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本日も隣の小鳥が騒がしい  作者: ゆー
いつか何処かの未来のお話
31/31

本日の夜更かし

既に夜も更けたある夜のこと。


「ふい〜……」


席に座り込んだ瞬間、自分でも思った以上に疲れた声が出てしまって、私は慌てて口を手で塞ぐ。既に閉店時間を過ぎてお客さんは残っていないとはいえ客商売。何処に目があるのか分からないのだから。


そう、例えば。


「ぷっ。年じゃね?」


この年相応に大変小生意気な小僧の、それはもう憎たらしいお目目とかとか。


「…ねえ晃〜」

「な〜んにも言ってませーん」

「肩揉んで〜…」

「は?何で俺が?しかも無償で??」


草臥れた母親が、こんなにも弱々しく助けを求めているというのに関わらず、何やら親指と人差し指で輪っかを作り、掌を上にして何かを求めてくる可愛い息子。その度胸に敬意を評して、私は慈愛溢れる笑みと共に握った拳をそっと掲げた。


「うっす」


別に私は何かを仄めかしたつもりも無いのだけれど、何故か晃は途端に大人しくなって、素直に私の後ろに回って肩を揉んでくれる。いつの間にか随分大きくなった掌と、いつの間にか随分強くなった力で肩を揉むその手捌きは、態度に反して柔らかい。見えないのをいいことに、ついつい口が緩んでしまう程に。


「ん〜♡素直な息子に育ってくれて良かった〜」

「いえいえ。子は親を選べませんからねぇ」


随分素敵なお言葉に、思わず手が滑って肘が後ろに飛んでしまう。何やら後ろから苦しそうな呻き声が聞こえてきたけれど気のせいだろう。だってお母さんはか弱い女性だから。心はいつだって夫に恋するお・と・め♡…何故か鼻で笑う気配を感じ取ったので、逆の肘をつい滑らせた。ちっ。避けたか。


「ところで晃〜、お片付けは終わったの〜?」

「人に肩揉ませておいてそれ言うかね?」

「お金出しているのはお母さんだもの」

「……燕の奴がやってくれてんだろ」

「むむ」


…そう言えば、今日は燕ちゃんも残ってくれていたわね…。今更ながらに思い出す。


しかし、あらあら早くも亭主関白?駄目ね。その年で関白宣言決め込むのは世の中舐めきっていると言わざるを得ない。そうでなくとも今は令和。コンプライアンス。女性が働く社会。なんちゃらかんちゃら云々。いくら燕ちゃんが愛する人に尽くすとっても良い子ちゃんだとしても、私の可愛い義理の娘(予定)を虐めることは、実の息子だろうと許さない。生まれてきてからずっと見てきたのだ。寧ろ、実質娘と言っても過言ではない。今の私の中では既に燕ちゃん>>>後ろの小童だ。言うまでもなく雲雀ちゃんは別枠。


「代わってきなさい」

「言うと思ったわ」


マッサージの締めか憂さ晴らしか、パァンと景気よく肩を叩いた後、呆れた様に溜息をついた晃が、けれど文句一つ言う事も無く奥に引っ込もうと踵を返す。


「終わったら、そのまま上がっていいわよ〜。お休み〜」

『はいはいお疲れちゃ〜ん』

「んもう…」


全く持って素直でないその背中に苦笑しながら、私は頬を緩めると手を振り見送った。手を抜いたりしやしないか、といったことはもとより心配していない。こと仕事に関しては、私は息子を信頼している。

少し遅れて、奥から息子のぶっきらぼうな声が途切れ途切れに聞こえてきた。どうせまた強引に難癖つけて、恋人を休ませようとしているのだろう。


「……ふふ」


はてさて、口で色々言ったところで情が行動に出てしまっているのは一体誰に似たのやら。私が出るのはどちらかと言うと拳だし、あの人()はそもそもが口下手だし。割と愛はストレートだし(惚気)。


となると、やっぱり……


「あの、おばさん…?」

「あら?」


考え込んだその時だ。晃が引っ込んでいった奥から、入れ替わる様にして一人の女の子が私の前に姿を見せる。今更言うまでもないだろうがその子は、お店の自慢の制服に身を包み、今日も今日とて立派に勤めを果たしてくれた、目に入れても痛くない、何処に出しても恥ずかしくない、私の自慢の義娘(決定事項)。いえ、家に来るから絶対に出さないけれども。私が義母としてそれはもう可愛がりまくる予定ですけども。


「お義母さんでいいのにぃ〜…」

「い、いえ、まだ結婚はしていないので……」

「ふ〜ん?」


…敢えて気付かない振りをしてあげているが、燕ちゃんの頬が姿を見せた時点で赤い。…これは、やったな?息子め。

誰が見ても分かるニヤケ面で燕ちゃんに隣に座る様に促せば、彼女はおずおずと遠慮がちに席につく。私との関係性が『幼馴染の母親』から『恋人の母親』へと変わったからか、最近の燕ちゃんは露骨に緊張しがちだ。今までの懐き度がリセットされたかの様にかしこまってしまっている。


「ふ〜ん。『まだ』。ふ〜ん」

「…………う」

「するの?」

「そ、それ、は……っ」

「しないんだ〜……」

「し、しますっ!!しない理由無いです!!」


まあそれはそれで可愛いんですけどね。例えそうでなくともああ可愛い、もう可愛いすぎる!あの子の前ではつんつんしているのに、それ以外の前では完全に愛が無自覚無防備ノーガードなところが特に!推せる!!燕ちゃんしか勝たん!!!


