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第5話 俺がお前を大魔法使いにしてやるよ

もう誰にも居場所を奪われることのないような大魔法使いになりたい。

アイリーンは言ってからはっとした。

魔法の知識を一切覚えていないアイリーンが、魔法学園を設立した曽祖父のような大魔法使いを目指すなど、途方もない話なのではないだろうか。


「よく言った、アイリーン。お前ならきっとなれる。

俺は誰よりお前の力を知っている。お前の師匠だからな。

俺がお前を、大魔法使いにしてやるよ。」


オルフェはアイリーンの言葉を茶化すこともなく受け止め、さらには自分がアイリーンを大魔法使いにすると言った。

その顔は自信と優しさに満ちていた。


(どうしてこの方は、私をこんなにも優しい目で見るのだろう。

なぜ魔法を教えてくれるのだろう……。)


アイリーンはそう思ったが、声には出さず、ただオルフェを見つめていた。


-------------------------------------


「……と、言うことで、俺もこの屋敷にこれから住むから。

よろしくなばあば。」


屋敷の敷居を跨ぐなり、オルフェは執事とメイド長を呼び、自分が分家の隠し子であることや、アイリーンとは魔法の師弟関係を結ぶ契約をしたこと、そして今後当分はアイリーンの魔法教育の為にこの屋敷に居座ることを伝えた。


ばあばことメイド長のモナリザは、怒りで肩を震わせながらオルフェの話を聞いていた。


「なりません……!たとえ貴方様のお話しが本当だとしても、分家の隠し子様が本家である我がクロノス家に居座るなど……

常識的に考えてあり得ないことですわ!

アイリーン様!絶対になりませんわよ!!」


「でもばあば……」


「でもではありません!絶っっ対になりません!!」


ばあばは怒り狂い、全く聞く耳を持ってくれない状態だ。

その時、部屋のドアが開き、誰かがこっそり入ってきた。


「アイリーン様!!今すぐこの隠し子様を……」


「わっっ!!」


「!!?」


ばあばの後ろから手が伸び、ばあばの目を覆った。

同時に声が聞こえる。声の正体をアイリーンはよく知っている。


「「おかえりなさいませ。奥様。」」


その場にいた執事とメイド長モナリザがお辞儀し言った。


「母様……!」


アイリーンは泣き出しそうになるのを必死で堪えた。

アイリーンが1度目の人生で死ぬ直前、アイリーンを守ろうと、アイリーンの頭を必死に搔き抱いていた母が目の前にいた。

見慣れた姿よりも少し若い母が。


「ただいま戻りました。

ばあば、あまり怒っては身体に障るわ。一体どうしたの?

あら?そのお方は……?」


オルフェはアイリーンの母アリシアにも、先ほどと同じような説明をした。


「あらまぁ……なるほど……。」


アリシアは暫し考え込み、アイリーンの方を向いた。


「アイリーンの考えを聞かせて。この件の最終決定はクロノス家現当主のアイリーンにありますもの。」


アイリーンはアリシアに真剣な眼差しを向け言った。


「私は、クロノス家現当主として早急に魔法を習得したいです。

誰にも居場所を……このクロノス家を奪われることのないよう、魔法で名を馳せ、この家の地位を確固たるものにしたいのです。

これが出来るのはクロノス家現当主の私だけですから。」


その言葉を聞いたアリシアは、暫くアイリーンをじっと見つめ言った。


「分かりました。アイリーンが決めたことであれば従いましょう。

二人とも、客間の準備をして頂戴。これからオルフェ様に暫く滞在して頂きます。」


「奥様……!!」


アリシアの言葉を聞いたメイド長モナリザが目を吊り上げ声を上げた。


「ばあば、クロノス家現当主の決定よ。でも、そうね。

……オルフェ様、失礼ですがこの場で魔法を見せては頂けませんか?

貴方様が本当に我が血筋の者であり、実力者であると分かれば、私共も安心してアイリーンをお任せ出来ますから。」


ばあばを窘めた後、アリシアはオルフェに優しい声でそう言った。

アリシアはオルフェをあまり疑ってはいないようで、その言葉には魔法への好奇心が込められているようだった。


「いいですよ。では早速……。」


そう言いながらオルフェは花瓶を手に取り……そして床に叩きつけた。

大きな音を立てて花瓶が割れた。


「なっっ!?」


驚き硬直するばあばを無視して、オルフェは部屋のあらゆる装飾品を床に叩きつけた。

鮮やかな花々の絵が描かれた壺、ステンドグラスのシェードが美しいランプ、繊細な彫刻が施された燭台……。

壊れていく貴重な装飾品たちを目の当たりにし、ばあばはその場にへたりと座り込んでしまった。


おおかたの装飾品を壊したオルフェはくるりとアイリーンの方を向き、にこりと微笑み、指をパチンと鳴らした。

その瞬間、バラバラに砕け散っていた装飾品の破片たちが宙を舞い、くっつきあい、元の姿・元の場所に戻っていった。まるで時が戻るように。


その光景を執事とばあばはぽかんとしながら見ていた。


「素晴らしいわ!こんな素晴らしい時の魔法を見たのは公爵様ご存命時が最後だわ……!」


アリシアは目を輝かせながらそうオルフェの魔法を称賛した。

アリシアもクロノス家の遠縁ではあるが、血も薄く魔力もほぼ有していない為、魔法は使えないに等しい。

もし無理に使おうとすれば代償により全ての記憶を失ってしまうだろう。


「これでばあばも文句はないわね?

オルフェ様、ようこそクロノス家へ。貴方様のような時の魔法使いにお目にかかれて光栄ですわ。

クロノス家一同、オルフェ様を歓迎致します。」


こうしてオルフェはクロノス家に滞在することとなり、アイリーンの魔法修行の日々が始まった。

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