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第76話 予行練習

(炎は消えたけれど、レティウス陛下……いや、レティをびしょ濡れにしてしまったわ……。)


「も、申し訳ございません!今、時の魔法で濡れる前に戻します……!」


アイリーンがレティウス王に近付こうとすると、それを阻止するかのようにサラマンダーが立ちはだかる。


《そんなことはしなくて良い。あの馬鹿者は放っておけ。あの状態でいれば、少しは頭も冷えるだろう。


アイリーンもアイリーンだ。もっと自衛の意識を持て。あの状況なら魔法で攻撃すべきだ。》


「はい……申し訳ございません。」


サラマンダーに諭され、アイリーンは羞恥心でいっぱいになった。


(そうだわ……もう少しでセルシス様に顔向け出来なくなるところだった。もし次危ない状況になった時は魔法で……。)


「ちっ……トカゲめ。」


レティウス王が舌打ちをする。


《馬鹿レティ。俺が止めなければ、時の精霊クロノスに何をされていたか分からんぞ。》


サラマンダーがレティウス王に向かって厳しい声でそう言った。


「分かっている。許されぬ恋だと言うことは……。」


誰にも聞こえないような小さな声で、レティウス王が呟いた。


---------------------------


「クシュン……!」


すっかり暗くなった林に、レティウス王のくしゃみが響く。


(あれから数分、レティはずぶ濡れのまま。

サラマンダー様には放っておけと言われたけど……明日にはドラゴンと対峙するのに、レティが風邪を引いたら大変だわ。)


アイリーンはそっとレティウス王に近付き、肩に手を置いた。


「風邪を引いたら大変です。」


そして魔法を使う。レティウス王の身体が一瞬にして乾いた状態へ戻る。


「ありがとう。優しいな、アイリーン。」


レティウス王が嬉しそうに笑う。

アイリーンはほっとした。


(先程の熱を持った瞳のレティとは、別人みたい。今のレティならもう大丈夫よね。)


「あの、レティ……明日の魔法の予行練習をしたいのですが……。」


緊張した面持ちでアイリーンがそう切り出す。

アイリーンの言葉を聞いたレティウス王が立ち上がる。


「俺もちょうどそう思っていた。改めて互いの役割を確認しながら、実際に魔法を使ってみよう。」


「はい!」


「ではまず、アイリーンは俺に抱き着いてくれ。」


「はい!……え?」


耳を疑うようなレティウス王の言葉に、アイリーンは一瞬にして警戒心を取り戻した。


(この色ボケ王……)


アイリーンの警戒と軽蔑の混ざった表情に気付いたのか、レティウス王が焦った声で言う。


「おい、勘違いするな。これは立派な作戦だ。


攻撃は最大の防御でもある。戦いの最中、一番安全な場所は、常に攻撃を続ける俺の腕の中だ。


それにアイリーンには一秒単位で、俺の時を戻して貰わなくてはならない。これが一番合理的なんだ!」


(うーん……言っていることには一理あるわ。)


「分かりました。……もしまた変な気を起こそうものなら、びしょ濡れにさせて頂きますから!」


そう言い、アイリーンは警戒気味にレティウス王の胸に抱き付いた。その胸の逞しさに驚く。


レティウス王が、アイリーンの背に片手を添える。アイリーンは警戒と緊張と羞恥で鼓動が速くなった。


「次は、全身に水を纏ってくれ。

俺の側にいると言うことは、常に燃え盛る炎の中にいるのと同じだ。

生身でいたら燃えてしまう。」


(なるほど、だから私しか務まらないと言っていたのね。この世で時の魔法と水の魔法の両方を使えるのは、恐らく私だけだから。)


アイリーンはレティウス王に言われた通り、魔法で全身に水を纏った。


「よし。では最後だ。

俺の時を一秒ずつ戻せ!」


その言葉と共にレティウス王が炎を纏う。


(熱い!!でも魔法に集中しなくちゃ!!)


アイリーンはレティウス王を抱き締める手に力を込め叫んだ。


「戻れ!“クロノスタ”!」


同時にレティウス王も叫んだ。


「爆ぜろ!“インフェルノ”!!」


瞬間、物凄い勢いで炎が前方へ溢れ爆ぜた。レティウス王とアイリーンの前方にあった林は焼き払われ、燃え尽きた更地だけが広がった。


「す、すごい……。」


アイリーンが驚き声を溢す。


「ドラゴンを倒す為には、こんなものでは足りない。明日はこの倍以上の威力を出すことになる。燃えないようにだけ気を付けろ。」


そう言って不敵な笑みを浮かべたレティウス王の瞳には、ギラギラと燃える闘志が宿っていた。


(闘志と希望が宿った、眩しいほど活き活きとした瞳。

まだ不安だけれど……何故かしら。この人と一緒に闘うのならば、負けない気がする。)


そう思ったアイリーンは暫く、赤く輝くレティウス王の瞳を見つめていた。

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