初陣
森を抜け、その大きな気配のところに着くとヴァンパイヤみたいなやつが薄い金髪の少女を殺そうとしている寸前のところだった。
しかも、周りをよく見ると10人ほどの冒険者の死体があり、どれも目を押さえたくなるような状態になっている。
「あれ?思ったより危ない状況だったのか」
これ後一歩遅かったらあの子も死んでたよな。
いや~、間に合うと思ってたんだが……思ってるよりあの魔物が強かったんだろうな。
「……!!逃げてください!その悪魔は危険です!私が時間を稼ぐのでそのまま森に!!」
その金髪の少女は急に俺が出てきたことに一瞬戸惑っていたが、すぐさま逃げるように忠告してくる。
俺がいなくなったら自分が死ぬというのに、それでも巻き込まないように「助けて」ではなく「逃げて」という言葉が出る人はそうそういない。
それを見て、なんと面白いのだろうと、そう思った。
「あら?せっかく忠告をもらったのに逃げないのですね?まだお若いでしょうに、もったいないですよ」
「いやだって、その子ほってほけないし、どうせ逃げて追いかけてくるでしょ?」
「…ははは、おっしゃる通りですね。では、ここでまとめて楽にしてあげます」
その悪魔は一旦俺たちから離れるように道の奥に下がる。その表情は不気味にニヤッと笑みを浮かべている。
おそらく彼女にトドメを刺さなかったのは俺を殺してからでもいいと判断したからだろう。
「……なんで逃げなかったの!?見てわかるでしょ!!あいつ悪魔なんだよ!!君まで死んじゃうんだよ?」
やってやろうじゃなねぇかと、俺が道に出て彼女の前に立つと、後ろからさっきの少女が俺に思いっきり怒鳴ってきた。
「ん?あー大丈夫大丈夫、あんな程度に負けることはないから」
「…そんな…ってあなた武器もってないじゃない!勝てない相手に挑むのは勇気じゃなくて無謀って言うの!!わかってる!?」
「あー、武器ね。それならほらこれ」
「…は?それ、ただの棒じゃない!!そんなので勝てるわけないでしょ!!」
「知ってるか?ただの棒でも人は殺せるんだぜ?」
「…なにをいって…」
「…おやすみ。すぐ終わらせるから」
これ以上つっかかられても戦闘の邪魔になると思い、落ち着かせる意味でもひとまず俺は彼女をみねうちで気絶させた。
「別に律儀に待ってもらう必要はなかったんだぜ?」
「せっかくの今世の別れぐらい時間を取らないとかわいそうでしょう?私からのせめてもの慈悲ですよ」
「へぇ、言ってくれるね?」
「あなたこそ、そのただの棒きれで私を倒せるとでも?」
「まあ、一撃くらってみればわかるって」
「……面白い。ではかかってきなさい」
その悪魔は目の前で棒立ちして紫色に光る壁で自分を覆った。
…どうやら本当に一撃食らって見ようとしているようだ。本当にとことんまで舐め腐ってやがる。
…でもまあ、これはこれで都合がいい。いきなり激しい戦闘をしなくて済みそうだ。
「…ふぅ〜」
息を吐きながら、その棒を握りしめ、刀を振るうように構える。
全神経を極限まで集中し、体全体の力を感覚をコントロールし、その一撃を放つ。
目に見えぬほどの速度で切られた空気はその速度を威力を吸収し、風の刃となり至高の一撃が放たれる。
「『風刃』」
その風の刃はその悪魔でも反応できない速度で一瞬で光の壁に当たり、突き破り、その悪魔の肩を切り裂いた。
「案外、思った通りに体って動くもんだな。やっぱ若いっていいわ」
初めてこの体で剣(棒)を振ってここまで動けるのは珍しい。
大半が最初に加減を間違えて体のどこかを痛めたり、下手しすぎて死にかけたりするものなのだが、今のところどこも体に痛みらしきものはない。
……これならもうちょっと行けるな。
そんなことを思いながら悪魔の方を見ると彼は、目を開き驚愕の表情を浮かべていた。
「……あれぇ悪魔さーん。まさかただの少年の放った棒切れの斬撃に負けてなんていませんよねぇ?」
というわけで、せっかくなのでここぞとばかりに煽る。せっかくなので年齢を生かしてクソガキっぽく盛大に。
「ふふふ、あははははははははは!!」
煽りにどんな反応をするのかと思っていると、悪魔はなぜか突然大声で笑い出した。
その笑い声は森全体にすら届くぐらい響き渡るほどで普通にうるさい。
それに個人的には怒ったり、驚いたりしてあわあわするのを期待してただけに、テンションがダダ下がりした。
「あはは!…あー笑った笑った。……いやはや本当に予想外でした。まさか私の壁を破れるものがこの世界にいるとは。……私は悪魔16王の一人第16の悪魔ベリルと申します。あなたのお名前は?」
