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楽園  作者: 雨宮寿霖
とある星
53/62

第十話 思考し続ける。それが、


「あれ? 質問って何だっけ?」



「我々はグレイヴィアンと交流可能か否か」



「あー、それねー」





 だからー、グレイヴィアンはもういないんだからー、ほんとのところは誰にも分からないんだってばー、と身体をゆらゆら揺らしながら口を尖らせた。





「推測で良い」



 もうこいつを今すぐ強制送還したい、と怒りすら湧いてくる。







「えー、なんでそんなに気になるのさー」



 ぶうぶうと不満気に漏らすラノに対し、返って来た答えは予想よりも遥かに熱を帯びていた。







「好奇心が推測を生む。推測から新たな説が生まれる。新たな説は視野を広げる。広がった視野が、オレと世界を近付ける」







「……へぇ」



 カチリ、とスイッチが入る気配。和やかだった辺りの空気が再び一変する。








「君の言う推測は間違った憶測も含むと思うけど。そういう憶測って誤った事象を導き出すんじゃない? 果たして君が近付いた世界は、」







 真理に向かっているのかな? 








 口角が吊り上がり、ニヤニヤとした(わら)いを浮かべるのを全く意に介さないかのような速さでナハトが口を開く。







「分からないね。分からないからこそ考え続けるべき。好奇心と探究心を捨てたら世界から見放されるよ。思考し続ける。それが、」







 知的生命体が知的生命体である所以、と。








 まっすぐに射抜くような視線で述べられたその言葉を、ラノは静かに受け止めた。










 先ほどとは打って変わって口角を少し下げながらナハトを見つめるその姿は、予想外の言葉に面食らっている風でもある。








 しかし、ゆっくりと。








 地平線の彼方から、少しずつ昇りゆく恒星の光に照らし出される、世界のように。







 ほんの一瞬前まで小馬鹿にするような(わら)いを浮かべていたその顔に、微かに驚きの表情が浮かんでいく。






 そして少しだけ見開いた目の中には、一抹(いちまつ)の興奮と、本当に微細な喜びの色が見えた気がした。











 (しばら)くして、「そう」と少し柔らかさを帯びた声が返る。




「ナハトの言うことも一理あるかもねっ」




 そう言って、しばし穏やかな顔で何かを思案したのちに「じゃあ参考になるか分からないけど僕の意見をちょっとだけ述べるねー」と前置いてから語り始めた。







 交流をしようと思えば出来るのではないかということ、しかし付き合い方は考えなければならないことを大して気負った様子もなく、ごくごく軽いいつもの調子で話していく。








「だってさ、僕たち3人でさえ意見は割れたもんね。お互いの意見が通じないのは普通だよ。ただ僕たちは何をどう間違っても相手を殺すって発想にはならないけどさ、グレイヴィアンは常に選択肢の一つに入れてそうってのが厄介かもねー」








 そうした点を理解した上で交流を図る場合、双方がその交流において得られる対価を念頭に置いておかなければならないと言う。








「それが正しい交流の仕方なのかは分かんないけど、互いの利害について暗黙にでも知っておく方が何かと都合が良いとは思うけどなー。


 よくよく考えてみたら、友達付き合いとかにも当てはまる考えかもね。


 お互いに安らぎを得られる、学びを得られる、成長できる、とかメリットがある人と比較的一緒にいるわけで、一緒にいて逆に心の平穏が乱されたり有益な時間にならないと判断した人と付き合わないでしょ?」






 もちろんそんな冷めた感覚で友達を選んでる人ってあんまりいないだろうけどさ、と肩を(すく)める。








「なんでグレイヴィアンが自分たちの住む土地を区切ったりしてたのかはよく分かんないけど、その区切った区画同士で交流するときも利害関係が重要だったらしいし」







 当該地域とは正反対に位置する地域の工芸品が見つかったり、その地域では採れない植物の種などが調査の段階で見つかったりしている。




 これも、そうした無いものを補い合うために交流し、生活に幅を持たせていたグレイヴィアンの実態に迫る重要な証拠となっている。









「だから、法の整備とかそういう複雑なことは偉い人たちにやってもらった上で、リスクを考慮しながら自由に旅行なりなんなりすればいいんじゃないかな? 


 グレイヴィアンの方も自己の利益を優先して僕たちをやたらめったら殺したら、行き着く先は広大な宇宙空間における惑星同士の争い、ってことには気付くと思うけどね」








 まぁとにかくさ、どんなに厳密に取り決めをしたとしても、必ず不具合は生まれると思うけどねー、とさして興味もないようなつまらなそうな顔で述べる。








「っていうか他者との交流ってそんなもんだし、完璧ってないわけだからそうした不具合とどう付き合っていくか、っていうのがそれぞれの腕の見せ所だと、僕個人は思います」








 以上、今度こそ回答になったでしょうか、ナハトくん、と首だけをナハトに向けながらおどけた口調で締めた。









「どうも。協力に感謝するよ」




 ぼそぼそと不愛想ながらも礼が述べられる。


 それに「いいえー」とニコニコしながら返すラノ。




 気のせいかもしれないが、ナハトが思う“知的生命体の在るべき姿”を聴いてから、重たい話をするときの冷徹な気配が感じられなくなった。








 だから、何の気なしに「ラノって結構色々考えてるんだな。普段めちゃくちゃ子どもっぽいのに」と問うた。






 瞬間、その笑顔が自嘲のそれへと変わる。






 あ、まずかったか、と悟り、後悔と焦りで密かに慌てふためいていると、「まぁいいか」という小さな呟きが聞こえた。








「あのさ、今この惑星にマクロプロスの生命体は僕たち3人だけだし、割と2人のこと信用してるから、せっかくの機会だし話してみるね」






 その声はひどく静かで、それでいて決意を含んだ硬い響きをしていた。








「2人はさ、粉砕骨折のニュース覚えてる?」







 そう問う表情は微笑みを(たた)えながらも、緊張・自嘲・悔恨の念に(さいな)まれているように見えた。






「ああ、あの黒い凶器のやつだろ。かなり衝撃的だったからな」



「逆に有史以来6例目の大事件にお目にかかれたのは貴重だけどね」






 ナハトと共に率直な感想を述べると、「……そう」と(ささや)いてしばし逡巡(しゅんじゅん)する様子を見せる。






 数秒そうしたのち、意を決したように一つ大きく息を吐いて、言った。







「僕は、副所長に守られたんだ」







「…………え?」


「……」






「僕は内線で医療・看護班を呼んだんだ。所長は何かの用事でいなかったから副所長にも大まかに事の顛末を伝える連絡をして、そのあともパニックになってた。


 明らかに相手は重症だし、もしかしたら本当にとんでもないことをしたんじゃないかってね」



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