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楽園  作者: 雨宮寿霖
とある星
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第七話 差異


 軽い朝食を済ませて出発した調査隊の足取りは、疲労が抜けたせいか昨日よりも幾分(いくぶん)軽かった。






 昨日は緑に侵食された所までしか行けなかったから、今日はもう少し先の方まで足を伸ばそうということになり、サクサクと小気味良い音をさせて繁茂する植物を踏みしだきながら、前へと進んで行く。









 目の前をひらひらと、(はね)を持った黄色い生き物が風に乗るようにして空に舞い上がって行った。



 追うようにして見上げると、(まぶ)しく輝く光を背に、影のようにふわふわと飛んでいく。





 大地に生える淡緑色の植物の間に、ほんのりと柔らかな美しさを持った薄紫や薄赤の(かぐわ)しい植物が天から塗料を散らしたかのように点在し、辺りに華やかさを添えていた。











 緑に煙る、森とも呼べるような自然の中を進むことしばし。










 ふいに視界が開け、だだっ広い広場のような場所に出た。










「「「おおお」」」











 3人で一斉に感嘆の声を漏らす。











 そこでは様々な生物が思い思いにくつろいでいた。








 4本足の落栗色の、頭から背にかけて長い毛を生やした生き物が、はむはむと下草を食んでいる。




 同じく4本足の、角を持った白と黒の(まだら)模様の生き物が、その横で同様に草を食んでいた。




 昨日ラノが記録し損なった白い毛玉もぴょんぴょん跳ね回っていたし、同じく白い、だが翼をもった2本足の生き物が、ペタペタと歩き回りながら、グワッ、と鳴いた。




 奥の方では首が長い生き物が高いところの葉をむしゃむしゃやっており、ワン、と吠える4本足の生物がそこら中を走り回っていた。











「生き物の楽園だね」






 静かな声で、ラノがそう呟く。





 野生の生物なのだから、争うことはあるのだろう。



 マクロプロスでも動物たちが縄張りを守るために死闘を繰り広げる。









 しかし、今目の前に広がるのは、争いとは無縁の、まさに生きとし生けるものが自由に生を謳歌している。そんな楽園のような光景だった。













 しばらく立ち止まり、目を細めて光に照らされたその広場を眺めたのち、ラノが茂みを抜けて小走りに駆け、そっと生き物に近付いて記録を取り始めた。



 自分もナハトと共に近付けそうな生き物に寄って、記録を始める。





 記録レーダーを立ち上げて映像を撮りながら、目元に装着した自動生態分析端末で目の前にいる薄茶の、背中に(まだら)模様がある生き物の情報を解析していく。











 そのような作業を続けながら、それにしても、とふと思う。








 なぜこの星の生き物は、みな毛深いのか。








 全身から余す所なく毛がわさわさ生えているように思うのだが、暑いだろうし鬱陶(うっとう)しくないのだろうかと非常に気になる。






 マクロプロスの生き物は真逆だ。





 一切毛が生えていない。





 皮膚の色も白い、というよりも透明に近く、中にある骨や内臓が透けて見えるのだが、あのつるつる感がとてもかわいいのだ。






 そうした母星の生き物と比べてしまうと、どうしてもここの生き物は不気味に感じてしまう。




 見ていると、こちらまで毛が生えてきそうで背中がぞわぞわする。










 そんな他愛もないことを考えながらしばらく黙々と作業を続けていたが、下を向いてばかりで痛くなった首を回すときにふと何気なく顔を上げて、言葉を失った。




 珍しい生き物たちに夢中で、気付かなかった。










 そこには。




 天を衝く威容の、塔が(そび)えていた。











 全体を4本の脚部によって支えられており、それらがちょうど中心あたりで融合して頂点に連なる。




 今は塔の下三分の一を植物が覆ってしまっているが、もとは上の方と同じ色合いである金に近い茶色なのだろう。





 全体的に細みを帯びているが、均整の取れた美しさを感じた。





