第55話 東の海岸へ
アイリーンが詠唱すると、城壁全体に黄金の光の粒が舞う。
「こんなに広い範囲を……」
オルフェが呟く。
城壁の下からは、城壁を取り巻いた黄金の光に驚く声が聞こえる。
黄金の光の粒は集まり、アイリーン達のいる城壁上に像を成して行く。
一人、二人と増えて行く像の中に、ソフィア姫と水の国近衛騎士団筆頭剣士メグがいた。
二人は城壁上から東の海の方を見ていた。
先ほども聞いたキーンという音が響く。
ソフィア姫とメグは、波の手鏡を取り出した。
『姫様!どうかご指示を!!……どうすれば……一体アレは……!?』
波の手鏡から、混乱した声が聞こえる。
『落ち着いて。東の海岸付近に落下してきたとされるものの正体は分かりましたか?』
ソフィア姫が冷静な声で鏡の先の偵察隊に問い掛ける。
『はい……正体は、アレかと……』
波の手鏡に、ドラゴンが映し出された。
『?!これは……?!』
「これが……ドラゴン……。」
アイリーン達全員がソフィア姫の波の手鏡を覗き込み、唖然とした。
虹色に光る煙に包まれる巨躯。
手鏡に映った姿ゆえ実寸は分からないが、おそらく今立っている城壁と同等くらいの背丈だろう。
白銀の鱗は日光を反射し虹色に輝いて見える。
トカゲや蛇とはまた違う、独特で荘厳な顔つき。こちらを見つめる瞳はオパールのように複雑に輝いている。
畳まれた翼の先の方は鳥の翼のような白い羽毛が見える。
一言で言えば神々しい生き物。それがドラゴンだった。
『……帰還して。一時帰還!』
ソフィア姫が叫ぶ。相当動揺しているようで、手鏡を持つ手が震えている。
『待て!』
次の瞬間、隣にいたメグが叫んだ。
『……何故、手鏡の中のソレと目が合っている?』
メグの言葉にソフィア姫がはっとした顔をし、深刻な顔で手鏡の先に問い掛けた。
『貴方達、ソレに気付かれたのですね?』
『はい……。今あの生き物は私達の様子を伺っているようです。』
手鏡の先の人物が答える。
『今背を向けようものなら、襲われるだろう。』
メグが静かに告げる。
ドラゴンはこちらを見つめ、襲い掛かる瞬間を見定めている。どんな攻撃を仕掛けてくるかは分からないが、おそらく偵察隊は無事では済まないだろう。
『全員その場で待機。ソレから目を離さないで。それから一切の行動を禁止します。背を向けるのも、攻撃するのも禁止です。』
ソフィア姫が凛とした声で偵察隊へ命じた。
『大丈夫。私を信じて下さい。』
そう言いながらソフィア姫は立ち上がり、メグの方を向いた。
『メグ、近衛騎士団全員に出撃準備を通達。
偵察隊を救出します。……もしかしたらアレと戦闘になる可能性があることも伝えて。臆する者は来なくて良いとも。』
『はっ!!』
ソフィア姫の命を受けたメグが敬礼する。
『私は……陛下に出撃の許可を頂いて来ます。』
そう言い駆け出したソフィア姫の姿が薄れ、黄金の光の粒に戻って行く。
「この後、ソフィア姫はイゾルデ女王の部屋を訪れ、ティアラを手にドラゴンの元へ向かったのですね。」
セルシス王子が言う。
「どうして……どうして私達騎士姫を連れて行ってはくれなかったのですか……。……いえ、答えはもう……。」
イリア姫が悲しそうな声で呟く。
《ソフィア……あの子の悪い癖だった。姉としての責任感が強すぎて、家族を守らなければという気持ちが強すぎて……全てを1人で背負い込んでしまう。》
どこからともなく姿を現したウンディーネが言う。
《……アイリーン、次は東の海岸へ向かいましょう。》
ウンディーネが静かにそう言った。
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東の海岸は静まり返っていた。
誰もいない白い砂浜にどこまでも続く水平線。
砂浜の終わりには崖があり、上には鬱蒼とした森が広がっている。
(私達しかいない。まるで世界の果てみたい……。)
アイリーンはそう思いながら辺りを見回した。
「普段なら観光客で溢れていますが、今は騎士団が封鎖しています。」
イゾルデ女王がそう説明してくれる。
アイリーンと共に辺りを見回していたセルシス王子が何かに気付き、アイリーンに耳打ちをして来た。
「アイリーン、あそこ。森が一部削げている。」
セルシス王子の示した方を見ると、崖の上の森の一部分にぽっかりと空間が空いていた。木々も草花も何もなく、大地が露出している。
あそこで何かあったのは明白だ。




