本日はクリスマス・前
ジングルベール。ジングルベール。鈴がー鳴るー。
……フンフ、フ〜ン。フンフ、フ〜ン。フフフンのフン、へいっ☆(くそにわか)。
よく分からんけど多分、『あの鈴を鳴らすのは貴方』みたいな感じだった気がする。いや知らんけど。
さて、本日はクリスマス。しかも運のいいことに休日…ということで、イケメンと書いて晃くんと読む某は、一応の恋人こと、幼馴染のヤナギーバ・ツーバメ氏と遊園地に遊びに行って、黒ずくめの男達の怪しげな取引の現場を目撃した後、大人でお清楚でちょっぴりえちちな夜を過ごす訳なのですが。
「晃〜?注文聞いてきてー?」
過ごすはずだったのですが。
「う〜っす…」
何故か俺は今、実家にて、傍若無人の権化たる魔王・オカ・ンデスの下で、顎でいい様に使われている有様。
時刻は既に夕方。店内を見回してみても、クリスマスということだからか、お客様にも、どうにも浮かれた雰囲気マシマシアブラカラメなバのつくカップルが多いように感じられる。
全くよお、人目も憚らずイチャイチャしやがって。少しは周りの迷惑も考えやがれってんだ。こんなお話を読んでいる皆様もそう思いませんか?思いますよね?…え?相手がいる?こんなお話を読んでいるんじゃないよ。相手のことをちゃんと見てあげな。
「…燕ちゃんの容態はどう?」
1日のお勤めを終え、とりあえず一息ついていたところで、人が折角寛いでいるというのに、空気の読めないお袋が声をかけてきた。
いつもふわふわにこにこしている暴の化身のくせに、今は眉毛をハの字にして、しゅんと落ち込んでいる。
「寝てるだろうよ。ぐっすり」
見ていられないので、俺は肘をつくと、そっぽを向きながら、素っ気なく口を開いた。
「………雲雀ちゃんは?」
「………」
…本日はクリスマス。晃様は恋人たる燕さんと、それはもうめくるめく夢の世界へと旅立つ算段だったのだが。さっきまでピンクいオーラを振りまいていた恥ずかちい人達にも負けず劣らずの領域を展開するつもりだったのだが。
果たして、それが可能か不可能かは置いておいて、件の燕氏は、現在、お家の布団とまさかの浮気。温かい毛布に恋人をNTRれてしまった可哀想な俺は、心身を酷く傷つけられて、枕を涙で濡らしていたところを、このお方に捕まってしまった。
まあ、色々好き放題言わせてもらいましたけど、風邪引いたんすよ、燕ちゃん。全く、自己管理がなってないよね。ふらふらとした身体に鞭打って、勇ましく戦場に赴こうとしたもんだから、柊家と柳葉家の総出でドクターストップをかけましたよ。戦中で死ぬことこそ本望って、奴は竹中半兵衛の生まれ変わりか何か?
…そして、勿論、悪気は無いにせよ、結果としてその風邪を感染してしまった張本人、彼女の愛する妹御は、己を責めて、これまた仲良くオフトゥンの民と化している。優しく看病してくれたお姉ちゃんの寝込んだ姿を目の当たりにして、今朝からぐすんぐすんとすすり泣いていた。即ち、今の柳葉家の空気は地獄。おじさんには強く生きてほしい。
「まあまあ、元気出しなさ〜い?」
「は?俺は至ってきのこたけのこ元気の子ですけど?」
「でも貴方、パ◯の実派じゃない」
「そういう話じゃねえんですわ」
そしてどうやら、お袋の目には、仕事に一心不乱に打ち込む俺の姿が、考えに考えたでえとプランが泡となって落ち込んでいる様に見えたらしい。あいも変わらず節穴である。皆もそう思わないかい?
