表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/120

第72話 約束のキス

翌朝。


「お腹が空いた……。」


アイリーンは空腹を感じ、目を覚ました。

昨夜はあの後部屋に戻り、また眠ってしまっていたのだ。


(昨日は昼食以降、何も食べていなかったから……。うぅ、出発前に何か食べたい。)


アイリーンはふとバルコニーへ続く窓を見た。

昨夜のことを思い出し、なんとなくバルコニーへ出る。

外では霧雨が降っていた。

霧は朝日に照らされ、黄金色を纏っていた。


「アイリーン……。」


声が聞こえた方へ顔を向けると、隣の部屋のバルコニーにセルシス王子がいた。


「セルシス様!いつからそこに?」


アイリーンが驚きの声を上げる。


(そう言えば風の国でもこんなことあったわね……。)


「アイリーンの部屋の窓が開く音がしたから、俺も出てきたんだ。」


セルシス王子が静かな声でそう言う。

彼の表情は暗く、この柔らかな黄金の靄に包まれた朝には似合わない。


「アイリーン、そっちへ行ってもいいか?」

「え?」


アイリーンが答えるより早く、セルシス王子が助走をつけて跳ね、隣の部屋のバルコニーからアイリーンの部屋のバルコニーへ飛び移る。


しかし霧雨によりバルコニーの床が濡れていた為、着地した瞬間セルシス王子が滑り転びそうになる。


「セルシス様!」


アイリーンは咄嗟に風の魔法で彼を支えた。


「?!」


アイリーンが風を巻き起こしたのを目の当たりにしたセルシス王子が驚き、アイリーンを見つめた。


「あ……実は昨夜ーーー」


アイリーンは昨夜、風の精霊シルフから加護を受け取り、風の魔法を使えるようになった時のことを話した。


「風の精霊シルフ様からも加護を……。すごいな。」


話を聞いたセルシス王子が、心底驚いた顔をしている。


(そうよね……これで私は時の魔法、水の魔法、そして風の魔法を使えるようになった。こんなにたくさんの魔法を使えるのは……世界で私だけだわ。)


「アイリーンが風の魔法を使えるのなら、俺はいつ空から落ちても、いつ転びそうになっても安心だな。今みたいに支えてくれるだろ?」


「…………。」


アイリーンは口を噤んだ。何と答えれば良いのか分からなかったからだ。


(はいと答えたいけれど、約束は出来ない。

もし生きて戻れたとしても、もう王太子妃には相応しくない身体になっているかもしれないわ。でもこんな事言いたくない。

口にして、もし本当になってしまったらと思うと……怖くて仕方ない。)


「っ……」

アイリーンが無言でいると、痺れを切らしたセルシス王子がアイリーンの手を握り引き寄せる。

そしてセルシス王子の唇が、アイリーンの唇に重ねられた。


「ん……っ!」


驚き丸くなるアイリーンの瞳と、不安と熱に揺れるセルシス王子の瞳がかち合う。

唇が離れる。しかし依然顔を寄せたままセルシス王子が囁く。


「勘違いするなよ。今のキスは決して別れのキスではない。約束のキスだ。

必ず……必ず生きて俺のもとへ戻って来てくれ、アイリーン。

逃げて良い。どんな身分でもいい。どんな姿でもいい。俺の隣はアイリーンだけの場所だ。」


それはアイリーンが一番聞きたい言葉だった。

一度目の人生で婚約破棄された時の記憶が甦る。

アイリーンはあれからずっと不安だったのだ。

セルシス王子との未来を願いながら、本心ではセルシス王子との未来を信じられないでいたのだ。

セルシス王子の言葉で、アイリーンの心に刻まれた、不信感という名の傷の痛みが和らいでいく。


セルシス王子がアイリーンの姿形を確かめるように、深く抱き締める。

腕の中、アイリーンは彼との未来を思い描き、静かに闘志を燃やした。


(願う未来の為に闘う。決意も覚悟も出来ているわ。)


---------------------------


(私は決意も覚悟も出来ているのに……)


「ええと、ブランチはサンドウィッチと、スコーンと、フルーツと……」


《ほう。では俺はいちごを貰おう。》


「おい待てトカゲ!いちごは俺のだ。」


《いちごは年功序列だ!》


「それはおかしいだろ!!」


(なんでお二人はこんなに緊張感がないのー!!)


アイリーンはレティウス王、火の精霊サラマンダーと共に馬車で移動している。

道中はドラゴンを倒す為の作戦会議を行うと言われていた為、馬車に乗り込む寸前までアイリーンは一生懸命思案していた。

しかし実際に馬車で始まったのは、ブランチだった。

大きめのバスケットから、次々と美味しそうな軽食やお菓子が出て来る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