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本日も隣の小鳥が騒がしい  作者: ゆー
いつか何処かの未来のお話
30/30

本日はクリスマス・後

「……こお?」

「おーそうそう、何だよ上手いじゃ〜ん。将来は店持てるな」

「…………へへー」

「この店は俺のだけどな!!」

「へー」


大の大人三人が揃いも揃って入り口から顔だけを覗かせるという、凄まじくやりにくい超凶悪なデバフの入った環境にて、俺は雲雀と共にクッキングぅーと洒落込んでいた。


晃と雲雀のばりきらクッキング、本日のお題は、『安上がりで、簡単にお高そうな見た目に出来るお洒落爆発ケーキ』。俺がいれば、まず作れないなんてことはあり得ないので、必要なのはセンスだけ。


ま、俺が雲雀の後ろに立って、一緒に包丁動かしてただけなんだけどさ。


「雲雀がやる」

「ほう。その気概は買うぜ」


そして、このちみっ子。幼いながらに、中々に筋がいい。流石は燕の妹御。奴はこの俺を選ぶだけあって、審美眼は確かなものを持ってやがるからね。


とりま今は、メインの作業を大体終わらせて、残すは上にトッピングを乗せるのみ、といったところ。流石に本格的な作業はまだ難しいと思うので、そこは役割分担させてもらった。ただし、生クリームを絞る作業は絶対にやりたいと頑なに譲らなかったので、ここからは選手…パティシエ交代。確かに、あの絞り袋って謎の魅力があるよな。分かる。クソガキの頃、下でスタンバイしたいってずっと思ってた。何なら、今も思ってる。人、それをバイトテロと呼ぶ。


…ともあれ、長きに渡る二人での共同作業。勿論、ここに至るまでにも俺のホスト顔負けのトークでうぇいうぇい場を盛り上げてはいたが、そろそろ俺の弾も切れてきた。


「よー雲雀」

「なんじゃらほい」


ということでここは一つ、クリスマスに相応しい微笑ましい話題に切り替えるとするか。


「お前さんは今年、サンタさんに何頼んだんだ?」

「新しいぬいぐるみ」

「ほお?」


ケーキから目を離さないまま、雲雀がぽつり。


成程、俗に言うぬい活か。いいよね。

Foo〜なんて小粋なクリスマストーク。入り口に目を向ければ、ホッとしたり、ガッツポーズをとったり、得意気に頷いている三者三様の光景が見える。実を言うと、既にあのサンタ(仮)達がバレない様に慎重かつ綿密な情報収集を行ったのだが、俺が知ったら情報漏洩の可能性があるからとか言って、一人だけ教えてもらえていなかったのだ。これが所謂、『いじめクリスマス風味・晃君の青春を添えて』ってやつか。ごめん忘れて。





「…だったけど、やめた」






『『『!!!???』』』


がたがたがたっ!


何か向こう側…具体的には入り口から、約3名程が焦り散らした様な騒がしい音がした。俺もあまりに予想外すぎる展開に、わくわくと驚愕を抑えるので必死である。


「…へ、へー。なら、代わりに何頼むんだ?」

「『あの頃(元気な)のお姉ちゃんを返してください』って」


『『『ぶふっ…っ!』』』


何か向こう側から、一斉に噴き出す音がした。


「……そっか。でも、まあ、なんというか、ちょっとそれだけ聞くと、素晴らしく不穏だから、別のにせんか?」

「じゃあ、ス◯ッチ2」

「…………」


…向こうを見る。


『『『(ブンブンブンッ!!!)』』』


全員が凄い勢いで首を横に振っていた。

だよな。俺・燕・お袋の三人がかりで立ち向かったのに、一人も当選しなかったもんな。無理ゲーだよな。辛え。俺もなぁ、最新機種でしか出来ない体験をしてみたいってなもんですよ。なあ、雲雀。


「…あー、…サンタさん、ってさ、その、おじいちゃん…だから、あんまりゲームみたいな精密機械に詳しくないん…だよ?だから一旦、ぬいぐるみにしとかないか?」

「そっか。いたしかたなし」


しかし、ギャラクティック・アキラには狙いがあった。俺の焦りをひた隠した誘導に、根っこがいーこの雲雀ちんは、特に駄々をこねることもせず、素直に頷いて作業に戻る。

ほんまえーこに育ったもんやで。誇ってええぞ燕。いや、俺。


『『『ほっ………』』』


晃様の流れる様な交通整理に感謝しろよへっぽこサンターズ。普通はなぁ、どんな難問にも対応出来る様に予想出来るものは全て用意しておくもんなんだよ(無理ゲー)。

んで、もし余ったら、日々ちびっ子の面倒を見てあげてるいい子のお兄ちゃんに分けてあげてもいいのよ?贅沢は言わないから、ス◯ッチ2でいいよ。おう、あくしろよ。


「出来た!!」

「お」


などと言っていたら、頬に生クリームをつけたヒバリーノが、嬉しそうな声を上げる。きらきらした純真無垢な瞳で汚れた俺を見つめてくるので、浄化されながらもその頭の上からキッチンを覗き込む。


「…へぇ」


白が眩しいフルーツたっぷり欲張りケーキは、何度も何度もやり直した形跡は残るものの、既製品に負けず劣らずの出来栄え。

勿論、身内贔屓が過ぎることは自覚しているが、どの道、身内以外食べることの無いここだけのオリジナルケーキなのだ。上出来以外の何者でもないであろう。


「食べる?」

「お姉ちゃんの為のやつだろ?」

「そーだった」


けれど、とりあえずは明日までのお預け。


「頑張ったな」

「うん!!」


初仕事を無事成し遂げたパティシエの頭をわしゃわしゃ撫でくりまわす。苦労もあったが、嬉しそうに綻ぶその顔が、何よりの報酬だ…なんて、何を恥ずかしいことを言っているんだか。


