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超短編小説『千夜千字物語』

『千夜千字物語』その23~忘れ物

作者: 天海樹

インターホンを押すと返事がしたので、

カメラと思わしきところに向かって

「今度隣に引っ越してきました

 タナカです」

と夫婦揃って挨拶をした。

すると、ドアを開けて出てきたのが

なんと外国人だった。

「ハジメマチテ」

「初めまして。こちらお近づきの印として」

そう言って菓子折りを手渡した。

「オチカチュキ?」

「Meaning to get along

 (仲良くしてくださいっていう意味)」

「Oh, I see! ユー、ヤサシイネ」

と握手を求めてきたので、固い握手をした。


「隣の人、相当喜んでたね」

挨拶も無事済ませ、二人はホッとしていた。

何しろ近所の人たちには

絶対に怪しまれてはならないからだ。


ある日仕事から帰ってきて

二人で収穫物をチェックしていた。

「やっちまった!」

夫はアクセサリーを入れた

小袋がないことに気づいた。

金目の物を忘れてきたことに

落ち込んでいると、

翌日ドアノブに袋が掛かっていた。

中を見ると昨日忘れた例の小袋だった。

二人は目を合わせた。


その次の仕事では

今度は妻が高価な時計を持って帰るのを忘れた。

「最後に持って出ようとしたのに」

悔しがっていると

次の日またドアノブに袋が掛かっていた。

中身は忘れた時計だった。


さすがに二人はおかしいことに気づき

「もしかしてお隣さんかな?」

と例の外国人を疑いだした。

「きっと私たちの会話を

 壁伝いに聞いているのよ」

ということで、物は試しで

わざと大きな声で話してみた。

案の定、翌日のドアノブに話していた

忘れ物が届いていた。


そうとわかったら、

彼を巻き込むのだけはやめようと

二人で決めた。

そう、彼らは窃盗犯。

その窃盗犯の忘れ物を取りに行かせては

彼も同罪になってしまう。

それから二人は、

仕事から帰ってきてから

忘れ物の類の話を一切やめた。


ある夜、

「おい、行くぞ!」

2階いた夫が急いで降りてきて妻に言った。

夫の慌てぶりから

妻も今ある物だけを手に取り急いで外に出た。

家に帰ると、

「どうしたの?」

「顔見られた」

「でどうしたの?」

「殺っちまった」

「それで、そのままにしてきたの?」

「持ってこれないだろ…」

と言ってすぐに気がついて夫は口をつぐんだ。

そして小さい声で

「聞かれたかな?」

と呟いた。


翌日、昼過ぎに起きると恐る恐る玄関に行った。

そーっとドアを開けると、

脇には棺桶のような細長い箱が置いてあった。

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