第5話 触っただけだよ?根性なし♡ざぁこ♡
エリカさんの猛プッシュもあり、数日後にダンジョン配信のコラボをする流れになってしまった。
同じチャンネル登録者数になったとはいえ、今の私には足りないモノが多すぎる。
デビちゃんから「サキはもっとトークスキルを磨くべき」との苦言まで貰っちゃったし。
――ということで、私は修行を兼ねてダンジョンの上層階へとやって来た。
「皆さまお待たせしましたわ~! サキっちょ配信の開演! で・す・わぁ~↑」
<いや誰だよw>
<キャラブレしてて草>
<お嬢様キャラはさすがに無理がある>
<ドレス似合わねぇw>
スタート直後から、お兄ちゃん(チャンネルのファンネームに決まったらしい)たちの無慈悲なコメントが、心に突き刺さる。
「ぐぬぬぬ!」
どうしてよ!
小悪魔キャラに無理があるっていうから、ウケが良さそうなお嬢様要素を取り入れてみたのに! ドレスもめっちゃ悩んで選んだのよ!?
<サキさん、いつも通りでいいんですよ!>
<コラボ予定の人からフォローw>
<これは気まずいw>
あ、ありがとうエリカさん!
砂漠で見付けたオアシス、世知辛いコメント欄に咲く一輪の花だわ。天使みたいな優しさがあったけぇ……。
……とまぁ、気を取り直しまして。
動きにくいドレスを脱ぎ去り、いつもの恰好に戻る。黒いレザータイプのキャミソールにミニスカート。やっぱりこれが一番落ち着くんだよね。
<初見なのに実家のような安心感>
<サキっちょの太ももmtmt!>
ふふふ。そうでしょう、そうでしょう。男を惑わすことにかけては、サキュバスの右に出る魔族はいないんだから。私の肢体に見惚れるがいいわ!
さぁ、次は今回の配信の趣旨を説明するわよ。
「それで今日はねー、なんと! ダンジョンで珍しいモンスターと、触れ合っちゃうよ~!」
<モンスターと?>
<急にサファリ番組化してきた>
<動物ネタは鉄板だけど、大丈夫か?>
<相手は犬猫じゃないんだぞw>
「あはっ♪ お兄ちゃんたち、情けな~い♡ もしかしてヤリ方を知らないの~?」
<おっ、調子出てきたな>
<申し訳程度のメスガキ感>
<大丈夫、無理してない?>
「うっさいわね! ともかくスキルを使って近付く! コツはこれだけなの!」
<スキル?>
<知らない単語出てきた>
<解説してくれ>
仕方ないわね。視聴者のために、私が考えた画期的なシステムを説明してあげようじゃないの。
【サタン迷宮・独自ルール】
①ダンジョンに入った人間は、ランダムで一つだけスキルをゲットできる。
②そのスキルを使ってモンスターを倒すと、ダンジョンポイント(DP)が手に入ってレベルアップできる。
<マ!?>
<他のダンジョンにはこんなの無いよな?>
<普通はドロップ品の恩恵だけだぜ>
<本当なら革命が起きる件>
「ふっふっふ。そうでしょう? よわ~い雑魚探索者のみんなも、これでどんどん強くなれるんだよ♡」
<おいマジかよ!>
<このダンジョンやっば!?>
<すげぇ>
予想通り、コメント欄は驚きの声であふれ出した。
パパが作り出した他のダンジョンに、スキルシステムが無くて当たり前だよ? だって私が勝手にアレンジを加えたんだもの。
「(ニシシシ。みんな喰い付いたね)」
「(悪魔みたいな仕組みデビ。サキにしては良く思い付いたデビね!)」
デビちゃんの言う通り、私が作ったこのシステムには裏がある。
まずはスキル。表向きは神様からの祝福ってことになっているんだけど、実際は悪魔との取引きで得られる力なの。
つまり、私に魂の一部を渡す契約を交わすってこと。
そしてDP。正式名称はデビルポイント。
誰かを傷つける行為で魂に課せられる、罪の重さだ。DPの何割かを私がいただいちゃうことで、悪魔としての力を取り戻すってシステムなのだ。
どう、素晴らしい仕組みでしょ?
ふふっ、人間たちには内緒だけどね☆
<本当かよ。信じられなくね?>
<メスガキが適当言ってんなよ>
<お、アンチ君ちーっす>
<サキさんの言うことが信じられないと? 良いわ、私が相手になりましょう>
<エリカ様が彼氏ムーブ取り始めたw>
おぉっ、これが俗に言うアンチなのね!
今まで暴言だけ吐いて、秒で去っていく通り魔的しかいなかったから、なんだか新鮮! そしてちょっとだけ嬉しい!!
「コメント欄でしかイキれないオジサンって、なさけな~い♡ 今から実践するから待ってて♡――っと、丁度良いところに!」
視界の先に、通路を歩くモンスターの姿を発見。私と同じくらいの体長で、茶色の長い毛が全身に生えている。そして鎌状に伸びた大きな前歯。
間違いない、アレは首狩り鼠だ。
<お、可愛いネズミちゃんだ>
<いや、さすがにデカくね?>
<ヴォーパルラットってたしか……>
<中層のレアモンスターだよな>
コメントの言う通り。可愛い見た目に反して、気性の荒い凶悪なモンスターだ。本来は、触れ合うことに適したモンスターじゃない。
だけど下層モンスターもワンパンできる私の実力なら、この程度の敵はハムスターも同然だ。美少女がモフモフを可愛がっているシーンが撮影できれば、配信ウケも良いはず!
「アイツって、超すばしっこいんだよね~。でもサキっちょのスキルがあれば、らくしょ~♡」
「(悪魔のサキにスキルは無いデビよ?)」
「(しーっ。身体強化のスキルだって言っておけば、視聴者さんは勝手に納得するでしょ!)」
人助けとはいえ、昨日は無双し過ぎて「アイツ何者?」って怪しまれたからね。この際だから、スキル持ちってことにしちゃおうって作戦なのだ。
一石二鳥!
うーん、私って可愛くて天才!
「じゃあ、よく見ていてね。――身体強化!」
足に力を籠め、走り出す。
一瞬で最高速度となり、私は黒い稲妻となった。
壁や天井を縦横無尽に駆け巡り、標的の元へ。ヴォーパルラットが私の存在に気付いた時には、もう遅い。一瞬で背後に回り込み、両手で優しく抱きしめ――。
――ぶちゅん。
「え?」
「あっ……デビ」
腕の中からビチャビチャと滴り落ちる、血と肉片。可愛いネズミの姿は、そこにはもうどこにも無かった。
<…………>
<……Oh>
あ、あれれ……?
⇒第6話 うわっ、大人のクセにお酒よわすぎ♡