表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本日も隣の小鳥が騒がしい  作者: ゆー
隣の小鳥
3/28

第3話 夜の帷の小鳥

「晃。アイテムみのがした」

「え?マジ?」

「まじ」


その日の夜。雲雀に招かれ、俺は彼女を膝に乗せて仲良くゲームと洒落込んでいた。

そして後ろには、そんな俺らをちらちらそわそわ見ながらテーブルでお勉強している燕。

そんなんで果たして集中出来るのかと思わなくもないが、一人はそれはそれで寂しいらしく、俺達がこうして騒いでいると気づけばいつの間にか傍に寄ってくる、というのがお約束の光景である。


「…お。本当だ。流石だなひばごん」

「どやぁ」


「ちょっと。人の妹をUMA扱いしない」


そんなお声と共に、後頭部にコツンと何かが当たる気配。やっぱり集中出来ていないじゃないか(呆れ)。

未だ収まらぬ怒りでぷりぷりしながら、人の頭に消しゴムを投げてきた手癖の悪いノーコン女が俺に厳しい目を向けてくる。


「そんなつもりは無いぞつばごん(48)」

「…誰が………何で(仮)じゃなくてそっちにした????ん???」

「「ひえ…」」


めきり。後ろから聞こえる鉛筆がへし折れる音。地獄の底から這い出た様なその恐ろしすぎる声に、俺と雲雀は揃って身体を震わせる。

マイナーなゲームを何故か好んでいた父の遺志(生きてる)を継いだ、流離いのクソゲーハンターである俺の探求を謎にしょっちゅう隣で見ていたからか、燕は意外とネタに通じているのだ。


しかしこれはいかん。血管ばっきばきに浮かび上がるレベルで怒髪天を衝いてしもうた。

100%中の100%。怒りゲージが本来あるべきバーを超えて画面外まで飛び出してメトロノームみたいに暴れ回っておられる。


「お、怒る理由無いだろ」

「怒る理由しか無いわよ」

「そんなぷりぷりしたら皺が増え………何でもない、です……てへ…」


そんなぁ。悪いのは全部比婆山じゃないですかぁ。あいつらが何か変な生き物作るからぁ。

助けて雲雀ぃ。膝の中で震える哀れな雛鳥に縋る様に情けなく助けを乞えば、弱きを決して見捨てない勇者ヒバリは、力強く頷くと心を奮い立たせていざいざ魔王に立ち向かう。見よや、いざいざ竜虎相搏っ。


「お姉ちゃんっ」

「勇者様…!」

「どきなさい雲雀。そいつ◯すから」

「はい」

「勇者様…!?」


残念。まだ旅立ってすらいない初期レベルの勇者が、いきなり近所のおじさんみたいに気軽に遊びに来る魔王になど勝てる訳が無かった。確かに未来の脅威を滅ぼす手段としては何も間違ってないけどさぁ。

なんだよ『燕(仮)』これくそげーじゃねえかぁ。今年のKOTYはきまりだね。


「恐怖を教えてあげるわ…」


鉄拳をごきごき鳴らしながら暴君の様に歩み寄る悪魔、いや魔王。ち、力だけが全てじゃない……。

何か手はないかと、村人と勇者は辺りを見回しながら必死に調べるボタンを連打する。


先に光明を見出したのは、勇者だった。


「ふん!!」


勇ましく転がり、足元に転がったコントローラーを拾いあげると、伝説の武具の様に天へと掲げる勇者・雲雀。


「……………」

「あれ。あ、お、っおね、…お姉ちゃん…!」

「何」


お笑いでも中々見ないくらいに一度綺麗にスルーされたが、声をかければお姉ちゃんたる燕は大人しく立ち止まってくれる。


「ひ、雲雀、お姉ちゃんといっしょにあそびたいな?」

「これ片づけたら二人で遊ぼうね」

「三人でぇ!あそびたいなぁ!?」


魔王の重圧に身体を震わせながら、それでもめげない勇者に心動かされたのか、燕は殺気を収めて小さく息を吐くと、大人しく"これ"の隣にどかりと乱暴に座り込む。肩と肩が触れ合う距離に。


雲雀は暫し迷う様に俺達を見比べていたが、今取るべき最善を本能で感じ取ったのか、大好きなお姉ちゃんの懐に恐る恐るぽすんと収まった。それだけであんなに斜めだった燕のご機嫌は分かりやすくあっという間にぽわぽわと。


