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第8話 亡き王妃の部屋で

なぜセルシス王子は亡くなった王妃の部屋に自分を案内したのだろうか。

アイリーンが暫し呆けていると、王子が声をかけてきた。


「……驚かせてすまない。

実は、お前の時の魔法の力を貸して欲しくて呼んだんだ。」


「時魔法の力、ですか?」


アイリーンは一気に緊張し、身体が強張ったのを感じた。

アイリーンは昨日魔法の勉強を始めたばかりの初心者中の初心者だ。

魔法がほぼ使えないことを王子に知られたらまずい。

そんなアイリーンの焦りに気付かないまま、王子は話を進めだした。


「その、昨日言ったが、母は本が好きでよく俺にプレゼントしたり、本の内容を話して聞かせたりしてくれていた。

だから俺は母を偲ぶ時、毎回この部屋に来て、母の所蔵していた本を読んでいるんだ。

しかし先日夜、母が特に気に入っていた精霊伝説の本を読んでいた時、燭台を倒してしまって……。

その本の一部が燃えてしまった。」


王子は本棚から、右上部分が焼き焦げた分厚い本を出してきた。


「お前なら直せると思って。ほら、昔俺の膝を治してくれたみたいに……。」


(昔……そんなことがあったのね。なら、私はかなり小さい時から魔法を使えていたのね。

今は思い出せないけれども。)


そう思いながらも、アイリーンは少しほっとした。

物の時を戻す魔法なら、昨日疲れ果てるまで使った。魔法の感覚がまだ身体に残っているくらいだ。

恐らくこの本を直すことは可能だろう。


(良かった……。オルフェ様に感謝しないとね。とても大変だったけれども、昨日やっておいて本当に良かった。)


「分かりました。では、本をこちらへ。」


アイリーンは王子から本を受け取り、一応状態を確認する為に、焼け焦げた本のページをゆっくりと捲った。


(この本にはきっと、セルシス様と王妃様の思い出が詰まっているのね。どんな思い出なのかしら。きっと……きっと温かくて幸せな思い出ね……。)


アイリーンのページを捲っていた指があるページで止まる。そこには真っ白で、黄金の光を放つ、荘厳な鹿の絵が描かれていた。


アイリーンはその鹿の絵を見た瞬間、ふとオルフェの言葉を思い出した。


ーアイリーン、覚えておけ。物にも記憶があるんだ。ー


(この本にも記憶があるの?セルシス様と王妃様の在りし日の姿を覚えているの……?)


そう思いながらアイリーンは本を持つ手に力を込めた。身体から温かいものが溢れ、力が抜けていく。アイリーンは魔力を込めて願っていた。


(私も知りたい。セルシス様と王妃様の在りし日の思い出を。セルシス様の幸せな顔を見てみたいの……。)


だんだんと本から黄金色の光が湧いてくる。キラキラと瞬く星のような小さな光。そしてその光から声が聞こえた。


『母様、今日、アイリーンが…………』


『そう!アイリーンに助けて貰ったのね!……』


キラキラした光がどんどん本から溢れてくる。

アイリーンはその光の中に一瞬、幼いセルシス王子と王妃の姿を見た気がした。


「アイリーン?大丈夫か?」


「……!」


セルシス王子の声で一気に意識が戻される。

アイリーンがセルシス王子の方を向くと、光は全て消えてしまった。


「あ……申し訳ありません。間違えて、違う魔法を使ってしまったようです。

すぐに本をお戻ししますね。」


そう言いアイリーンは昨日のように本の時を戻した。


「ありがとう、アイリーン。流石だな。」


王子は微笑み、アイリーンに礼を言った。

せっかく王子の笑顔を見れたのに、アイリーンは先ほどの光のことで頭がいっぱいでうまく喜べなかった。


-------------------------------------


帰路、アイリーンは王妃の本を直している際に現れた光についてずっと考えていた。


(あの光はなんだったのかしら……。光の中に一瞬見えた、幼い殿下と王妃様は一体……。)


結局答えは分からぬままアイリーンはクロノス邸に戻って来た。


「ただいま戻りました……。」


アイリーンが呆けたまま帰宅の挨拶をすると、迎えたばあばが心配そうに声をかけた。


「アイリーン様、いかがなさいました?ご気分が優れないのですか?

……まさかセルシス王子と喧嘩でも……?」


「ばあば……違います。そうだ母様は?」


「アリシア様は本日も修道院で子供たちのお世話をしていらっしゃいます。」


アイリーンの母アリシアは、領地にある一番大きい修道院で貧しい子や孤児に勉強を教えていた。

その為アリシアの人望は厚く、クロノス家は領民たちと良い信頼関係を保てている。

アリシアが言うには、『私自身が楽しいから、子供たちの成長を見れるのが嬉しいから、好きでやっているの。』とのことだ。

アイリーンは母が誇らしくて自然と笑みがこぼれた。


「アリシア様はいつも通り夕食の時間にお戻りになられると思います。

アイリーン様、ティータイムはいかがですか?シェフにクッキーを焼いて貰いましょう。」


アイリーンの表情が和らいだのを見て、ばあばもほっとしたようだ。アイリーンにティータイムを勧めて来た。


「いいな、ティータイム。俺も参加させて貰う。」


声がした方に一同が目を向けると、オルフェが玄関正面の階段上からこちらを見下ろしていた。


「……オルフェ様も、でございますか。」


ばあばがオルフェに冷たい視線を注ぎながら言った。


「ああ。俺の分もよろしく。

……アイリーン、話がある。庭園に来い。」


「……はい。」

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