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楽園  作者: 雨宮寿霖
とある星
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第三話 とある星


 ベレヌス系第二惑星マクロプロスの知的生命体が、自らの技術を以ってその星を発見したのは今から10年ほど前のことだった。









 自転周期が27時間、公転周期が370日のマクロプロスと非常によく似た環境であり、大気中に含まれる成分も97.25%一致。






 紫外線が微弱であるというのもマクロプロスの特徴と合致したため、発見からすぐに研究所の対銀科を中心とした調査団が組織され、幾つもの調査隊が送り込まれた。











 環境がマクロプロスとほぼ変わらないことから宇宙服を着用しての作業が必要ではなかったため、数年で多くの研究成果が得られた。










 最初に派遣された調査団が帰還した際、彼らは未だ興奮冷めやらぬと言った体で、その星で見たものを語った。











 彼らが最初に見たものは、自然だった。








 大地を濃緑、淡緑と様々な色合いの緑が埋め尽くし、色とりどりの植物が時には(あで)やかな、そして時には可憐な美しさを添える。




 穏やかに高地から流れ出た澄んだ水は平野へと流れ落ちる間に何度も分岐し、或いは合わさり、勢いを増しながら、まるで一つの巨大な生き物のように大きなうねりとなって進んで行く。




 やがてそれらは、果てしなく広く、どこまでも続く蒼い碧い雄大な水域に溶け込み、その惑星の全土を巡って行った。









 一日の終わりには力強い光を放つ恒星が沈み、辺りが闇に覆われる。




 すると入れ替わりのように白く玲瓏たる衛星が昇り、先ほどとは対照的に世界を淡く優しく照らしだす。




 その周囲を無数の星々と銀河が燦然(さんぜん)と輝く、あまりにも荘厳な天球。












 それは、まるで楽園のように美しい光景だった。










 ほとんどの調査団員たちが報告書にそう記すほどだった。















 次に彼らが見たものは、多種多様な生物だった。



 他の惑星、あるいは衛星に生息する生命体の存在を調査中だったマクロプロス人は、この発見に大きく湧いた。









 陸地に生息する生物は、大抵毛むくじゃらだった。




 首が異様に長いものや、逆に鼻が異様に長いもの。鋭い牙を持って襲いかかってくるものもあれば、翼を持ち、飛行するものもあった。




 その毛並みは目が覚めるような鮮烈な色彩だったり、(まだら)(しま)など珍しい模様をしていたりした。




 水中に生息する生物は、つるつるしていた(水から出したら死んでしまった)。




 毛が生えているものはなくて、光を反射してきらきらと光る硬質の薄片に体を覆われていた。












 そして最後に彼らが見たものは、建造物だった。





 小さいものは崩れかけていたり倒壊したりしているものが多かったが、高さのあるものや技巧の凝らされたものは比較的そのままの形で残っていた。




 それらは簡単に崩れることがないようにと目が回るほどの緻密な計算を基に設計され、ため息をつくほど美麗な意匠・装飾がその建物の雰囲気に合わせた素材に精巧に施されている。




 一目で、他の惑星の生命体とは一線を画し、非常に高度な文明を持っていたと理解せざるを得ない、巧緻を極めた遺構。













 ここで、彼らに疑問が生じた。



 今までこの惑星で見てきた生命体は、ある程度の知能があるとはいえ、何かしらの道具を用い、計算するということは出来ないのではないか、と思われた。









 現に、何回か毛むくじゃらの生き物が建物の中に入るのは見たが、食べ物を探しにきたようでガサガサと調度品を()ぎ倒したり破壊したりしながら漁り回り、目当てのものをいくつか見つけると口に(くわ)えて悠然と去っていった。










 とてもではないが、文明を築いた生き物だとは思えない。



 多くの建造物が朽ちかけているのがその証左でもある。












 この新たな疑問は追々調査するとして、当時の調査団員たちはとりあえずマクロプロスに持ち帰るためのサンプル採取に励んでいた。









 第三次調査団が調査に当たっていた時のことである。






 第一次、第二次調査団は主に惑星の気候や生態系を中心として調査していたが、第三次調査団は地表や地中にある土砂や岩石を採取し、その成分を分析することでこの惑星の陸地における地質の構造や性質を調べることを目的としていた。









 そしてこの時の某調査団員も目的を遂行するべく、自らに与えられた業務を真面目に遂行している最中だった。




 手袋をして土を少し掘り返し、専用のケースに入れる。

 








 そのとき、掘り返した土の中からなにやら白い塊がのぞいているのが見えた。








 はじめは石かと思い気にも留めていなかったが、一応これもサンプルとして持って帰ろうと周りを掘り進める。




 だが、その白い塊は意外に大きなもののようで、かなり奥へと掘り進めなければ全体が見えなかった。








  仮にも傷つけてしまわないように、慎重にほじほじと掘り進めていたのだが、その石のようなものはどうやら細長い形状をしているらしかった。




 加えて、左右にも似たようなものが埋まっている。









 この星でよく見られる岩石か何かだろうか、と思った彼はさらにその左右にも同じ形状のものが一つずつ、計5個が等間隔に埋もれているのを知った。










 それらの細長い塊が同じところからのびているのを見て、やっとそれが何に似ているのかに思い至った。











 頭が遅れてその意味を認識し、ヒッと悲鳴を上げて体を退け反らせる。















 それは、自分たちのものにあまりにもよく似た、「手」だった。















 第一次調査団がこの星に降り立った当初より、地面の下から何か突き出ている白い塊がある、というのは見えていた。




 だが、どれもごく一部でありこの星特有のものなのだろう、とあまり気に留めなかったのだ。








 それが一転、手で少し掘り返しただけでゴロゴロと見つかるマクロプロスの人々によく似た生命体の骨格だと思われる残骸。



 どこを掘り返してもすぐに見つかる。











 まるで敷き詰められているかのように。


 星そのものが、墓場であるかのように。












 調査団員たちは、全身であろうと思われるものを一体掘り返して調査船に積み込み、母星へと帰還した。









 持ち帰られた謎の生命体が持つ乳白色の骨格は、リン酸カルシウムとタンパク質を主成分として構成されており、よく調べてみるとマクロプロスの人々を形作る炭素の透明な骨格とは似ているようで異なる点が多かった。









 そのカルシウムでできたものはマクロプロス人の骨格に比べればはるかに(もろ)い。

 一定以上の負荷をかけたらすぐに折れてしまった。









 マクロプロス人の炭素でできた骨格は、滅多に折れない。





 普段生活をする中で骨に(ひび)が入るといった怪我をすることもないし、聞いたこともない(しかし、瞬時に与えられる力に対しては滅法弱い。一点に衝撃が走ると粉々になる)。









 調査団や外部組織の研究員は、この乳白色の骨格を持つ生き物が高度な文明を生み出した知的生命体なのではないか、と推測した。












 こうした経緯から、この謎の惑星は“グレイヴ()”、謎の知的生命体は“グレイヴィアン”と呼称されるようになった。




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