第61話 運命を背負いし子
翌朝。
アイリーンとイリア姫は結局一睡もせずに朝を迎えた。
二人は朝までお互いの家族についてや、魔法について語りあっていた。
そして陽が昇る頃、アイリーンの部屋を水の精霊ウンディーネが訪れた。
《あら、二人とも朝まで語らっていたのですか?……アイリーン、準備が出来たら皆と共に私の元へ来て下さい。》
ウンディーネの命の通り、アイリーン達は皆ウンディーネの居る大聖堂のような部屋を訪れた。
イゾルデ女王の頭にはソフィア姫が最期に身に付けていた水の国のティアラが輝いている。
《イゾルデ、魔法で私の声を皆にも聞かせて。》
ウンディーネがイゾルデ女王へそう声を掛ける。
「はい、ウンディーネ様。」
イゾルデ女王がそれに応えるようにアイリーン以外の全員に魔法をかける。
《さて……聞こえますか、我が騎士姫達。そして時の国の王子、セルシスよ。》
「……!」
ウンディーネが仰々しく言う。
いつもと違う言葉遣いに、アイリーンは思わず噴き出しそうになった。
「き、聞こえております、ウンディーネ様。
御声を聞くことが出来、大変光栄に思います。」
イリア姫が緊張した面持ちでそう答える。
騎士姫達とセルシス王子、そしてオルフェもその場に膝を付きお辞儀をする。
アイリーンも皆に倣いその場に膝を付きお辞儀する。
《ふむ……私こそ水の精霊ウンディーネ。
皆顔を上げなさい。》
(ふむ……?!)
アイリーンは今までとあまりにかけ離れたウンディーネの言葉遣いに我慢できず、口元を覆い震え出した。
《アイリーン!笑ったら怒りますからね!!》
ウンディーネがアイリーンにしか聞こえないような小声でそう言い、尾ひれでアイリーンの尻を叩いた。
《アイリーンよ、こちらへ。》
ウンディーネが自身の像の前へとアイリーンを呼ぶ。
アイリーンがウンディーネの像の前へ立つと、その上を本物のウンディーネがくるくると回る。
するとウンディーネの像がキラキラと輝き出した。
「これは……!」
「なんて眩い……」
「綺麗……」
皆の感嘆の声が聞こえる中、ウンディーネが続ける。
《アイリーン、此度は本当によくやってくれましたね。私が依頼した“水の国の第一王女ソフィア姫率いる水の国近衛騎士団と、ドラゴンの戦いの再現”は確かに果たされました。
ここに我が水の国と時の国の、ドラゴン討伐における同盟関係を宣言します。》
ウンディーネの凛とした声が部屋に響く。
「心より感謝致します、ウンディーネ様。」
アイリーンがその場で深くお辞儀をし、そう答える。
その場に居た全員が拍手をする。
祝福の拍手が響く中、ウンディーネがアイリーンの横へやって来る。
そしてアイリーンの頬に嘴を擦り付ける。
《アイリーン、本当にありがとう。
……貴方にはもう一つ、プレゼントがあるのです。》
優しい声でウンディーネがそう言う。
そして自身の額をアイリーンの額につけ続けた。
《私の友アイリーン。どうか私と契約を。
貴方に私の加護を授けさせて下さい。
私の力が、貴方を守り導けるよう……受け取って。》
「……え?……」
アイリーンが理解するより早く、アイリーンの身体が光り出す。瞬間、アイリーンの身体を光り輝く水が包み込む。
水の中、ウンディーネの嘴がアイリーンの額にキスをした。
魔力が溢れ出す。そして光り輝く水が、アイリーンの中に流れ込む。
「……!!!」
頭がクラクラする感覚にアイリーンがその場に倒れ込みそうになる。そんなアイリーンを支えるかのように、大きな水の玉が2つ、衛星のようにアイリーンの身体の周りに纏わり付いた。
「え……え?これって…………」
困惑するアイリーンをよそに、ウンディーネが先ほどよりもさらに大きく凛と張った声で宣言する。
《聞きなさい皆。
水の精霊ウンディーネは、アイリーン・クロノスと契約しました。これは一代限りの契約です。
アイリーンこそ我ら精霊の希望であり、運命を背負いし子。この者は世界を救う大魔法使いとなるでしょう。》
「え……えええーーー?!!」
アイリーンの叫び声が部屋に響き渡る。
アイリーン以外の者は起きた事をまだ上手く把握出来ず、呆けた顔で立ち尽くしていた。