第11話 ほらほら♡頑張って♡♡
「――この前も言ったけど。スキルを覚えるだけなら別に私とユニットを組む必要なんて無いってば」
先日、ダンジョン街でエリカさんと会ったときに言われたセリフ。
『私と一緒にダンジョンアイドルになりませんか!?』
アレは結局、私が使っていたスキルを習得するために使った方便だったらしい。
「ち、違いますよう! そんな大事なサキさんを私利私欲のために利用するみたいなこと、するわけがないじゃないですか!」
今日は事前に打ち合わせた通り、私のダンジョンに再び彼女はやって来ている。約束のコラボ配信が実現したのだ。
それでどんな内容でコラボをするのかと言えば、彼女のレベルアップ大作戦が企画の趣旨になった。
「私が救われたあの日、分かったんです。私はサキさんに出逢う運命だったんだって」
「いや、重い重い」
「でも弱い自分じゃ、サキさんの隣に立つことは許されない……サキさんに必要とされる女でありたいんです!」
「だから誤解を招く良い方はよしてくれる!?」
すでに私たちは二人でダンジョンを闊歩している途中。つまり配信は始まっているのだ。
<これは正妻ポジ狙ってますわ>
<美人お姉さんに言い寄られる幼女の図>
<エリカ様、完全にメスの顔してるよね>
<絶対にこんな関係認めん>
ほら! 視聴者も揶揄い始めちゃったじゃないの!
ていうか最後の奴、アンタ絶対マネジャーの浦霧さんでしょ!!
「ていうか前回このダンジョンに入ったときに、祝福はすでに受けたんじゃないの?」
「……え、もしかして入り口のアレですか?」
「そう、入り口のアレよ」
私が用意した神の祝福――もとい、悪魔の契約はダンジョンの入り口にある神像に自分の血を1滴だけ入れること。それで完了することになっている。
人間界で広がっているようなもっと本格的な儀式なら、もっと強大な力を与えられるんだけど。アレは人格が崩壊したり、代償がとんでもなかったりと、ちょっと使いづらいのよね。それに危険視されてダンジョンに来てくれなくなっちゃったら、本末転倒だもん。
だからスキルを一つ与える程度なら、この簡略式なやつで十分ってこと。
「たしかにやりましたけど……強くなった気はしませんでしたよ? 私、あのおっきなオークに呆気なく負けちゃいましたし」
<たしかに大きかった>
<図体もだけど、股間のアレがね>
<エリカ様、顔真っ赤で可愛い>
<オークのチ○コに負けるシーンも見たかった>
<↑ぶっ殺すぞ>
「う、うぅ……思い出しただけで恥ずかしい……」
顔を覆いながら、エリカさんは羞恥に震えていた。そんな姿が画面へ映ると、コメント欄も大いに盛り上がっていく。相変わらずアイドル配信者らしいムーブねぇ。
「うーん。普通はどんなスキルか、何となく勝手に理解できるんだけどなぁ。戦闘タイプのスキルじゃないのかもしれないわね」
「えっ、じゃあ強くなれないってことですか!?」
「そうじゃなくて、使いどころが限られてるっていうだけ」
ゲームみたいに『○○斬りを覚えた!』――なんてアナウンスがあれば良かったんだけどね。あいにくと、ステータス画面で自分の状態を確認できる便利機能もないし。
だから必要だと思ったシーンで、体が勝手にスキルを使うようになっているんだけど。
「(でも契約主であるサキは彼女のスキルが分かってるんデビ?)」
もちろん。でも本人に言うわけにはいかないし。
「まぁこればっかりは実戦で試していくしかないね」
「えぇぇえええ!?」
「心配しないで、私がフォローしてあげるから」
<ヤダ、この幼女イケメン>
<エリカ様の顔が一瞬で真っ赤にw>
<ぐぬ、悪魔め……侮れんな>
<表情が恋する乙女のソレ>
といっても、さすがにこの前みたいな将軍オークじゃ危ないわよねぇ。ダンジョンマスターであるこの私が、丁度いいモンスターを出してあげようじゃない。
「(これから来る探索者にとっても、丁度いいチュートリアルデビ)」
え、そうかしら?
「(少なくとも可愛いモンスターを、素手でミンチにした配信よりましデビ)」
それは言わないで……。
あの配信で拷問器具のアイアンメイデンって二つ名が付いたんだから。
「あ、サキさん! あっちにモンスターの影が!」
「じゃあ、アイツで試してみましょうか」
かなりグレードを落として、今回はワームプラントを用意してみた。
二足歩行するジャガイモにミミズ型の両腕が付いた植物型モンスター。見た目の気持ち悪さの割に、こちらから攻撃を仕掛けなければ基本的に無害な奴だ。
攻撃の脅威度で考えると他の奴の方が弱いんだけど、今回はスキルを探るならピッタシでしょう。
さぁ、行ってらっしゃい我が弟子よ!
「…………」
『…………?』
「ひ、ひえぇ……」
『~~~~♡』
<俺たちは何を見せられてるんだw>
<触手プレイ?>
<ジャガイモ野郎、照れてんぞw>
<放送して大丈夫なのかコレw>
ワームプラントは腕をエリカさんに伸ばし、彼女に巻き付いた。
コメントでも言われている通り、完全に捕食されているようにしか見えない。しかも粘液が涎のようにダラダラと流れているから、ちょっと……いや、かなり卑猥だ。
その被害に遭っている本人は体を震わせながら、戸惑いの表情を私に向けた。
「あの、サキさん……コレって????」
「攻撃では、ないわね」
「じゃ、じゃあ。私のスキルってもしかして……」
うん、貴方のスキルは『テイマー』なんだ。




