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「ア、アンタ……名前は?」
ミルリーフは恐る恐る慎重に尋ねる。
「はぁ? 何言ってるんだ? 俺はアルカンタラに決まってるだろ」
男は怪訝な目でミルリーフを睨みつける。
「あれ? アルカンタラって……たしか?」
ミルリーフは少し考え込む。まさか……
「……アルカンタラ……アンタは地下でしばらく氷漬けになっていたの」
ミルリーフはゆっくりと男に語りかける。
「ああ、そうみたいだな、ったく、こんな大事な時に情けない」アルカンタラは顔をしかめる。
「だから少し質問させて? ほら、頭が大丈夫か調べないと?」
「しかし、今はソーサー1人で戦っているんだろ? 急がねぇと」
「……ソーサー? ア、アンタの生年月日は?」
男の口から当たり前のように出てくる100年前の勇者ソーサーの名前にミルリーフは確信する。
「まったく。アゼリは心配性だな。882年9月7日生まれの18歳だ」
「882年……はぁ……なんてことなの?」
頭を抱えるミルリーフ。
「もういいだろ! 早く行くぞ!」
「……アルカンタラ。落ち着いて聞きなさい」
飛び出そうとするアルカンタラを押さえつけるミルリーフ。
「なんだアゼリ? 神妙な顔をして。さっきからお前おかしいぞ!?」
「……私はアゼリじゃないわ」
「お前……こんな時に何を言ってるんだ?」
ポカンと口を開くアルカンタラ。
「私はミルリーフ……982年2月23日生まれの18歳よ」
「……は? きゅ、982年生まれ……? 882年の間違いだろ……」
アルカンタラは目を丸くする。
「私は勇者ソーサーと女賢者アゼリの孫の孫。そして……今は魔界歴1000年よ……」
「1000年……?」
状況が飲み込めないアルカンタラ。
「……アンタは魔王との戦いから100年間氷漬けになっていたみたいね」
「……冗談だろ……?」
戸惑う表情のアルカンタラ。
「……落ち着いて」
ミルリーフは放心状態のアルカンタラを優しくさする。
「そんな……100年……!? うそだろ……?」
アルカンタラは驚きのあまり膝から崩れ落ちる。魔王の攻撃で自分が凍った事までは覚えている。しかしアルカンタラの感覚ではほんの数分前の出来事だ。
「ま……魔王は……?」
呆然とした表情でアルカンタラを尋ねる。
「……大丈夫よ! 勇者パーティー……つまりあんたたちが100年前に滅ぼしたわ!」
ミルリーフ微笑みながらアルカンタラの肩に手を置き言った。
「そ、そうか……そうか! よかった。さすがソーサーとアゼリだ!」
100年前の魔王討伐にアルカンタラは心から喜んだ。
「たしか勇者パーティーの魔法使いにアルカンタラという青年がいたと聞いたことがあるわ。本当にアンタがそのアルカンタラ……? 私のおじいちゃんたちの仲間……?」
「……そういうことだろうな。まあ俺は勇者や賢者に比べたら、全然たいした魔法使いじゃなかったけどな……」
100年ぶりに目を覚ましたという勇者パーティの魔法使いアルカンタラに戸惑うミルリーフだった。
「え? ってことは……今はソーサーやアゼリは……?」
魔王討伐から100年の月日が流れたと知ったアルカンタラは恐る恐るミルリーフに尋ねる。
「……残念ながら」
ミルリーフは少し俯き答える。
「くっ。そうだよな……100年か、無理もない……」
アルカンタラは拳を握りしめる。100年という歳月の長さを実感していた。
「……私が生まれる少し前に2人とも亡くなったわ。だから私も会ったことはないのよ……2人とも亡くなる直前までモンスターを狩って、世界の平和を願ったと聞いているわ」
「そうか……ふふ、アイツららしいな……」
アルカンタラはうっすらと涙を浮かべながら笑った。
「じゃあ……今この世界は平和なんだな……?」
「ええ! あなた達のおかげでね!」
ミルリーフは親指を立てる。




