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楽園  作者: 雨宮寿霖
とある星
51/62

第八話 友好



「愚問。ありえない」


 瞬時にナハトが反応した。





「へぇー! ナハトくんはどうしてそう思うのかな?」



「逆に友好的な交流が出来るとか思ってる奴がいたら聞きたいね。どうしたらそんな楽園生まれ楽園育ちですって感じの思考が出来んのか」



「じゃあ君は絶対に無理だって思うんだね」






「当たり前。さっきの見たでしょ、あの指に付ける胸糞悪くなる飾り。

 骨だよ骨、オレたちの。もしこれでグレイヴィアンが滅んでませんでした、色々あってお互いの存在を認識しました、ではこれから宇宙空間という途轍もない距離と惑星間の種族を超えた、まさにお互いの保有する技術と文明の発展、そして新しい時代の幕開けを象徴するような交流をしていきましょうとか何とかお偉方同士が話し合ったとする」





 それが運の尽き、と眉間にしわを寄せながらなおも続ける。








「オレたちは運がよかった。奴らが自滅してなくてより宇宙に関する技術開発を進めてたら悲劇だったね。それでさっき言ったみたいな交流が始まれば、オレたちは上手いこと騙されて骨にされてる。

 グレイヴに旅行に行った行方不明者が多発だよ。みんな骨にされて粉砕された挙句にグレイヴィアンの指の上に収まってんだから。

 しかも奴らは野生獣みたいに縄張り争いしてたわけでしょ? 

 野蛮すぎる。人の皮被った獣。最終的には旅行者をちまちま狙うんじゃなくて大艦隊率いてマクロプロスに攻めて来るよ」





 飾りと領土の両方が一気に手に入るからね、とぼそぼそとした喋りながらも唾を飛ばして一息にまくしたてたナハトに、ぴたりと足をとめてラノが振り返った。







 目を、すぅーっと細めた不気味な笑みで、一言。


「そんなのみんな知ってるよーん」







「は? じゃあなんで聞いたわけ?」


 という恨み節には答えずに、「君。セスターくん」と唐突に指を指される。


「え、なに」






 若干の驚きと戸惑いを混ぜつつ返せば、「セスターはどう思うの?」と普通の笑顔で聞かれた。








「昨日、嫌悪感はあんまりなくて興味はある、みたいなこと言ってたでしょ? だから面白いなーって思って」


 今のナハトの意見聞いて、どう? と小首を傾げる。








 どう、って言われても、とは思ったが、ラノはこちらをジッと見つめたまま自分が何かを発するまで動かない構えだし、恨みを発散し損ねたナハトのドロドロした視線からは“何かあるなら聞いてやる”というような挑戦的な雰囲気も感じられた。






「いや、別にそんな大したことじゃないんだけど」


 と保険を掛けてから続ける。





「グレイヴィアンはお互いがお互いを殺し合って自滅した。これは今までの研究からほぼ確実だと言える」


 ここまでは良いよな、と目を向ければ二人が頷いた。


 それに勢いを得る。






「でも、お互いを殺し合った理由についてはまだ解明されてない。もちろん、領土を奪い合って、っていう説が広く支持されてるのは知ってる。自分たちと同じ種族を殺すためだけに残酷な機械を開発したってのも知ってる」






 二人は途中で口を開く様子もなく、先ほどと同じような面持ちで聞いている。







「だけどさ、俺たちって昨日ここに初めて来たばっかだろ? それで、これどうやって造るんだってくらい複雑な建築物とか見て、装飾品とかも確かに俺たちの倫理的にどうなのかなってやつもあったけど、俺たちには出来ないすごく繊細で綺麗な細工がされてるやつもあったわけで」







 急に話を振られたから、考えがまとまらずにたどたどしい喋りになっている自覚はあった。



 それでも、黙って耳を傾けてくれている二人のために出来る限り自分の考えを伝えようと、頭を頑張って回転させてみる。







「それって誰かと協力しなかったら出来なかったんじゃないか? これまでにプリンターとかそれに近いものも見つかってないし、なによりあんなにデカい建物をプリンターでは造れないと思う。

 機械じゃなくて、大勢の力で造り上げた可能性が高いと、俺は思う」







 つまり、何が言いたいかって言うと。








「グレイヴィアンがこうだって決めつけるのは、早すぎるんじゃないかってこと。だって本当にお互いがお互いを憎んでたなら、こんなに高度な文明が発達する前に滅んでたはずだろ? 

