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「ミルリーフよ、もう地下エネルギーの調査から戻ったのか?」

 国王が姿を現した。立派な髭の老人で国王らしく立派なたたずまいだが、威張ってばかりいる多くの国の国王とは違う雰囲気だ。


「はい。それで……地下エネルギーの採掘中に国王にお伝えしたいことができまして」

 ミルリーフは歯切れ悪く国王に進言する。


「ほう……ん? そちらの者は?」

 国王はミルリーフの横に立つアルカンタラに目をやる。


「……サドラー国王……!?」

 アルカンタはボソッと呟く。


「む? サドラーはワシの祖父だが……? ワシは現アムハイナ国王のウェルズじゃ」

「ア、アルカンタラ……アンタは黙ってて!」

 慌てるミルリーフ。


「……見たところ、その者は我が国の鎧を着ているようだが……ん、その両腕の入れ墨は?」

 国王はアルカンタラの全身を興味深そうに見る。


「失礼致しました。実はこの者は――」

『ガチャ!』

 突然、部屋のドアが開けられる音でミルリーフの言葉はさえぎられる。


「こ、国王っ!」

 国王の部下が息を切らし、汗だくで部屋に飛び込んでくる。


「なんじゃ!? ワシは今、客人と話をしているところじゃ!」

 国王は部下の男を叱り付る。


「申し訳ございません……緊急でご報告が……この城の周りにモンスターが現れました!」

 部下の男は慌てた様子で国王にそう告げる。


「な、なんじゃと!?」

「うそ、モンスター……? この国にも……?」

 顔面蒼白になる国王とミルリーフ。


「く……とうとう我が国にもモンスターが現れおったか……」

 国王は硬く拳を握る。


「戦いの準備じゃ! 戦士に魔法使い、ありったけ集めろ! ミルリーフ、お主もすぐに戦いの用意をしてくれ!」

「は、はいっ!」

 ミルリーフは恐怖に震えながらも、力強い返事をする。


「モンスターか……なんとしてもこの国を守るぞ!」

 国王の言葉が部屋に響く。


「アルカンタラ! アンタも来なさい!」

「お、俺も?」

 アルカンタラの手を引き、ミルリーフは部屋を飛び出し、バルコニーから外を見渡す。


 ◇


 城の上空には、数羽の巨大な鳥の姿が見えた。


「あれは……さっきと同じサンダーバードよね? でも、さっきのよりだいぶ大きいわ……」

 額に汗をかきながらミルリーフが言う。


 いつ城を襲おうかと品定めでもするように、旋回をしているサンダーバードの群を見上げる2人。


「ああ……しかしアレはとんでもないな……」

 アルカンタラは目を見開きサンダーバードを睨みつける。


「……アンタでもヤバいくらいの大きさなの!?」


「ああ、アレはヤバいな。あの大きさのサンダーバード……あの羽だといったいアイテムショップに売りに行ったらいくらになるんだろうなぁ!」

 ニヤニヤと笑うアルカンタラ。


「……は? アンタ……この緊迫した状況でよくそんなこと言ってられるわね……」

 怒りを通り越して、呆れるミルリーフだった。


 そんな2人をよそに、サンダーバードは城に向かって急降下する。

 迎え撃つ戦士達は空に弓を放ち、魔法使い達は手をサンダーバードに向け魔力を溜めている。


「なあ? お前もそうだが、なんでこの時代の魔法使いはああやってチンタラ魔法を溜めるんだ?」

 手をかざし魔力を溜めている魔法使いを見てアルカンタラは不思議そうに言う。


「チンタラって……当たり前でしょ? 体内の魔力をしっかり貯めて、魔法に変えて撃つんだからだから。アンタだって魔法使いだから分かるでしょ?」

 ミルリーフは魔法の仕組みを説明する。


「魔力を溜める……え? お前達……もしかして」

『バサッ!』

 アルカンタラは何かに気づき、突然ミルリーフの服をめくり肌を見る。


「キャッ! ちょ、ちょっと! こんな時に何すんのよ変態!」

 突然の出来事にミルリーフは顔を赤らめ、アルカンタラを引っ叩く。


「痛ッ! ……そうか。どこにも入れ墨がないと思ったら、お前達は魔方陣を持ってないのか……」


「魔法陣? なによそれ? …… ッ! 話してる場合じゃないわ! 来るわよ!」

 ミルリーフは空に視線をやる。


 サンダーバードは矢を振り払い、魔法をものともせず雄叫びを上げながら一直線に城に向かってくる。

「まずいわ……攻撃が全然効いてない……」

 ミルリーフは悔しそうに歯を食いしばる。


「皆の衆、逃げるんじゃ! 城は捨ててよい! 命を守るんじゃ!」

 国王は民衆が慌てふためく城の外で大声をあげる。


「ふふ……あのウェルズとかいう国王、やっぱりサドラー国王の血を引いてるみたいだな。甘い国王だ」

 市民を助けようと、大声を出す国王を見てアルカンタラは小さく笑った。


「アンタね……甘いってなによ! 失礼ね!」

「ああ、悪いな。サドラー国王も、魔王討伐へ行く俺たちを危険だからと止めたもんだ。偉い奴には珍しく優しく男だったよ。今の国王も嫌いじゃないね」

 アルカンタラは昔を懐かしむように呟く。


「じゃあそんな訳でちょっと行ってくるわ」

「え? ちょ、ちょっとアルカンタラ、どこ行くのよ?」


 アルカンタラはそう言い、バルコニーからサンダーバードが向かう城壁へと飛び移った。

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