第4話 あぁ~、こんなにおっきくしちゃってる~♡
――チュンチュン、チュンチュンチュン。
「……何してるの、デビちゃん」
「清々しい朝の目覚めを演出しているデビ」
「ありがとう? でも私は悪魔だから清々しさは要らないわよ?」
ダンジョンの最奥。
いつもの作戦会議室……兼、私の生活スペースにて。
天蓋付きのベッドから起き上がった私を、鳥の鳴き真似をしたデビちゃんが出迎えてくれた。
「おはよう、デビちゃん。ダンジョンに変わりはない?」
「ダンジョンは相変わらず平和デビ」
「そっか、いつも通り……うん?」
ん、なんだろ。なんだか含みのある言い方だったような。
ていうかダンジョン“は”ってなに?
「いずれはバレるから、手遅れになる前に伝えておくデビね……」
「なによ、急に深刻そうな口調になっちゃって。このタブレットがどうかしたの……って、なにこれっ!?」
差し出されたタブレットの画面には、私のチャンネルが映し出されていた。そして登録者数の表記が、いち、じゅう、ひゃく……5桁で8万人!?
嘘でしょ、昨日まで10人ちょっとだったじゃない!
なんで急にこんなおっきくなってるのよ!
「サブチャンネルの方も見てみるデビ」
「え、なにそのサブって……こっちのページ? はぁ、分かったわよ……げっ!?」
……いや待って!?
初めて聞いたサブチャンネルの存在にもビックリだけど、こっちは登録者10万人!?
どうしてサブの方が、メインを超えてるのよ!?
「サブの方は、サキの隠し撮りがメインデビ」
「あ、そうなんだ……って何やってんのよ! この『初めて悪魔が日本のクレープを食べてみた件』とか絶対見せちゃいけない映像じゃないの!」
動画で再生数が多い部分を見てみれば、それは私がバナナチョコのクレープを美味しそうに頬張るシーンだった。
コメント欄には、
『ホッペに生クリームつけて可愛い』
『一気に食べてむせる幼女に萌える』
果てには、
『食べきっちゃってションボリするサキっちょ、マジ天使』
――なんてものまである。
私、悪魔だよ!?
「サキ、顔がだらしないほど蕩けていたデビ」
「だから悪魔が! 幸せそうな顔しちゃ! だめなの!!」
いやでも、確かに美味しかったけれど……。
って今は、そんなことはどうでも良くて!
「ど、どどっどうしよう!? こんなに大勢の人が私のチャンネルに……もしかして炎上!? 私何かやっちゃいました!?!?」
「だから落ち着かせようと、清々しい朝を演出したんだデビ。デビの心遣いに感謝してほしいデビね」
「そんな悠長なこと言ってる場合!?」
涙目になりながら、デビちゃんを両手で掴んでガクガクと揺らす。
まさか、私の知らないところで何かやらかしてしまったの!?
「ねぇ! また登録者が増えてる!」
「今この瞬間も配信されてるデビ。その慌てふためく姿もきっと、リスナーには好評デビよ」
<寝起きドッキリ大成功!>
<デビちゃん、ナイス>
<やっぱりメスガキは養殖だったか>
<サキちゃん、尊い……>
「なんでぇ? どうしてぇ?」
◇
「――つまり昨日助けた人の配信に、私が映っていたと」
「それを見ていた人たちが、サキのチャンネルに突撃してきたデビね」
教えてもらったダンジョン掲示板を眺めながら、私は寝起きのコーヒーをすする。
もちろん、砂糖とクリームたっぷりのやつ。デキる女は朝にコーヒーなのよ。
<いや、そこはブラックちゃうんかいw>
<いちいち悪魔らしくない所も◎>
<薄い胸を張ってドヤるの可愛い>
「ち、ちが……」
<恥じらい顔、ごちそうさまですww>
<悪魔なのに天使とか、そういうギャップが堪りませんなぁ……>
「うわぁあああん! 私は悪魔! 誰もが恐れる魔王の娘なのぉ!!」
<魔王様の娘、涙目w>
<草生える>
「なんでよぉ……うぅ……」
もうやだぁ。
何なのこの悪魔いじめは……。
「でも良かったデビ。これでサキのチャンネルも安泰デビ」
「良い訳ないでしょ! 私の配信活動に、いきなりこんな黒歴史が……」
あ、でも待って。
結果的に人が集まったから問題解決ってやつ?
「ふ、ふふっ、ふふふふ!」
「なんか急に笑い出したデビ」
「万事☆解決! やはり私の魅力は、どういう形でも伝わっちゃうものなのね~」
<スッ……(ダンジョンを散歩中、幽霊モンスターにビビるサキっちょの切り抜き集)>
「いやぁあぁあああ!!!!」
もう嫌だ、誰も味方いない……。
朝から疲れたよぉ……。
「それで、サキ。今日はどうするつもりデビか?」
「……しばらく、配信はお休みしようかな」
<エリカ様とのコラボ待ってます>
「コラボ?」
「昨日、サキが助けた人デビね。DMで本人から是非ともって連絡が来てるデビ」
「えー? だってその人、実は凄い人気があるんでしょ? 私なんかとコラボしても、何もメリットが……」
「今じゃサキも同じくらいの登録者デビ。それに悪魔が、今更ビビってどうするんデビ」
<メインとサブ合わせたら、エリカ様よりも高いゾ>
<是非ともお願いします! 是非とも!>
<本人登場w必死過ぎワロタw>
「うっ……」
そんなストレートに言わんでも……。
ていうか私、そんなに人気なの?
「……ま、まぁ? もう後には引けないし! コラボしたいなら仕方ないわねぇ!」
「本当にチョロい悪魔デビ」
デビちゃんのそんな声を無視しながら、私はコラボ実現のために、ちょっとだけウキウキしながらダンジョン探索の準備を始めるのだった。
⇒第5話 えっ、ちょっと触っただけで?根性なし♡ざぁこ♡




