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第51話 この国のそして私の宝物

(考えているうちに、完全に魔法を止めるタイミングを逃したわ……。このメグという女性は誰かしら……。)


何となく場に気まずい雰囲気が漂う中、アイリーンはイリア姫をちらりと見た。

イリア姫がアイリーンの視線に気付き、説明してくれる。


「彼女は水の国近衛騎士団の筆頭剣士です。配属後は常に姉様と行動を共にしていました。」


筆頭剣士でソフィア姫側近のメグは、ソフィア姫に尋ねた。


『ブローチ、どこにあったのですか?』


『ええと、ラズリーが自分のブローチの参考にする為に持ち出したらしいわ。それをレイが教えてくれたの。』


『はぁ……そんなことだろうと思いました。

レイ姫はどうして走り去って行かれたのですか?』


ソフィア姫の説明に、メグは呆れた様な様子だ。


『レイは……ラズリーだけ甘やかされていると感じているみたいで……。今回も私がラズリーを叱らなかったから、納得がいかなかったのだと思うわ。

ラズリーは充分反省していたから、叱るのは違うと判断したのだけれど……。』


『なるほどですね……。レイ様の気持ち、私は少し分かるなぁ。』


ソフィア姫の言葉にメグが返す。


『え?……ああ、そう言えばメグにも妹がいたわね。』


『はい。妹は私より要領がいい子で、叱られないようにうまーく立ち回るんです。

そのせいでいつも私ばっかり母に叱られていました。だからよくずるいって感じていました。』


メグの言葉にソフィア姫が笑い出す。


『ふふっ!仲が良いのですね。』


『違います!……姫様はずるいと感じたことはないのですか?』


『そうですねぇ……私はあまり感じたことはないです。一つ下の妹のイリアとも6歳離れていますし、叱ったり甘やかす側ですから。』


ソフィア姫はそう言い、窓の方へ歩き出す。


『……レイは、孤独を感じてしまっているのかもしれません。

私は次期女王としての公務や騎士の仕事がありますし、イリアは私の補佐として付いて貰っています。


レイもまだ子供なのに、ラズリーより1歳上なだけで、姉としてラズリーを導かなければいけない。特にレイは責任感が強い子ですし。』


ソフィア姫は窓の外を見る。眼下に広がる城の庭園の植え込みに、レイ姫は蹲っていた。


『私もイリアも、レイが頑張っていることを知っています。そんな頑張り屋のレイが大好きです。


そして、ラズリーもレイが嫌いなのではなく、むしろ一番親しい存在だと思っていて……だからレイには気が使えなくなるのでしょう。レイが居てくれるから、ラズリーは孤独を感じなくて済むのです。

レイだって、ラズリーがいるから孤独には決してならない。

二人ともお互いの存在の大切さに、早く気付いてくれるといいのだけれど……。


それにね、あの二人が素直に支え合える存在になれれば、この国の騎士団はもっと安定して行きますよ。

責任感と頭脳のあるレイ。向上心と少しの狡猾さを持つラズリー。どの要素も騎士には必要ですもの。』


ソフィア姫はそう言い、窓から見える小さなレイ姫の姿を窓越しに撫でる。


『レイもラズリーも、そして勿論イリアも……この国の、そして私の宝物です。』


そう言い、優しい笑顔を浮かべるソフィア姫がまた黄金の光の粒へ戻って行く。


「ソフィア姉様……。」


レイ姫が俯き呟く。

レイ姫の隣にいたラズリー姫が無言のまま、レイ姫を後ろから抱きしめた。

その二人を更にイリア姫が抱きしめる。


騎士姫達が抱き合う姿を見て、アイリーンは思った。


(妹である騎士姫様達を大切に想う気持ち……これがソフィア姫が遺したかったことだったのね。)


---------------------------


その後アイリーンは、再度戦いに赴く直前のソフィア姫の様子を“ノスタルジア”で再現したが、無言で戦いに赴く準備をしていた様子しか再現出来なかった。


アイリーン達は一旦解散し、夕方にイゾルデ女王の部屋に向かうこととした。


アイリーンが客間に戻るとすぐに、オルフェが訪ねて来た。


「アイリーン、入ってもいいか?」


「どうぞ、オルフェ様」


入って来たオルフェは、可愛らしい柄の箱を抱えていた。


「体調はどうだ?

夕方にも“ノスタルジア”を使えそうか?」


「お気遣いありがとうございます。

大丈夫です。“ノスタルジア”にも慣れて来ました。」


「そうか、良かった。

ま、お前ほどの魔力があれば大丈夫だろうな。大して心配はしていない。」


そう言いながらオルフェは持っていた可愛らしい箱を開けた。そこにはパステルカラーが愛らしいマカロンが並べられていた。


「……オルフェ様、これは?」


「ん?城下町で買って来たんだよ。

お前このマカロン好きだろ?」


(マカロンは……好きでも嫌いでもないわ。)


「はい。ありがとうございます、オルフェ様。」


アイリーンはオルフェがせっかく買って来てくれたものだからと思い、早速一つ箱から取り出し、口に入れた。


「……!!!!」


その瞬間、アイリーンの舌に衝撃が走った。


(な……何このマカロン!!今まで食べたことのない衝撃的な美味しさ……!!

マカロン特有のパリッとした口当たりからネチョッとした舌触りに変わるものじゃなくて…………ホロっと崩れる口当たりの後フワッとクリームが舌の上で解けてしまうような…………そして口全体に広がるバニラとフローラルな香り…………ええ!こんな美味しいマカロンが存在していたの?!)


アイリーンがキラキラと輝く目でオルフェを見る。


「はは!美味しいようで何よりだ。」


そう笑いながら、アイリーンの口周りを拭ったオルフェは、とても幸せそうな顔をしていた。

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