別に傷ついているつもりもないし、ましてや、理由を知っている時点であいつを責めるつもりもない。もし、仮に俺が責めるとしたら、『昨夜、風呂上がりに裸踊りの練習をしていましたてへぺろ』、と言われた時くらいであろう。
「慰めてくれるのなら、時給上げてくだちゃい」
「…ねえ、お母さん達、やっぱり大人しくしてようかー?」
「無視やて…?」
因みに本日、大人達プラスお子ちゃま組は、店を早めに閉めて貸切クリパでわっしょいと洒落込むつもりだったらしい。俺達がいないところで、お高い食材をしこたまばくばく食おうとしていた事実を知った時は、ちょっと傷ついたね。
「自分に気を遣ってパーティーがおじゃんになったと知ったら、もっと落ち込むぞあの鳥公」
「そうよねー……うん、切り替えよっかー…」
俺の言葉に、自分の頬をぱんぱんと叩くと、お袋はいつものえせゆるふわスマイルを取り戻して、俺に笑いかける。
「にぱっ♡どーお、晃?お母さん、いつも通り?」
「ああ。いつも通りキツいよ」
「ありがとー♡」ブンッッッッ
「カヒュッ…ッ」
「ごめんくださいなっと…」
腰の入った素晴らしいものが鳩尾に入り、俺が膝をついて崩れ落ちたタイミングで、店の扉を開けておじさんが入ってきた。
「………ぐしゅっ」
「ほ〜ら、雲雀。お姉ちゃんは大丈夫だから。な?」
「…………ん」
その腕の中には、落ち込んだ様子で目を腫れさせた幼子。
雲雀は辺りを見回して、蹲る俺を発見するやいなや、おじさんから飛び降りて俺にタックルを仕掛けてく…あ、今はマズイ、止まって、ちょ、待っ―――
「あきら!!!」
「フングフ……………ッッッッ!!?」
ズン!!という、重厚なお…おのまとぺい?を奏でて抉り込んでくる十数kgの弾丸。
俺の内臓が『タスケテッ(裏声)』と、悲鳴をあげようとお構い無しに、雲雀はぎゅっと抱きついてくる。
「やあ、ごめんね?晃君。雲雀をお任せしちゃってもいいかな?」
それに気付いているのか、いないのか。おじさんは呑気に頭を掻きながら、俺に笑いかけてくる。…あの、俺が汚い悲鳴を上げた瞬間、すぐそこから『ブッフォww』という、人を嘲笑う声が聞こえたと思うんですけど。おいポリスメン仕事しろ。
「………も゙ぢろ゙ん゙ですとも゙……、早いっすね、おじさん゙……」
「燕に追い出されちゃったよ」
「…お姉ちゃんすこし元気になったよ」
「そうかいそうかい…」
…動ける程度には回復した、ということか。
なら、俺も後で顔を見ておくかな。デートを台無しにしたという、何一つ感じる必要も無い罪悪感と共に、人様を寒空の下に放り出してくれた誰かさんのお顔でも。俺は優しいから、ついでに林檎でも剥いてやろう。晃くんはうさちゃん作れちゃうんですね、これが。雲雀にせがまれて鬼練したから。これはモテる男。
「で、ひばりんりん。お前さんは相変わらず元気無いな?」
「………ん」
残すはこっちか。
これまた必要の無い罪悪感で、いつもの元気を何処かに置いてきた天上天下唯我独尊ガール。本当に似たもの同士だよな、この姉妹。
「…だって、雲雀のせいでお姉ちゃん風邪引いた」
「それはちげーよ、単にあいつが不注意だったってだけ」
それ見たことかね、全くもう。他人を想う心は尊いものだと思いますけれども。それで自分を蔑ろにしたら意味が無いというに。このイケメンを見ろよ。自分を許せずに、ちょっと大切にしなかったってだけで、理不尽(妥当)にブチ切れられたんやで?
「雲雀が風邪引いたから…」
「………」
「…雲雀なんていなければ、お姉ちゃんはデート行けたのに」
「…おい雲雀」
「風邪なんて無ければ、雲雀は風邪引かなかったのに」
「雲雀」
「ウイルスなんて無ければ、風邪はそんざいしなかったのに」
「雲雀?」
「世界が無ければ、病気なんて」
「ひば」
「宇宙が無ければ!創世なんて!!」
「止まれ止まれ静まれ」
お前は何処を目指しているんだ。
…ったく、しょうがないか。
深淵でご機嫌にビートを刻み始めた雲雀を抱き上げると、俺は店の奥に足を向ける。
「母さん、厨房借りっぞー」
「あらー?何するのー?」
そして、俺達の姿を、少し離れて見守っていた大人組の中の代表として、お袋に声をかける。机に肘をついてニココニコニコニココニコしながら、微笑ましく見守る瞳。どうせ、俺のやろうとしていることなんてお見通しておられるのだろう。それでも、勝手をする以上は、許可を得なくてはいけない。社会のしがらみとはそういうものなのだ。…多分。
「…材料、使ってもいいか?」
「……一つだけ、条件があるわ」
びしっ。ふわふわなお顔を引き締めて、お袋が日々水仕事で酷使している指を立てる。いつになく低いお声に、俺が思わず肩を揺らすもすぐに、ほにゃっ…と、いつもの笑みを浮かべた。
「お母さん達の分も、よろしくねー♡」
……やっぱ分かってんじゃねーか。とんだ茶番に付き合わせやがって。
ひらひらと手を振るお袋に、同じ様に手を振り返すと、俺は雲雀と共にさっさと厨房に足を踏み入れる。
「晃、何するの…?」
「んー?」
俺達二人のやり取りを、不安そうに眺めていたちびっ子を下ろすと、俺は燕お手製の可愛らしいエプロンを引っ張り出して、その小さな身体に装着させる。
「お姉ちゃん、元気づかせたいんだろ?」
「……ん」
「女にゃ黙ってスイーツ食わせとけばいいってのが、森羅万象の理なんだよ」




