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第64話 オルフェとアリシアの想い

「そうだ。」


オルフェが静かに肯定する。


「アイリーン、お前に渡すつもりはない。

今の……ソフィア姫と同じような瞳をしたお前には。」


「…………。」


アイリーンはオルフェの指摘に気まずくなった。


「私は……家族や大切な人達を守りたいです。

大魔法使いになる為に魔法の指導を乞うたのもその為ですから。」


「お前ソフィア姫と同じだな。

何故そんな決断が出来るんだ。遺されたイゾルデ女王や騎士姫達の悲しみを一緒に目の当たりにしただろ。

それなのに、なんで……俺やアリシア達の気持ちを考えずに…………。」


そうアイリーンを責めるオルフェの声は震えていた。オルフェの深い怒りと失望が伝わってくる。

アイリーンは何も言えなくなり、俯いた。


「……とにかく、至宝は渡さない。

もう気付いていると思うが、お前の時を巻き戻したのは、俺だ。

アイリーン、もしお前が死ぬことがあれば俺はまたお前の時を巻き戻す。

その為にこの至宝は必須だからな。」


そう言い、オルフェが部屋を後にしようとする。

そのオルフェの服の裾を掴み、アイリーンが引き留める。


「……離せよ。」


「オルフェ様は、何故そこまでして下さったのですか?何故今も私を守って下さるのですか?


……今なら分かります。時を巻き戻すなんて不可能です。

原理は分かりませんが、相当高度な魔法を使用して、ルールの穴をすり抜けたのでしょう?

いったい……それにどれほどの対価を捧げたのですか?」


アイリーンは今まで抑えていたものが溢れたように、声を荒げオルフェへ詰め寄った。

その瞳からはポロポロと涙がこぼれていた。


「………………。理由は、今は言えない…………。」


驚き硬直したオルフェが、やっとそれだけ答える。オルフェがアイリーンの涙を拭おうと、手を伸ばす。しかしそれを拒むように、アイリーンが後ずさった。


「もう、私は心がグチャグチャなのです……。

“ノスタルジア”を使う度に、沢山の感情に触れて……それがどんどん私の心に刻まれていく。


ねぇオルフェ様、私はずっと考えていたことがあるのです。ドラゴンなんて、1度目の人生では現れなかった。


もし、時を巻き戻した影響で世界に歪みが生じたのだとしたら…………。」


アイリーンはずっと自分の奥に封じ込めていた疑問をオルフェに投げ掛けた。

この疑問が生まれてから、アイリーンはずっと罪の意識に苛まれていたのだ。


そんなアイリーンをオルフェが強く抱き締めた。


「それは違う。あり得ない。

だからそれ以上自分を責めるな。」


「本当ですか?本当に、違う……?」


アイリーンはオルフェに縋るような声で聞き返した。オルフェが屈み、アイリーンと目線を合わせる。


「お前の言う通り、時を巻き戻すなんて不可能だ。俺は正確に言えば時を巻き戻していない。


俺の使った魔法を一言で言えば……“記憶で時を渡る魔法”だ。

1度目の人生の俺とアイリーンの記憶を、過去に飛ばした。


時そのものに干渉した訳じゃない。だから世界に歪みが生じることもないはずだ。」


オルフェは優しくアイリーンの頭を撫でる。


「万が一この魔法で何かが変わって、ドラゴンが現れたのだとしても……全ては俺のせいだ。

だから、自分を責めるのはやめてくれ。」


(オルフェ様……でも貴方が魔法を使った理由はきっと私なのでしょう?だったら貴方のせいじゃない……私のせいだわ。)


アイリーンはそう思ったが声には出さず、黙って頷いた。


---------------------------


その晩。

アイリーンが火の国へ向かう為の荷造りを終え、寝る準備をしていると、部屋のドアがノックされた。


「はい。」


「アイリーン、話したいことがあるの。

入ってもいいかしら?」


声の主はアリシアだった。


「母様?こんな夜更けにどうされたのですか?」


「アイリーン……これを。」


部屋に入ってくるなり、アリシアは小さな金貨袋を渡してきた。中には金貨だけでなく、高価そうな宝飾品も入っている。


「母様……?」


アイリーンはアリシアの意図が分からず、困惑した顔でアリシアを見た。

アリシアは夕方前のアイリーンと同じくらい強い瞳でアイリーンを見つめていた。


「この中の金貨や宝飾品を使えば、市井の中で3ヶ月は生きていけます。


アイリーン……火の国へ向かう途中、隙を見て逃げなさい。」


「母様?!」


アイリーンはアリシアの行動に驚き声を上げた。


「しっ……。ギリギリまで誰にも悟られてはいけませんよ。

アイリーン、お願いです。貴方が生きていることが私にとっては一番大事なことなのです。」


アイリーンはアリシアを責めるように静かに咎めた。


「受け取れません。

母様……こんなこと、画策した時点で大罪です。

こんな危険なことはしないでください。

下手をすればクロノス家が潰れてしまいます……!」


アイリーンの言葉を受けたアリシアの瞳に、激しい怒りが浮かぶ。


「どうでもいい……!家紋が潰れようが、私が罰せられようが……貴方が死ぬよりずっといい!」


アリシアが怒気の滲む強い声色でそう言う。

こんなに怒ったアリシアを見たことがなかったアイリーンは驚きで硬直した。


「もう一度言います、アイリーン。

私にとっては貴方が生きていることが一番大事なの。死んだら私は貴方を許しません。

……生きていれば、なんとでもなります。お願い……。」


「…………。」


アリシアのあまりに切実な声に、アイリーンは言葉を返せなくなってしまった。

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