未だニコニコニヤニヤ覗き込んでいる阿呆共の相手をしてやれと、刺客(雲雀)を差し向けると、俺は一人寂しく片付けに取り組むのだった。












――足音を殺しながら、部屋の扉を開ける。電気は点いていた。

もぞもぞと慌てた様に、覗いていた頭が動いたので、俺は遠慮無く年頃のおなごの花園に踏みこんだ。


「やあ、元気?」

「………げ、元気」

「それは何より」


出来うる限りの優しい声をかけてやれば、正反対のか細いお声が返ってくる。一日中寝こけていたもんだから、いい加減退屈だったのだろう。俺は笑顔のまま、その枕元に近づくと、枕の下に手を突っ込んで、隠されていた漫画を抜き取った。


「おもちろかったかな?」

「う…」


愛する彼氏様の満点スマイル。だというのに、何故か失礼にも、燕はばつが悪そうに布団の中に潜ってしまった。

俺はそんなダンゴムシの横に座り込むと、背を預け、漫画を開いた。ぱらぱらっとめくるだけで分かる。こてこての少女向け作品っぽい。これは何処ぞの朱鷺プレゼンツやな。くそ。俺に負けず劣らずのイケメンパラダイスじゃねえか。俺の中のおんにゃのこが目覚めてしまいそうだ。


感染(うつ)っちゃうよ…」

「上等だ。感染してみろやこら」

「何で喧嘩ごしなのよ…」


そんなイケメンの背中を、細い指が弱々しく突く。

全く。ツッコミにも力が無いじゃないか。それでこの先コンビをやっていけると思っているのか。やはり、俺のお笑いセンスについてこれるのは、雲雀しかいないということか。


「……皆は?」

「今頃どんちゃん騒いでんだろ」

「………雲雀は?」

「安心しろ。もう元気も元気だから」

「…そっか。………良かった」


安心した様な呼吸が、背後から。

全く全く。病人の分際で他人の心配とか、どうしてこの小鳥は進んで面倒事を背負いたがるのか。病人は病人らしく、自分の身体のことだけを考えていればいいというのに。


「…ごめんね」

「何が」

「……で、でーと…」

「………」

「…お金、無駄にしちゃった」

「俺が一度機会をふいにされただけで破産するとでも思ってんのか?心配せんでも、晃様の財布のダメージなんて微々たるもんだっつの」

「…そっか」


全く全く以下略。

必要の無い謝罪など受け取って、何が潤うというのだろうか。どうせなら、『…お詫びに私のこと好きにしていいよ…』と言ってくれた方が嬉しいです。可能ならば乱れたパジャマで顔を赤く染めながら。


「…あのね」

「何だね」

「…嬉しかった。ただ出掛けるだけとかじゃなくて、ちゃんとデートとして、色々考えてくれたのが」

「お前も一緒に考えただろ?」

「…うん。楽しかった。凄く」

「そーかい」


…まあ、俺も悪くはなかった、かな。

子供の様に…いや、恋する乙女の様に顔を綻ばせて、行きたい場所や乗りたいアトラクションをあれこれ挙げる燕の姿は、本当に……かったから。


「…また、一緒に考えてくれる?」

「当たり前だろ。俺はまだ、あの亀に『命って……何なんすかね……?』って質問する野望を叶えてないんだから。絶対に諦めんぞ」

「……ふふ……、そっか……そーだね……」

「…お前も…、まあ、この際に色々ハメ外したいんだろ。付き合ってやるよ、とことん」

「…うん……うん……うれしー、なー……」


肩の荷が下りて、安心したのだろう。背中から聞こえてくる声が、どんどんと弱くなっていることを感じ取る。


「…ね、晃」

「ん?」


と、徐ろに背中を引かれたので、俺は体を後ろに倒して耳を近づける。

寝たまま、燕が顔を近づけてくる音と感覚。身体がこそばゆくなる。


「   」


囁かれる様に放たれた、短い言葉を最後に、背中を引く力がぱたりと無くなった。

それを認識すると、俺は大きく息を吐き、本を静かに閉じて、ゆっくりと振り向いた。


「………」


目の前には、薄っすらと満足そうな笑みを浮かべながら、心地良さそうに夢に酔う鳥系乙女。

その寝癖で跳ねっ返りマシマシの憎たらしい髪を手で梳く。

一度では足りなかった。二度、三度。

…ガキの頃から変わらない、優しくて温かい感触だ。


「……ああ。俺も」


ぽつりと小さく呟くと、俺は懐から小さな箱を取り出し、眠る燕の枕元に置き、最後に前髪をかき上げて、顕になった額に唇を落とす。


「…早く元気になれよ」

「…………ん………」

「…メリークリスマス。燕」


明日の朝、彼女はどんな顔をして起きてくるのだろう。

そして、妹の努力の成果を目の当たりにして、どんな顔を浮かべるのだろう。

さぞかし、愉快な光景を見せてくれることだろう。その未来をいやらしく妄想しながら、俺は己の意に反した優しい笑みを漏らすと、どんちゃん喧しいお隣さんの介護へと戻るのであった。
















「ああああ、あきらっ、あきら、晃!これ、…これ……!!」

「まずおはようでしょう?燕ちゃん」

「え、あ、おっは…っ」

「お姉ちゃんお姉ちゃん!これ!!」

「へ!?ひば、え、お?なんっ、ケ?」

「メリークリスマス!!」

「どばぁ(号泣)」

「想像以上に面白かった」

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