ダンスパーティー中に婚約破棄を宣言されましたが、証拠を集めていたのでその場でざまぁ仕返させていただきますわ
ドミノ王国の王城内。
今宵、楽団が奏でる美しい音楽の流れるきらびやかなホールで、王子の通う貴族学園のメンバーを集めての、誕生日ダンスパーティーが行われていた。
トップを飾ったのは、王子と男爵令嬢だ。会場がざわつく。
本来婚約者であるのは公爵令嬢なのだ。それなのに、最近学園に入ってきたばかりの平民上がりの男爵令嬢が公爵令嬢を差し置いて王子と踊っている。これに皆動揺が隠せなかった。
公爵令嬢はというと、キツイ視線を王子と男爵令嬢に向けている。ともすれば、この場で揉め事が起きるのは時間の問題。そう思われた。
王子達が踊り終えると、王子と男爵令嬢は階段を登り、ホールの皆を見下ろし声たかだかに叫んだ。
「公爵令嬢! お前との婚約を破棄させてもらう! 構えろ!」
そう言い放ち、王子は男爵令嬢と腕を組みながら、利き腕にデュエルブレードを構えた。
投げかける視線の先には公爵令嬢。デュエルの合図だ。
「何を馬鹿なこと! しかしそう言われれば応じるしかありませんわ! かかってくるが良いですわ!」
公爵令嬢も受けて立たんと言わんばかりに、侍女から渡されたデュエルブレードを構え応じる。
ここに、王子は見下ろす形で、公爵令嬢は見上げる形でデュエルの火蓋が切って落とされた!
王子は有無を言わさず先行を取る。
「カードを1枚ドロー! フン☆ 魔法カード発動! 婚約破棄!」
王子は人差し指と中指でカードを挟み、顔の横で表に翻して見せてからデュエルブレードにセットした。
公爵令嬢は、前準備なしのいきなりの婚約破棄に戸惑う。
「婚約破棄ですって!?」
公爵令嬢の動揺に、王子は気を良くし、インチキじみたカード効果を読み上げ始めた。
「このカードの効果によって、お前は平民上がりの男爵令嬢を罠にはめた悪役令嬢となり、俺との婚約が破棄され追放される!」
婚約破棄の本来の効果は文字通り婚約が一方的に解消されるだけである。ありもしない事実の捏造や追放は効果に含まれない。
だが貴族の間で行われるデュエルは言ったもの勝ちという暗黙のルールが存在し、この傾向からトークデュエルと揶揄される事が多い。
「フハハハ! たったの1ターンで終わってしまうなどと、お前も存外そんなものだったか。さあ! 許してほしければ土下座して謝罪しろ!」
ドン☆
と、王子は大見得を切って一歩前に出る。こんなアホなことをしていても格好だけはつけたいのだ。
そんな王子の横暴により、公爵令嬢は問答無用で悪役令嬢になる……かと思われたのだが……。
公爵令嬢もそこらの貴族とは違う。生粋のデュエリストだ。カウンターを放つ。
「気が早くってよ! この私がそのようなものに打ちひしがれると思ったら大間違いですわ!」
「ほう。そうでなくてはな!」
「トラップカード発動! "ざまぁ!" このカードの効果により、私は無罪の証拠を公表できますわ!」
トラップカードざまあ。
本来の効果は、デュエル中に、悪口を始めとする精神ダメージを与えるのを解禁する永続効果だ。
王子は最初からやっているが、公爵令嬢はこれをしっかり手順を踏み、王子の喧嘩を買った形になる。
そして、カードとは全く関係のないところで事前に集められたプリントアウト済みの証拠が、侍女の手により一枚一枚、地位の高いものから丁寧に配られてゆく。
内容は、男爵令嬢の戯言の全てが虚言であるという裏取りだ。
この盤外戦術に、王子は、王子がしてはいけない打ちのめされたような表情を浮かべ、片膝を着いた。
ざまぁの効果により、豆腐レベルのメンタルにダメージを受けてしまったのだ。こうなってはしばらく立ち上がることは出来ない。
公爵令嬢はそれを見てふんぞり返り、勝どきを上げる。
「たった1ターンで終わってしまったのは、私ではなく……アナタでしたわね。王子!」
扇子を広げ、口元を隠しオーッホッホッホと高笑いを上げる公爵令嬢。最早、どちらが上かは誰の目にも明らかだった。
このストレート1カードキルは、しばらく学園で伝説になり、そこに通う貴族達にこう言わしめた。
「あいつらお似合いだよな」
と。
なお、男爵令嬢は普通に罰せられた。