第45話 デートの誘い
「ここに書かれていることは本当なのか?……ソフィア姫が……。」
ウンディーネの刻んだ手紙はセルシス王子へ宛てたものだった。
そこにはソフィア姫の死とドラゴンのことが記されていた。
それを読んだセルシス王子が困惑した顔でアイリーンを見る。
「はい……本当です。」
アイリーンは目を伏せた。
手紙の内容を肯定することさえも、イゾルデ女王と騎士姫たちを傷付けているような気がしたからだ。
「……アイリーン、殿下。これを。」
ずっと沈黙していたオルフェが、先ほど書き換えられた水の国からの依頼書をアイリーン達へ差し出した。
その内容は“水の国の第一王女ソフィア姫率いる水の国近衛騎士団と、ドラゴンの戦いの再現”に書き換えられていた。
依頼主は水の精霊ウンディーネ。そして宛名には時の国王家と記載され、報酬欄にはドラゴン討伐における一時的な同盟関係と記されていた。
アイリーンとセルシス王子は依頼書を確認し、2人ともその場で深くお辞儀をした。
「水の精霊ウンディーネ様からのご依頼、改めて承りました。時の国王家関係者として、尽力致します。」
アイリーンの声が部屋に響いた。
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「ソフィア姫の件、心よりお悔やみ申し上げます。澄んだ心を持つ、気高く美しい御方でした。……本当に残念です。」
セルシス王子はイゾルデ女王に弔辞を述べた。
「お気遣い頂きありがとうございます。
水の国のしきたりにより、通常の葬儀は行いません。お言葉だけで十分ですわ。」
イゾルデ女王が固い声で答える。
そのやり取りを見ていたアイリーンに、第二王女のイリア姫が声を掛けてきた。
「アイリーン様、よろしければ本日お茶会に参加して頂けませんか?
騎士姫達だけで行う予定の、ささやかなお茶会です。もしご負担でしたら、断って頂いて構いません。」
周りに聞こえないように、こっそりとそう言った。
「お誘い頂きありがとうございます。
是非参加させて下さい。」
(断るのは失礼だものね。……それに、騎士姫達は14歳前後に見える。今の私と歳が近そうだから、きっと親交を深めようと思ってくれたのだわ。)
アイリーンは誘いを受け、午後4時にティーサロンに行く約束をした。
(……今は2時か。オルフェ様と甘いものを食べに行くのは延期させて貰おう。
お茶会でお菓子を食べれなくなってしまうもの。)
アイリーンがそう考え、オルフェに話し掛けようとした時、セルシス王子がアイリーンに声を掛けた。
「アイリーン。よければこの後、城下町を散策しないか?水の国の城下町は大陸一美しいんだ。」
アイリーンの答えを待たず、セルシス王子はイゾルデ女王にも声を掛けた。
「イゾルデ女王、城下町を散策して来てもよろしいでしょうか?
水鏡からは出ませんので、出来ればアイリーンと2人で行きたいのですが……。」
「まぁ!それはつまりデートとい……」
「こらラズリー!静かになさい!」
第四王女のラズリー姫がセルシス王子の言葉に反応し声を上げる。それをすぐに第三王女のレイ姫が止めた。
しかしすでに発せられてしまった“デート”という単語のせいで、場が色めき立つ。
《デート!まあ素敵!
私、あまり覗き見しないように努めますわ。
ねえアイリーン、帰って来たらお話し聞かせて頂戴!
そういえばイリアが本日お茶会を開くと言っていましたね。私も参加します!絶対デートの話題になるもの!》
水の精霊ウンディーネが興奮した声で、捲し立てるようにそう言った。姿は白いイルカだが、頬を赤らめデートの話をせびるウンディーネは、年頃の乙女のように見える。
(絶対に断れない雰囲気が、一瞬で出来上がった……。)
アイリーンはちらりとオルフェの方を見て、申し訳なさそうに眉を下げた。
オルフェはアイリーンの意図を汲んだのか、小さく微笑み頷いた。
「わ、私もセルシス様と城下町を散策させて頂きたいです。よろしいでしょうか、イゾルデ女王……。」
アイリーンは皆の前でセルシス王子とのデートを公言するような行為に恥ずかしさを覚え、顔を赤らめながらそう聞いた。
アイリーンの赤く染まった頬を見たセルシス王子も、顔を赤らめる。
(やめて!余計恥ずかしい!!)
アイリーンはそう心の中で叫んだ。
場の雰囲気を感じ取ったであろうイゾルデ女王が優しく微笑み言った。
「良いでしょう。楽しんでいらっしゃい。」