば絶対に朽ちて分解するはずだよな。それなのにこんな紙に留めても意味ないんじゃないか?」



「まさか地面から引っこ抜いて紙に貼り付ければ劣化が止まる、って考えてたほど馬鹿だったって信じたくはないね」










 誰かさんの皮肉多めのコメントを、じっと花を見つめていたラノが「いや」と否定した。









「この花は劣化が止まってるよ。色は抜けてるけど、花びらも茎も綺麗に残ってる。何もせずにただこの箱に入れただけだったら、多分花びらがくしゃくしゃのバラバラになって形を留めてなかっただろうし、茎も細い線みたいになって、今切り取りました、って感じの太さを保ってなかっただろうね」












 そう言って何故(なぜ)か得意そうな顔をしながら、「これは花を劣化させないための、グレイヴィアンの知恵だったんじゃないかな」と言ってこちらに(主にナハトに)目を向けた。










 その面白がるような視線から顔を背けて「ケッ」と吐き捨てた隊員1名に苦笑したあと、「ちょっと持ってて」とその乾いた花を貼り付けた紙を手渡された。












 そしてまた、3人で箱の中を覗き込む。



次回、いよいよ最終回です。

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