 呆然と正面を見つめる自分に気づいたのだろう、ラノとナハトも同じ方向に視線をやり、同じように言葉を失って立ち尽くしている。











 おそらくグレイヴィアンたちによって造られ、創造主が滅び去ったのちも凝然と(たたず)み続けているその姿に、どこか哀愁を感じた。












 近くまで行ってみようよ、と言うラノの提案に乗って、真下まで近づいてみる。




 本当に精巧な造りで、骨組み同士が複雑に絡み合い、支え合いながら上へ上へとどこまでも続いていくように見える。



 どのように計算を重ね、どれほどの歳月をかけて完成させたのか。








 きっと彼らの知恵と技術の結晶だったのだろうなと思うと、それが永遠に失われてしまったことにやるせなさを覚えた。








 すぐ近くに朽ちて倒れかけた標識が立っていたが文字がだいぶ(かす)れてしまっており、かろうじて「La Tour Eiffel」と書かれているのが読み取れた。







 当然のことながら、どう言う意味かはわからない。














 謎の塔を離れて、比較的自然との一体化が進んでいない場所まで進んだ。



 かつては街の中心部だったのだろうか。



 だいぶ傾き、崩れ、砂や埃にまみれているが、多くの(おもむき)を凝らした建物が連なり、競うようにして様々な物品が並べられていることからも、もとは(きら)びやかな場所だったのではないかと想像できる。








 ラノがふざけて宝飾品を大量に指に付けたが外れなくなり、顔を青くして(うめ)いていたのは面白かった。






「ちょっと待て」


 これってオレたちの骨じゃないか? という声に振り向くと、ナハトが顔を思いっきり(しか)めながら宝飾品の一つをゴミのように摘まみ上げている。





 言われて見てみると、小粒だが確かに透き通った輝きを放つそれはマクロプロス人の骨と同じ成分でできているようだった。





「あー、ぽいな」


「うっわ、趣味わる」


 ゲェと言って高速で骨|(?)を投げ捨て、距離を取るナハトに構わず、少々感覚が凡人とズレている隊長が横からそれを拾い上げた。



「でもよく見たら僕たちの骨、けっこう綺麗じゃない?」


 記念に持って帰ろー、と指に()める姿に、マジかよ、と隊員2名は思わざるを得なかった。

 










 

 街が人工物で整備されていればされているほど、そこに自然の入り込む余地がなくなっていく。



 この街もそうだったのだろう。ぴっちりと両脇に立ち並ぶ瀟洒(しょうしゃ)な建物は、まさに人工の壁とも言えた。



 大地の上に隙間なく敷き詰められた石畳は、その上を歩く者がいなくなって長い年月が経ちながらも、未だに植物にその場所を明け渡してはいない。






 そうした自然と隔絶された場所に生まれるのは、主に塵芥(じんかい)である。







 生き物の往来がなく、植物も住処(すみか)と定めない場所など、もはや生きているとは言えない。







 自然が生み出したゴミが溜まり、どのように美しい場所であろうとも徐々に朽ち果て、無に(かえ)る。











 その途上にある街を、埃に(まみ)れたような空気を吸いながら目的地まで歩いていた。




 次に行くのは割と科学技術が発達し、電子工学という分野において世界を圧倒していた都市だとか。







 しかし残念ながら電気や電子といった情報の操作だけでは、あの高速破壊マシーンには勝てなかったらしく、自滅戦争が始まった序盤で滅んだようである。








 今回の任務は、何でもいいから参考になりそうな資料を持って帰れ、というものであった。



 情報都市だったのだからある程度そうした資料が残っている可能性が高いと踏んだのだろう。


 



 まぁ、これが初めての星外調査になる若手の研究員に与える役目としては、妥当なものかなと思う。











 薄っすらと砂塵(さじん)が積もり、歩けば(わず)かに足跡が付く石畳の上を歩きながら、先頭を行くラノが手を後ろで組みながら朝の散歩をするようなごく軽い足取りで歩いて行く。







「グレイヴィアンと僕たちって、仲良くなれたと思う?」







 前を向いたまま、軽い雑談のような調子で問いが発せられた。



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