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第69話 太古の話

《シルフと言い、お前と言い……どうしてそう口が軽いのだ……。》


荘厳で美しい白い雄鹿、時の精霊クロノスが口を開いた。


(どこかで聞いた事あるような、懐かしい声……。)


アイリーンがクロノスを見つめ呆けている間に話は進んでいく。


《精霊の間では有名な話だからな。

まさか本人が知らないとは考えもしなかった。


お前こそ何故アイリーン本人に伝えていないんだ。》


サラマンダーが悪びれる様子もなくそう言う。


《………………。》


クロノスは静かに目を閉じ、黙り込んでしまった。サラマンダーが不機嫌そうな声で言う。


《だんまりか……。では俺がアイリーンに話してやろう。文句はないな?》


《好きにしろ。ここまできて隠すのも酷だからな。》


そうサラマンダーに返事をしたクロノスは、黄金の光と共に消えてしまった。


《相変わらずいけすかない奴だ。》


サラマンダーが悪態をつきながら、先程までアイリーンが転がっていたソファへ飛び乗る。

その横にレティウス王も座り、アイリーンに声を掛ける。


「アイリーンも座れ。

サラマンダーは歳を食っているせいか話が長いんだ。立ったままだと疲れてしまうぞ。」


《歳を食っているは余計だ!

お前は本当に生意気だな。いい加減にしないとその減らず口を燃やすぞ?》


「は!アイリーンに治して貰うから大丈夫だ。

ほら、やってみろよ。」


(この2人はなんでこんなに血の気が多いのかしら……)


二人が始めた喧嘩を遮るように、アイリーンはサラマンダーの隣に腰掛け声を掛けた。


「では失礼致します。

サラマンダー様、私の出生について教えて頂いてもよろしいでしょうか?」


アイリーンが不安そうな声でそう言うと、サラマンダーがアイリーンの膝の上に顎を乗せ口を開いた。


《さて、どこから話すべきか……そうだな、太古の昔に精霊と人間が交わったところから話そうか。》


その言葉を聞いたレティウス王がうんざりしたような顔で言う。


「はぁ?結論から話せよ。

最初から全て語ったら時間がいくらあっても足りないだろ。

あとその格好別に可愛くないぞ、トカゲ。」


《話の腰を折るなこの阿呆!

アイリーンの出生を語るには太古の話が深く関わってくるのだ。》


また二人の喧嘩が始まり、一向に話が進まない状況に焦れたアイリーンがレティウス王へ声を掛ける。


「レティウス王、私はサラマンダー様のお話が聞きたいです。長くても良いです。」


《ほれみろ!アイリーンは俺の話を待ち望んでいるんだ。レティは黙っていろ。》


アイリーンの言葉を受けたサラマンダーは嬉しそうにそう言う。対してレティウス王は“お手上げ”とでも言うかのように、肩をすくめた。


《では始めよう。

……太古の昔、我々精霊は人間と出会った。

一部の精霊は人間と絆を紡ぎ、国を築いた。


時の精霊クロノスが愛した人間は兄妹だった。

クロノスは妹との子をもうけ、兄へ国を託した。それが今の時の国だ。》


「待って下さい。つまり私の祖先は精霊と人間の子供ということですか……?」


アイリーンはスケールの大きい話に目眩を覚えた。

するとレティウス王が何食わぬ顔で言う。


「なんだアイリーン、そんなことも知らなかったのか。俺もこのトカゲ……火の精霊サラマンダーの血を継いでいる。だから火の魔法を使えるんだ。」


(ええ?!これって魔法使いの常識なのかしら……?)


驚くアイリーンをよそに話は進む。


《時の魔法を使えるのは精霊の血を継ぐ妹の子だけだ。本来なら精霊の血を継ぐ者が国を統べるべきだが……クロノスは兄の子も愛していた為それを良しとしなかった。


だから兄の子には“語り手”という役目を与え、それを全うする代わりに国を統べるという誓約を交わしたんだ。》


「“語り手”……。」


アイリーンはその言葉を耳にしたことがあった。セルシス王子のことだ。


(つまり……クロノス家は時の精霊クロノスと、クロノスが愛した兄妹の妹のほうの子孫。そして時の国王家であるラグナ家は、兄のほうの子孫と言う事ね。

……ん?でもこの話と生命の精霊、何の繋がりが?)


アイリーンの怪訝な顔を見て、レティウス王が口を開く。


「おいサラマンダー、生命の精霊は登場しないのか?」


《急かすな、ここからだ。

“語り手”の使命は、記憶を対価とする時の魔法使いに、失った思い出を語る役目だ。だからこそ両家は交わらず、常に寄り添い合うことを望んだ。


だからクロノス家とラグナ家は生命の精霊ラテリアに願ったのだ。両家の子は必ず男であるようにと。》


「え……?」


アイリーンはサラマンダーの言葉の意味をうまく汲み取れず、困惑した。


「時が経てば血は薄れていく。初めは従兄妹だったとしても、5代も続けば問題なくクロノス家とラグナ家で子を成せただろう。

両家が交わること、すなわちそれはどちらかが家名を失くすことになる。

それを阻止し、クロノス家とラグナ家を永劫に共存させようとした結果だろうな。」


「な、なるほど……。」


レティウス王の補足でアイリーンは話の全容をやっと掴むことが出来た。しかし同時に新たな疑問が生まれる。

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