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第8話 お前にはむりむり♡諦めちゃえ♡


「……はい。申し訳ございませんが、こちらの買取りは出来かねます」


 店員さんからの答えに、私は思わず絶句する。昨日集めたヴォーパルラットの前歯が売れないらしい。



「ど、どうして……」

「お客様が、探索者協会の会員ではないからです。登録証をお持ちではないのですよね?」

「はぁ? そんなの、私が持っているわけないじゃない! だって私は――」

「(ちょっと、サキ! それ以上はまずいデビ!)」


 デビちゃんからの念話でツッコミが入る。


 あ、しまった。

 つい反射的に答えちゃったけど、これじゃあ自分で「怪しい者です」って言っているようなものじゃない。


「(ごり押そうとしても無駄デビ。日本人は規則に対して融通が利かないデビ!)」

「(……たしかに。店員さんの目が鋭くなった気がする)」


 お姉さんがジト目で私のことを見つめている。アレは完全に怪しんでいる顔だ。



「失礼ですが、こちらのドロップ品はどういうルートで入手されたのですか?」

「え、えっと。その……」


 やば、どうしよう。

 ここは一旦退却した方が良いわよね。


 私は慌ててカウンターに並べていたドロップ品をかき集め、逃げるようにその場を後にした。




「もう、何よ。登録証が必要なら先に言ってよね!」


 お店の前まで出たところで、私はデビちゃんを睨みつけた。何も悪いことはしていないのに、これじゃ犯罪者みたいじゃない!



「調べてみたところによると、売買には正式な探索者になる必要があるそうデビ」

「情報が遅いのよ!」

「そういうサキだって知らなかったデビ?」

「うっさい、うっさい!!」


 探索者になるためにはまず、協会の審査に通らなきゃならなくって。探索中に命を落とす危険があるから、知性や体力面などをテストしているんだとか。


 当然ながら未成年は審査を受ける資格すらない。つまりいくら私が大人っぽくてエッチな見た目をしているからって、成人していることを証明できなきゃ駄目ってこと。



「大人っぽい? いったい誰の話デビ?」

「うっさいわね! すぐに大きくなってみせるわよ!」

「百年前もそう言っていたデビ」


 デビちゃんが何か小声で言っている。もう、いちいちうるさい使い魔ね!


 まぁ登録証が無くても、自分のダンジョンなら関係なく入れるから良いんだけど。問題は、このままじゃお金稼ぎができないってことなのよね……。



「――あれ? もしかしてサキさん?」

「えっ……?」


 私の背後から、どこかで聞き覚えのある声がする。


「えっと……エリカさん?」


 振り向くと、そこには見覚えのある顔があった。



「あっ、やっぱり! 今日は()()()()を着ていたので一瞬分からなかったけど、()()()()()()()()で気付いちゃいました!」


 普通の? 可愛いオーラ??


 エリカさんは嬉しそうに微笑みながら、こちらに近づいてくる。

 彼女もダンジョンで見掛けた時とは違って、白いワンピースを着ていた。清楚なイメージそのままで、まるで天使みたい。


 隣にはやたらイケメンの男性を連れていた。え、もしかしてデート中なの!?



「あ、あの……ごきげんよう……」


「(喋り方がぎこちないデビ)」

「(仕方ないじゃない! 今は配信中じゃないし、小悪魔キャラは変でしょ!)」


 自分でも演技が下手だとは思うけれど、なんとか彼女に合わせようと頑張ってみる。そんな私を見て、エリカさんは不思議そうな顔をしながらも微笑んでくれた。


 ああもう! この子の笑顔は反則でしょ!? 彼氏もこんな子の隣を歩けるなんて、羨ましいぞこの野郎!


 そんなことを考えていると、少し遅れて男性が口を開いた。



「エリカ、その子ってもしかして」

「そう、私の命を救ってくれたサキさん!」


 ぱあああっと花の咲いたような笑顔を向けてくるエリカさん。


 男性も予想通りと言った様子で、こちらに視線を向けてくる。



「やはり、キミがエリカの命の恩人か」


 お、おう……な、なんだか照れくさいな。 もう配信中じゃないから普通に喋っても良いよね?


 そう心配していた私に、イケメンさんは丁寧に話しかけてくる。



「初めましてサキさん。僕はエリカのマネジャーをしている、浦霧(うらぎり)です」

「え、マネジャー!?」


 あぶなっ! 思わず彼氏さんですか?って聞くところだった……でもそっかー。人気配信者ともなると、マネジャーが付いてくれるんだぁ。羨ましい……。


「サキには敏腕マネがいるデビよ?」


 その敏腕ナントカさんは、登録証のことを教えてくれなかったけどね。



「はい、その節は本当にありがとうございました。彼女を失ったら、僕は今頃この世にいませんでした」

「あははっ、変な冗談を言わないでよ浦霧さん! 私がいなくても、貴方はやっていけるでしょ!」

「僕は別に冗談なんて……」


 あ、これはガチのやつだ。

 浦霧さん、エリカさんのことを仕事のパートナー以上の存在に想ってるわコレ。


 本人はそのことに、全く気が付いている様子はない。これがいわゆる、鈍感系ヒロインの可愛さってやつなのかもしれない。



「あらためて、サキさん。先日はありがとうございました。おかげでこうして今も生きています」


「え? あ、いやそんな大したことは……(あのオークを放ったの、私だし)」


「そんなことないです! サキさん、とってもカッコ良かったです……私、すっかりファンになっちゃいました!」


 エリカさんは深々と頭を下げたあと、少し恥ずかしそうに頬を赤らめた。


 あ~この表情かわいいなぁ~!

 隣の彼も、自分の鼻を押さえて横を向いてしまった。



「今度こそ、お礼をさせてくださいね!」

「いや本当にお構いなく……」

「配信で見た時よりも案外マトモだな……やっぱりメスガキは偽物なのか?」


 おい、そこのマネージャー。今なんつった?



「ところでサキさんはこちらで何を? お買い物ですか?」


 ニコニコと屈託(くったく)のない笑顔で尋ねてくるエリカさん。


「あの、実は登録証を持ってくるの忘れちゃって……」

「それじゃ、お困り中ということですか」


 エリカさんは私の説明を聞いて、目を丸くする。嘘を吐いたことに少しバツが悪くなりながらも、私は頷いた。


 すると彼女は「なるほど」と言ったあと、口に手を当て少し考えてからポンと手を叩いた。


「それでしたら、私が良いところをご紹介しましょうか!」



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