第6話 うわっ、大人のクセによわすぎぃ♡
あ、あははは?
なんだろう、力加減をミスったかな?
「あっ、向こうにもヴォーパルラットが居たよ! もっかいチャレンジするね!」
――ばちゅん。
<うっわ、グロい>
<抱き着いただけで、敵の体が弾けたぞ>
<これもスキルのせい?>
<まさか、ただの馬鹿力なんじゃ……>
<モフモフとの触れ合いはどこへ行ったw>
「お、おっかしいなぁ~。あっちに別の2体が居るから、今度は成功させるよ! もっと、やさ~しく……」
――ばちゅん、ばちゅん。
「…………」
<血塗れで引き攣ったこの笑顔>
<笑って誤魔化そうとするな>
<手加減間違ったじゃ済まないレベル>
<マジもんの悪魔だわ>
<ミンチ製造機やんけ>
こんなはずじゃっ……も、もう一回!!
………………
…………
……
「……ヴォーパルラット、居なくなっちゃった」
辺り一面に広がる血の海。
そして己の全身にこびり付いた、ドロドロとした肉片。床も壁も天井も、生臭い赤で染まっている。
なんで、どうして……。
私はただ、可愛いモフモフと触れ合う配信を皆に見せたかっただけなのに。
<泣きたいのはモンスターの方だろw>
<ネズミさん可哀想……>
<サキさん可愛くて強いなんて最高です!>
<フォローの仕方が狂信者レベルw>
「サキ。スキルの説明はもう十分デビ」
「……」
「結果的に視聴者数も跳ね上がったデビ。ダンジョン探索はこの辺にして、配信を終わらせるデビよ」
「……うん。癒し配信は、また今度にする」
<癒し……?>
<まだ諦めてなかったのかww>
<この状況で言えるセリフか?w>
<モンスターさん逃げてw>
配信終了間際に流れた「サキお嬢様、分からせお疲れ様でした!」という皮肉の効いた挨拶が、胸に刺さる。
終わった……私もエリカさんみたいな配信アイドルになって、視聴者からチヤホヤされてみたかったのに……。
「うぇえええっい! もうどうにでもなぁれぇってんだぁい!」
作戦会議室&生活スペース……そして現・反省部屋に戻ってきた私は、一人で打ち上げを始めていた。
こうなったらヤケ酒でも始めないと、やってられないわよ!!
「はいはい、どうせ私は駄目配信者ですよ~だ。マトモに企画配信もできないし、モンスターを虐殺する悪魔みたいな女だもん! ひっく!!」
「完全に自虐モードに入ったデビ。面倒な酔っ払いデビ」
「だって仕方ないじゃん! 私だって酔いたいときがあるのよ……、私っ、だって……」
床で胡坐をかいていた私は、目の前にあるローテーブルへと泣き崩れた。その衝撃でテーブルに並んでいたアルコールの空き缶たちが、ガラガラと音を立てて倒れていく。
これらは全部、知り合いの悪魔から買った、安くてアルコール度数の高いコスパ重視のお酒だ。
発泡酒は不味い?
リキュールは悪酔いする?
酔えれば良いのよ、酔えれば!
「あ゛ぁ~っ!! もうやけくそよ! 今日はとことん飲んで喰ってやるんだから!!」
「サキ。あんまり飲むと明日に響くデビ」
「……うるさいわね! どうせ今の状況も、サブチャンネルで配信してるんでしょ!」
別にいーわよ。
これぐらいで幻滅する程度のファンなら、さっさと去ればいいわ!
そもそもなんで私が、人間なんかに媚びなきゃダメなのよ! 推すなら、ありのままの私を愛しなさいよ!
「はぁ、せっかく軌道に乗れるかと思ったのにデビ。――ん? ……サキ」
酔いでクラクラとしてきた私の視界の端で、デビちゃんがタブレット端末を私に向けた。
「……なんでまた登録者数が増えてるのよ」
「20万人突破、おめでとうデビ。同接視聴者数も過去最高値デビね」
<おめでとー!>
<酔ってファン増えるの草>
<元気出して! スパチャ:¥5,000>
<どんなサキっちょでも愛してる!>
「お、お兄ちゃんたちぃ~!」
お酒を飲み過ぎたからか。はたまた涙腺が崩壊してしまったのか……、私の瞳からボロボロと涙が溢れ出てくる。
それを誤魔化すかのように、私は新たにプシュッとプルタブを起こした。そして開けたばかりの缶に直接口を付け、ごくごくと喉を鳴らし――
「うっうっ、酒が美味い……」
<いい飲みっぷりw>
<守りたいこの笑顔w>
<好き>
<ていうか幼女が酒飲んで良いのか?>
「ふんっ! こう見えても私は立派な大人なんですぅ~、お前みたいな子供オジサンといっしょにすんな♡」
<強がり可愛いw>
<サキちゃん酔ってんなぁ~>
<もうなんなのこの子w>
<自分の可愛さを分からせてあげたい>
「気分が良いから餃子も食べちゃう! はふっはふっ、くっさ♡ニンニクくっさぁ~♡」
レンチンした冷凍餃子をハフりながら、ハイボール缶をグイっと呷り込む。
うん、最高♡
普段はこんな贅沢できないけど、ファンからスパチャ貰ったし、今日ぐらいは良いよね。
こんな飲み食いするだけの映像に、何の需要があるのか分からないけど、今もスパチャが続々と投げられている。
調子に乗った私はその都度お酒を飲み、気付いた時にはすっかり酔い潰れてしまっていた。
「……うぅ、頭痛い」
翌朝、私は頭のガンガンとする痛みで目を覚ました。
「おはよう、デビちゃん」
「随分と遅過ぎる起床時間デビ」
「いーの、いーの。細かいことを一々気にしていたら、体も胸も大きくなれないわよ?」
なんていったって私のチャンネル登録者数は、最終的に累計30万人を超えたのだ。この数字を見たら昨日の些細な失敗とか、そんなのどうでも良くなっちゃうでしょ。
私は人気配信者!
もう怖いものは何も無い!
「昨晩のサキをまとめた切り抜き動画を見ても、そう言えるデビか?」
(割りばしを鼻に入れて踊り出す悪魔サキっちょ)
(有名配信者の細かすぎて伝わらないモノマネ100連発)
(新人配信者サキっちょが昆虫モンスターを生で捕食する恐怖映像)
「何やってるの昨日の私!?」
ぐ、ぐぬぬぬ……私を舐めるんじゃないわよ。これぐらいの恥なら、ある程度の耐性ができたんだから!
「追加で、残念なお知らせがあるデビ」
「これ以外に? 何よ、言いなさいよ早く」
(配信者まとめニュース:新人配信者(♀)さん、生放送で酔って服を脱いでしまう)
「動画サイトの運営へ通報されて、サブチャンネルがBANされたデビ」
え、今なんて……?
「20万越えのチャンネルが爆散したデビ」
「いやぁあぁあああ!!!!」
⇒第7話 すぐ萎えちゃって恥ずかしくないのぉ♡