「あ?お前に名乗る名前なんてねえよ。……ただの通りすがりの剣士だ」
「……なるほど面白い答えですね。いいでしょう覚えておきます」
「別に覚える必要なんてねえよ。どうせ今ここで死ぬんだからな」
「ははは、言ってくれますねえ。私そういうの嫌いじゃないですよ。…ああ、なんとも惜しいこんなに面白いところだというに…どうやら時間切れのようです」
「は?お前逃げるの?」
「いいえ、正確には私が見逃してあげるのです」
「…ほう?」
「あなたは確かに強いかもしれません。ですがそれは人の範囲内のお話。私がやろうと思えばあなたなど一秒もかからないのですよ。…ですが、あなたは勇敢にも立ち向かい私に傷を負わせました。ならばその褒美があってしかるべきです」
「…それで見逃すと、でもお前がたとえ見逃したとしても俺がはいそうですかと引き下がるとでも?」
「ええ確かに、あなたの斬撃の速度は私でも反応ができません、…ですがただそれだけの話。…さてあなたはどんな選択を選びますかな?」
すると悪魔はまた自分の目の前に壁を生み出した。しかし今度の壁はさっきみたいな紫色ではなく、真っ黒な球体の壁だった。
俺はその壁をみてすぐにわかった、…その壁の《《次元》》が違うということに。
ここでの次元は力の次元とかそういう話ではなく本当に物理的に次元が違うということ。
そしてそれが意味することは簡単、あの黒い壁に触れたとき、空間ごと削られ防御も意味なく、触れたものが文字通り消える。たとえそれが斬撃などの物質ではないものだとしても…それが次元が違うものに触れるということなのだ。
「『界無壁・突』」
そんな死の壁は悪魔の詠唱とともにまっすぐ放たれ、気絶しているさっきの金髪の少女めがけて地面を削りながら一直線で迫っている。
すぐに振り向いて走り出せばこの体ならあの少女を助けられるが、それをすれば悪魔は逃げれてしまうだろう。
逆に悪魔を斬れば、彼女は次元ごと削られ死んでしまうだろう。
つまり、これはあいつの言った通りの二択なのだ。
…あの悪魔!!選ぶってそういうことかよ!人を見殺しにするか自分を殺すかの二択ってか!紳士みたいな恰好しといてやってることド畜生のくそやろうじゃねえか!!
「ふふ、ではこれで失礼いたしますね。勇敢な剣士様」
そうして、悪魔は霧を出現させ、その場から消えようとしている。当然倒れている彼女を助けないという選択肢はないため、これは完全にしてやられたという感じだ。
…そう、俺じゃなきゃな…。
「…いいか、悪魔。覚えとけよ、次元を操れるのはお前だけじゃねえんだよ」
「…は?」
再び棒を握りしめ、刀を持つように構える。しかし、今回はそれだけではない。
より集中し、刀身へ魔力を込める。イメージは具現化し、魔力は剣へと変形する。
その剣はさっきより強くけれどさっきより遅く、空間を世界を次元を切り裂く。
「『名刀 界』」
空間を切り裂くその刃は次元の壁を切り裂き、そしてその悪魔までをも切り裂こうとしていた。
「…ちっ、さすがにたかが棒じゃあ耐えれねえか」
しかし、その刃が届く寸前で握っていた棒が限界を迎え崩壊を起こしてしまった。
「あははははははは!!ああ、あなたはどこまで興味深い存在なんだ!!また逢う日が本当に楽しみです!…では、さようなら」
そういう声がした後、悪魔のいたところの霧が消えると、そこにはもう悪魔の姿はなかった。
「…はあ、結局逃がしちまったか。まあ、初戦で悪魔相手に死なずに一人救えただけラッキーか」
それにしても、あの悪魔普通に強かったな。そこら辺の異世界のやつらじゃあいつ絶対勝てないだろ。
というか、この世界に次元ごと斬れるやつなんているのか?
…ったく、命初神が俺に頼んだ理由の片鱗が見えた気がするぜ。
「あー、ここまで転生早々いろいろあると疲れるわ。まあ、街に行くためにもとりあえず、この彼女が目を覚ますまでは休憩でもしてましょうかね。」
***
~魔界~
「ベリルただいま戻りました」
「お~!ベリルどうだった?久しぶりの人間界は、」
「あー__さんですか。ええ、なかなか面白かったですよ。…ただ皆様昔よりだいぶ弱くなってましたね。」
「ははは、だろうな。俺らを封印にしたやつらがいたのなんてもう1万年前ぐらいも話だもんな。これから計画始がはじまるし、歯ごたえのいいやつが残ってたらいいけどな!がはは!」
「ふふ、その点は安心してください。一人、なかなか面白い人を見つけましたから…。」