いいぞ勇者よ。そのまま魔王の動きを封じるのだ。


「で、何してたの?」


ぷに。何だかんだ気になっていたのか、興味津々に俺の手元を覗き込む燕。頬と頬がくっつくのではないかという至近距離で。距離感バグっとんのか。

…そして途端に鼻をくすぐる女の子の匂い。…何なんだろうな。普段意識しないのにこういう時に限って。


「……テレビに切り替えるから、退け」

「…あ。…、もう…」


お馴染みのヒゲの国民的愛されキャラクターが映し出されたゲームは、当然燕もご存知である。

対戦はあまり好きではないが協力はそこそこ好きな燕は、愛くるしい世界観に険しかった顔を綻ばせる。…四と八が映し出される様なゲームやってなくて良かったぁ〜。


「あ、晃。つづきから」

「おー。…えっと次のステージは……」


4ー8。


「うん???」

「他のゲームやろうか雲雀!!」

「も◯てつ!!!」


『皆さんが最初に目指す目的地は〜……広島!』


「うん?????」

「雲雀!!!」

「雲雀のせい!!??」


もう駄目だぁ。おしまいだぁ。

伝説のスーパー小鳥に俺達は破壊し尽くされてしまうんだぁ。

体が勝手に安全を求めて動き出してしまう。可哀想だが雲雀、どれだけ涙目で見つめようと俺にもうお前を救うことは出来ない。


「何処へ行くの?」


けれど俺の腕はあっさりがっちり燕にわし掴まれてしまう。そう、大魔王からは逃げられない。


「ひ、雲雀と一緒に避難する準備だぁ(店に)」

「…ひとりでかー?」

「…二人揃ってアニメの見すぎよ。さっきから古いし。…もう怒らないから、二人共普通にしなさいな…」


名作はいつまでも色褪せないって決まっているだろうがぁ。俺は新作情報漁ってたらショート動画で何故かめちゃくちゃMADオススメされる様になっちゃったからはまっちゃっただけだけど。参るよね本当。たまにお前どのつながりでこれ勧めたん?みたいの急に出てくるの。俺の画面横もしも動画で埋まるんですけど。

けど言ったね?言質取ったよ?後からやっぱ無しとか言っていきなり転蓮華とか仕掛けてきたりしないよね?


もう一度俺が定位置に座れば、小鳥達も同じく。再び肩が触れ合った瞬間、俺の身体が情けないくらいビクンと跳ねたが、燕は呆れた目を向けるだけでもう何も言わなかった。


…離れることもしなかった。







「…ありがとう。晃」

「いきなりどうしたぃ」

「いつも雲雀と遊んでくれて」


そう言って、膝で眠る愛妹の頭を撫でる燕の顔には、外で見せるしかめっ面とはまるで違う、慈愛に満ち溢れた優しい微笑み。

恐らくは家族しか垣間見ることの出来ない、本来の燕の姿。

それをただの幼馴染でしかない俺が見れる。ある種の優越感にも似た言い知れない感情と、確かに感じる顔の熱から意識を逸らす様に、俺は燕から静かに顔を背けると、機器を片付けるふりでみっともなくその場を誤魔化した。


「…別に、今更お礼言うことでもないだろ」

「そう?」

「どうせ暇だし。時間を潰すのにも丁度いいからな」

「…そう」


こんな失礼な物言いをしているというのに、背中越しに聞こえる声は依然柔らかくて。

とん。背中に微かな重みを感じ取る。振り返るまでもなく、燕が寄りかかって来たのだろう。何て身勝手な。ショバ代請求しても許されるのではないだろうか。無論、割増で。


「それでも、ありがとう」

「…………」


らしくない。本当にらしくない。普段あれだけつんけん(顔だけ)しているくせにどうしてこういう時だけ。全くもって調子が狂う。

重みを省みること無く立ち上がれば、燕が何とも軽い音を立ててその場に倒れ込む。

仰向けのままこちらを楽しそうに見上げるその顔に、シワなど欠片も存在しない。


「帰る」

「うん」

「ちゃんと戸締まりしろよ。最近」

「『物騒だからな』。でしょ?」

「然り」

「何それ」


我が家はお隣、徒歩5秒。なのに燕はわざわざ雲雀を寝かせて、それこそ雛鳥の様に外までついてくる。

店に明かりはついてはいるが、どうせ閑古鳥が鳴いているのだろう。常連客はそれこそお家で晩酌したいだろうから。


「お前まで来ちゃ意味無いだろ」

「なら、送ってくれる?」

「この距離無限ループするおつもり?」


俺の呆れた声に楽しそうに肩を揺らす燕と共に、二人仲良く空を見上げればそこには輝く満月。

暫しの間、会話は無かった。さっさと家に帰ればいいのに、なんというか、先に動いたら負けな気がした。多分、そう思っているのは俺だけだけど。


「…雲雀がね」

「うん?」

「楽しそうなのよ」

「へー…」


まぁ、最近しょっちゅう遊んでやってるからな。まだまだ遊び盛り。もっと他のお友達と遊んだ方がよろしいのではないかと思わなくもないけど、あの笑顔を曇らせるのも何だかな、ということで俺というエンターテイナーは毎度毎度様々なアトラクションを催しているのだ。が、…正直ネタ切れです。タスケテ……。


「お母さんはいないけど」

「………」

「楽しそうに笑って、いつも晃のことを話すの」


さらりと呟かれたその言葉に、俺は返事を返さない。燕はそれに特に気を悪くすること無く、月を見上げたまま。

俺も見上げた振りをしたまま、視線だけを燕に向ける。月明かりに照らされたその横顔は、ぞっとするほどに儚く、そして。


「だから」


ゆっくりと、燕がこちらを振り向いた。俺は至って自然に見えるように軽く息を吐き出すと、さも、ちょうど今気づいた様な下手くそな演技を滑稽に振る舞う。


「最後にもう一度だけ。ありがとう。晃」

「……ああ」

「うんっ」


力強く頷くと、勢いよく頬を叩いて燕が己の家へと足を向ける。

後ろ姿でも分かる弾んだ足取りは、恐らくは照れ隠し。

扉に手をかけ、姿を完全に消す前に、燕はもう一度振り返った。楽しそうに歯を見せて、子供の様な笑顔で。


「また明日、ね。…晃」

「……おー」

「お休み」


そう言い放ち、扉が閉まる。

道端に一人取り残され、気配が完全に無くなったことを確認すると、俺は目の前に流れる川の縁にそっと寄りかかった。

見上げた月は今も爛々と輝いている。こちらの気も知らずに呑気に。腹が立つ程。


「…お休み」


さて、明日はどんな催しをしようか。

燕の真似事でもないが、軽く頬を叩くと、俺もまた数秒間の家路につく。


本日もこれまた、騒がしい一日でした、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