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本日も隣の小鳥が騒がしい  作者: ゆー
騒がしい日々
17/28

第17話 本日の怖いお話

「ふんふんふふふん、ふんすふんすふ〜ん…♪」


その日、部屋にてまったり寛ぐ俺は、珍しく鼻歌なんて歌いながらそれを起動していた。


いや〜。近所には売ってないわメル某やヤフ某では治外法権みてーな金額要求する世界に喧嘩を売る反逆者達しかいないわで正直もう諦めていたんだけれど、あるところにはあるもんなんだなぁ。


窓もきっちり閉めて、外に音が漏れない様に。えーっと、ヘッドホンに、お菓子に、ティッシュに……。


「よし…」


準備万端。神器を揃えて、いざいざ俺は画面と向かい合う。

これは紳士の嗜みだからな。他の奴らに邪魔されない様に部屋には『絶対入るな』って札をかけておいたし、ヘッドホンでこの世界に浸る準備もしたし。もう、誰にも邪魔させない。


「……ごくっ」


思わずつばめを、じゃない、唾を飲み込んだ。

あーくそ。胸がドキドキしてたまんねえ…。

これから始まる物語で、俺は一体どんなフィニッシュを迎えるのか。 


会社のロゴが表示されて、さあ、いよいよ魅惑のタイトル画面。


布面積の少ない衣服を身に着けた、露出の多い白いお肌のかわい子ちゃんが俺を手招いて……




がちゃ。




「晃」

『ゔぁああああぁああ゙あ゙あ゙!!!』

「のわああああぁああ゙あ゙あ゙!!?」

「………………」


『入るな』って書いておいた筈なんだけどなぁ。


布面積の少ない衣服を身に着けた、露出の多い白いお肌のかわい子ちゃんが喘ぎ声をあげながら俺を手招いている映像を見て、ノックも無しに入室してきた礼儀知らずが年頃の乙女を彼方にかなぐり捨てた叫びをあげる。


布面積の少ない衣服 (ボロボロなだけ)を身に着けた、露出の多い(臓物とか骨)白いお肌(血色悪すぎ)のかわい子ちゃん(可愛い)が喘ぎ声(唸り声)をあげながら俺を手招いて(襲いかかって)いる映像。つまりはゾンビな訳ですが。


全く、最近の若者はマナーがなっとらん。


え?ティッシュは一体何の為だったのかって?ホラーって泣けるだろ?言わせんなよ恥ずかしい///。


「わああああああ!!?」

「入るなって書いてありませんでしたか?」

「ゾン、ゾンっ、ぞぞぞゾン!!!」

「ビ」

「ぞんび!!」


余談でございますが、この燕ちゃん。ホラーが大変苦手でございます。

まあ、ぶっちゃけ俺も血は好きではないが。ハマったきっかけだって、荒療治みたいなものだったし。


腰を抜かして廊下でへたり込む燕の横を通り抜けて、真っ赤な画面を見ても平然としている雲雀が俺の隣にどかりと座り込んだ。その手には、ポップコーンの袋を抱いている。


「晃。こわいのやるなら雲雀もよばなきゃだめだめよ?」

「ふふ…お主も好きよのぅ…」

「「な!」」


最近、俺に鍛えられすぎて、最早、映画感覚で血を愉しむ物騒な童と化している雲雀。

将来が大変心配になるが、俺が今からやろうとしているホラゲーは古いレトロなやつだからセーフ。だって年齢制限なんて何処にも書いてないもん。知らなかったからセーフ。


『雲雀!教育に悪いからそんなもの見るの止めなさい!お姉ちゃんと魔法少女の可愛らしいアニメでも見よ!?』

「あいつらには仲間をぎせーにしてでも生き残ろうというきがいが足りねぇ」

『雲雀!?』


扉をほんの少しだけ開いて隙間から目だけを覗かせるチキンが、餓狼と化した妹を目の当たりにして絶句している。俺がホラーを遊んでいると知ると、いつもあからさまに逃げていたものだから、妹が順調に良くないウイルスに侵されていたことに気づけなかったのだろう。後悔しても時既に遅し。


「ま、臆病者の腰抜け腑抜けの燕ちゅわんは、お店でココアでも飲んでな。毎度あり」

「ついでに雲雀の分も持ってきて」

『だ、誰が腰抜け腑抜けよっ!』


お前じゃい。


『うぐっ……ぐぬぬ〜……っ!』


扉からメキメキと不穏な音を鳴らしながら俺だけに殺気を飛ばす、物騒極まりない燕ちゃんの視線を背に受けながら、俺は何事も無くゲームを始めた。


主人公は一般人。迷い込んだ狂気の館で無数のゾンビや化け物を掻い潜りながら謎を解いて出口を探す、今となっては珍しくも無いホラー。昔特有の荒いポリゴンと容赦の無い残虐表現が、独特の恐怖を俺達に存分に感じさせてくれる。く〜たまらん。