「ん〜ふ〜ふ〜…」


こんなのもう、顔がだらしなく緩んでしまったところで誰一人文句を言う人間など存在しないだろう。もしいたとしても、それは私が黙らせる。拳で。

ああ、ああ。もう、もう。早く本当の娘になってくれないだろうか。あのヘタレは

一体いつまでちんたらやっているというのだろうか。私の血を引いているというのなら、押し倒すくらい……おっほん、何でもございませんですことよ。


「でもぉ、どうしよっかな〜?私はぁ〜、息子をあげるとはぁ〜、言ってないしぃ〜?」

「え!?でもおばさん『晃をお願いね〜』って付き合い始めて◯日後の◯月×日の◯時×分に言ってくれましたよね!?」

「(え、怖)」


少しからかうつもりが予想外の愛が飛び出してきて、私は緩みきっていた気をつい引き締める。おばさん思わず度肝を抜かれました。


「ふ、ふふ〜ん。よく覚えていたわね〜…まあ?ち、ちょっと燕ちゃんを試したというか……」

「よ、良かった……もし、結婚を反対されていたら私…例えおばさんでも…」

「し、しないしない大丈夫よ〜。寧ろ、晃の面倒見れるのは燕ちゃんしかいないと思っていたから〜」


ちょっとその先を聞くことが怖くなって、私はそれとなく言葉を遮った。遮らざるを得なかった。ついつい忘れてしまうが、この子は椿の娘。『ここぞという時に何をしでかすか分からない』滅私奉公真面目ちゃんで有名な我が自慢の親友の娘でした。これは息子が押し倒される日も遠くないと思う。楽しみに待とう。で、もしそうなったら指さして爆笑しよう。


「…ところで燕ちゃん。私に何か用があったんじゃなくて〜?」

「あ、そ、そうでした…」


私の言葉に、漸く自らの目的を思い出したのだろう。燕ちゃんは何やら背後をごそごそと漁ると、小さなビニール袋を取り出した。その中から現れたのは、容器に詰められたこれまた小さな…


「あの…実は、お母さんが好きだった苺大福を買っていて……」

「あら」

「良ければ、一緒に食べませんか?…勿論、皆には内緒で」

「あらあら〜悪い子さん♡」


照れた様に頬を掻く燕ちゃんと顔を見合わせて、私達は仲良く笑い合った。

繰り返しになるが、既に夜は更けている。乙女が甘い物に手を伸ばすには少々危険な時間帯。それでも、義娘に請われたならばここで手を伸ばさない義母がいるだろうか。




「…それで出来たら、昔のお母さんのお話とか、…聞きたいな〜…って」




「…………」


娘に請われてここで断る母親がいるだろうか。


「駄目、ですか?」

「駄目な訳ないでしょう?…少し待ってて」


首を傾げる燕ちゃんを制しながら私は立ち上がると、足早に店の奥へと戻り、“それ“を手に取って戻ってくる。


「今夜は“3人“で、姦しくはしゃぎましょう?」

「………あ………」


私が机に置いた親友の笑顔を見て、燕ちゃんは一瞬泣きそうに顔を歪めかけたが、すぐに柔らかく笑う。

それは、少女から大人の女性へと変わりつつある、美しい微笑み。


よく見た覚えのある…笑顔だった。


「…雲雀が拗ねちゃうかもですね?」

「だったら、次は4人ね」

「ですねっ」


ねえ、椿。


「そうね〜……」


私、貴方の分までこの子達と想い出を積み重ねていくから。

貴方が悔しがるくらいいっぱい、いっぱい愛情を注いでやるんだから。

それで私がそっちに行った時、これでもかってくらいいっぱい話してやるんだから。


だから。


楽しみにしててね。






この子達の、もう一人のお母さん。























「――学生時代、おばさん達は『西の闘神』・『東の鬼神』としてどっちが早く学園をシメるかで覇を競っていたんだけど〜―――」

「え?」

「―――思いだすわね〜購買の幻の梅昆布茶あげパン、どっちが買うかで殴り合ったっけ〜…――――」

「おばさん??」

「あ、そうそう、おばさんはインファイターなんだけど椿はどちらかと言うと足を使った戦法が得意でね?」

「おばさん!?」

「私が繰り出したスマッシュをスウェイで躱してのジョルトカウンター…あれは効いたな〜…モロに入ってたらトんでたわね〜」

「おばさん!!どこまでが本当の話!!??」

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