 お互いの領域って言うか、領分を守りながらそれぞれの文化を尊重していたって可能性も大いにあるとは思わないか? 

 それに、大量に残ってる文献の解読がまだ進んでない。少なくとも俺は、グレイヴィアンの性格とか性質を決めるのは、そういう資料の調査が進んでからでも遅くはないと思う」







 グレイヴィアンの全員が全員、相手の死を望んでいたわけじゃないかもしれない、と言って、口を(つぐ)んだ。








 沈黙が落ちる。









 相変わらずラノは微笑んだままで、ナハトは厳しい顔のまま、止まっている。







 あまりにも突飛な話だったから、驚いたのか。


 いや、呆れて何も言えないの方が近いのかもしれない。








 さすがに苦しい見解だったかと思い、あくまでも可能性の話、と(にご)そうとしたとき、ナハトが口を開いた。







「あんた楽園育ちだったんだ」





「……いや、違うけど。まぁ言いたいことは分か――」


「冗談。いちいち真に受けないで欲しいんだが」



 と真顔で言われ、この男も冗談なんて言うんだ、とどうでもいいことを考えた。




 全然面白くないけど。







「言いたいことは一応理解した。でも同意はしない」


 最大の理由が一つ、と指を一本立てる。








「グレイヴィアンは、自滅した。これに尽きる」








 真っ直ぐに、だがはっきりとそう言われて、思わず下を向く。


 それが、自分の説の最大の弱点だったから。







「もし、だけど。もし、グレイヴィアンたちがお互いに協力したりなんなりして建物造ってました、お互いの文明尊重してました。そこまでは納得出来なくもない。

 まだオレたちが発見できてない建築物製造機みたいなものが本当に無いとするならって条件付きだけど。

 だとしても、結局全員死んだ。

 これって表では尊重してるフリして裏では反対のこと思ってなきゃ出来ないはずだよね? それも一人や二人じゃない。

 全員が死んだんだからそれなりの人数がそう思ってたって考えるのが妥当」






 つまり、と肩をすくめて諦めに似た表情を浮かべながら首を振った。










「相手のことを心から信じてたやつはいなかった、とも言える」











 どんなに発展した文化文明を持っていたとしても、結末が最悪すぎた。










「まぁ資料の解読によって色々新しいことが分かるって言うのも理解できる。それにここで言うオレたちの説がまったくの的外れだったって可能性も十分に考えられるけどね」



「例えば?」





「グレイヴはオレたちも把握できてない第三の惑星に完全に隷属(れいぞく)してて、実験場みたいな存在だった。そんで実はグレイヴィアン全員がその第三の惑星に洗脳されて無意識のうちに操られてた、とか」







「…………あぁ」


 なんだそれ、と口に出さなかった自分を褒めたい。




 でも、本当にそういうこともあるのかもしれない、と考える自分もいた。









「隊長はどう思うわけ」


「ほぇ?」


 それまで微笑を浮かべながら隊員二人のやり取りを傍観していたラノにも水が向けられる。






「グレイヴィアンと交流可能か否か」


「えー、そんなの分かるわけないじゃん」


 グレイヴィアンはもういないから聞けないし、と特に考える間も置かずにごく軽い答えが返る。







 いや元はと言えばお前が話を振ったんだろ! と心の内で突っ込んだが、同じように感じたのはナハトも同様らしい。





「いやいやいや。人様に散々喋らせといて自分は逃げるとか在り得ないのだが」


「そう? 途中から二人が勝手に盛り上がってただけじゃーん」


 僕、無理やり喋らせてたわけじゃないよ、と言って首をこてんと傾ける。






「あーはいはい分かりました。分かったから意見は?」




 めんどくさくなったらしい。


 適当にあしらってほぼ直球に意見を求めた。





「うーん。そうだなぁ」


 と右手の人差し指を顎に当てながら考える素振りをして、ゆっくりと話し始める。



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