文のやりとり
第6章
娘の結婚式にも参列できないどころか、会うこともお祝いの手紙を出すこともできない。ジュリエットの、いえエレノアの父親であるアルフォンソには言えない愚痴を、つい行商の青年に漏らしてしまった。
エレノアの母が自分であること、事情があり、母だと名乗り出ることが出来ないこと。誰かにこの苦しさを打ち明けないと、気がおかしくなってしまいそうだった。軽率な行動だったかもしれない、でももう精神的に限界だったのだ。
すると行商の青年は、私の手をとり、静かに、しかし覚悟を決めたような声でこう約束してくれた。
「私がお手紙を届けましょう。実はお嬢様の婚家とは商売の取引があるのです。お嬢様からの返信もお預かりして参ります。」
その言葉に驚いて見上げると、そこには大人の顔になっていた青年がいた。
「ただし、1つだけ絶対に守っていただきたいことがございます。このことは決して誰にもおっしゃらないでください。もし私が手紙のやりとりを仲介していたことが父に露見したら、二度とこちらに伺うことが出来なくなります。ご家族にも召使いにも秘密にしてください。」
「娘の父親にも?」
「もちろんです。」
領主の息子との婚姻で、ジュリエットの身の安全が確保できたと喜んでいたのに、彼は相変わらず、ジュリエットにはまだ会わない、連絡もしないでいてほしいという。あまりに理不尽な彼の要求に、私は絶望していたのだ。もしかしたら産んですぐ引き離されたのであれば、ここまで執着しなかったかもしれない。でも十年以上、この手で育ててきた娘なのだ。
私は手紙で、ジュエリエット、いえエレノアが子どもを、それも双子の男女を出産したということを知ることが出来た。
アルファンソの来訪は、かなり間遠にはなっていたが、それでも2ヶ月に一度くらい訪ねてきてくれていた。もちろん私はエレノアが孫を産んだことを自分から話せなかったが、彼も私に話さなかった。知っていたら、私に話してくれただろう。
だから、彼と一緒に孫の誕生を喜べなかった。誰に聞いたのかと詰められてしまうから。それがとても辛かった。
アルフォンソは、もう私の子どもや孫たちのことをほとんど話題にしなくなった。
娘と手紙のやりとりをしていることはずっと秘密にしていた。
一度だけ、双子のうち、男の子、フィリップが僧籍に入ると聞いたときは、アルファンソに彼を庇護して欲しいと伝えたかった。けれど、できなかった。
私の出自が暴露され、フィリップの出世に影響してしまったら、と思うと恐ろしかったから。