「晃、そのアイテムつかうんじゃない?」

「成程確かに…。よく見てるな雲雀」

「えっへんどやさ」


ツッコミどころが多い謎解きが意外と多かったりするホラゲー界隈。俺でもたまに悩んだりする局面を、意外と雲雀が純粋さ故のひらめきで解決したりするのだ。…これ、意外と知育によかったりするんじゃない?ホラーは義務教育。はっきり分かんだね。


「…わ、私は拳で全部ぶち抜けばいいと思う…」

「主人公、普通の人間なんですよね」

「じ、じゃあ、ゾンビの首を後ろからへし折るとか……」

「こわ……」


いつの間にか音も無く俺の背後までにじり寄り、俺の腰に手を回して隠れる様にしながら画面を恐る恐る覗き込んでいる燕。いつでも俺をスニーキングキルできる態勢である。

慣れてないとこんなゴリラな発想しか出てこないんだから、やっぱりホラーって大切だよ。いっそ国民全員にホラゲー配布しようぜ総理大臣。支持率上昇待った無し。


『ぅ゙ぅ゙うう〜……』

「う、うぅう〜……」

「…………」


画面でゾンビが唸りながら近づいてくれば、現実では燕が唸りながら俺に強く縋り付いてくる。

背中に押し付けられる柔らかい感触と、いつになく可愛らしく怯える乙女の横顔。それに全く反応すること無くエンディングまで辿り着かなければいけない事こそ一番のホラー…か?


「ひ、雲雀?怖くない?お姉ちゃんが手、繋いであげよっか?」

「ないけど、手はつなぐ」

「は、離さないでね?ま、迷子とかなったら、アレだから…」

「このお部屋で…?」


幼子にすらツッコまれる、惨めなお姉ちゃん。

結局その後、お袋が燕達も含めたご飯の時間だと呼びにくるまで、燕は俺の背中に引っ付いたまま離れる事は無かった。












「…………」

「…………」

「…………」

「…………なぁ」

「………………何」


夜も更け、良い子はもうおねむの時間。

トイレもお風呂もちゃんと済ませて、さっさと床に着いた雲雀がいる一方で、俺は未だ燕の家のリビングで彼女に拘束されていた。

服の裾を掴まれているので、立ち上がろうにも即座に引き戻される。睨んだところで睨み返される。そんなやり取りを何度繰り返しただろうか。


「そろそろ帰りたいんですが」

「泊まっていきなさい」

「ええ…」

「私の部屋に布団敷くから。あ、カードゲームとかする?今日は夜更かししてもいいよ。トイレ行くなら絶対声かけてね。怖いだろうから私もついて行ってあげる。鍵は閉めないでね。後」

「自分が怖いなら素直にそう言え」

「………怖くないし」

「じゃあ帰ってもいいよね?」

「…………………………………帰る理由、無いでしょ………」


年頃の乙女の部屋に異性が泊まる。付き合ってない。寝ている隙に布団に潜り込んでくる(多分)。背中に抱き着いてくる(恐らく)。帰る理由しかねえ。


「わーったよ…。俺が悪うございました…」


観念して座り込み、胡座をかけば、すかさず肩のくっつく距離まで燕が寄ってくる。成程、これがインプリンティング…。一つ勉強になりました。


「駄目よ……あんまり人を傷つけるゲームばっかりしちゃ………だめ」


その『だめ』は、弱々しく、けれどはっきりとしたもの。

思わず、呆れとその他色々を含んだ目で燕を見る。


「……。色んなところがもげたり増えたりしてる人を果たして人と言うのかね…?」

「晃がもげたりハゲ散らかしたところで晃である事に変わりないじゃない!」

「史上最悪の例えやめろ」


ガキの頃からつるつるだった爺ちゃん思い出して、さっきやったホラーより遥かに怖くなるだろ。

輝かしい(頭ではなく)将来に不安を覚えつつ、乱雑に頭を掻けば、必死な様相で手を取られてしまった。


「とにかく!今日は!一緒に!寝よう!?私を傷付けた責任、ちゃんと取ってよ…!!」

「誤解を招く言い方もやめろ」

「何の誤解よ!」


きゅ、っと腕を抱き締められ、そして下から見つめられては俺に抗する術も無い。いつもそうだ。


…結局、俺はその夜、慣れ親しんだ部屋で眠れぬ夜を過ごす事になるのだが…。






年頃の男女として、この危機感の無さこそ、一番のホラーだよなぁ………。











「晃、ホラーゲームやろ」

「お姉ちゃんがうるさいんじゃねーの?」

「お姉ちゃんね。最近、寝る時いつもくっついてくる」

「ん?」

「嬉しーけどさすがにあっつい。だからやって」

「…つまり君は俺を生贄にする、と……?」

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