第41話 水の精霊ウンディーネ
「早速ですが、次は水の精霊ウンディーネ様に挨拶して頂きます。」
水の国の騎士姫達との挨拶が終わるや否や、イゾルデ女王がそう告げる。
(水の精霊様との挨拶……駄目、また緊張して来た……。)
緊張で動きがぎこちなくなるアイリーンを、オルフェがやんわりとエスコートする。背に添えられた手から、オルフェの温もりと優しさが伝わる。
(私は……クロノスの魔法使いとして結果を残し、大魔法使いを目指すのよ。背筋を伸ばして前を向かなきゃ。大丈夫、今回は師であるオルフェ様も一緒だもの。)
そう思い前を見据えたアイリーンの前に、荘厳な部屋が広がる。通されたその部屋は、まるで大聖堂の様だった。
水晶で出来た高い天井は半円状に広がり、キラキラとした光がそこから降り注いでいる。
部屋の全ての壁に、青い波が描かれたステンドグラスが嵌め込まれており、部屋全体がきらめく海の中のようだ。
部屋の中心には、透き通った透明な水晶で造られたイルカの像が立っている。
「ウンディーネ様。クロノスの魔法使いを連れて参りました。」
イゾルデ女王が部屋全体に響くように、大きな声でそう告げた。
瞬間、部屋全体に波打つように光が揺らめく。
その光が部屋の中心のイルカの像に集まり……そして像から白く輝くイルカが現れ跳ねた。
空中を泳ぐ光輝く白いイルカは、部屋を旋回した後、アイリーンの目の前で止まった。
《クロノスの魔法使い、アイリーンですね。お会い出来て光栄ですわ。
私は水の精霊ウンディーネ。
どうか貴方の力を私に貸して下さい。》
美しい女性の声がイルカから聞こえる。
この輝く白いイルカこそが、水の精霊ウンディーネなのだろう。
アイリーンは丁寧にお辞儀をした。
「こちらこそお呼び頂き光栄の極みです、ウンディーネ様。私の力が必要であれば何なりとお申し付け下さい。」
アイリーンが挨拶する様子を見て、騎士姫達が驚いた顔をする。
イリア姫がおずおずとアイリーンへ声を掛けた。
「あの、アイリーン様。そこにウンディーネ様がいらっしゃるのですか?」
「え……?」
思わぬ質問に、アイリーンはイリア姫とウンディーネを交互に見た。
ウンディーネがアイリーンに言う。
《噂通りの素晴らしい才能をお持ちですのね、アイリーン。
普通は魔力増強の魔法具がないと、自国の精霊さえ見ることは出来ませんのよ。
ましてや他国の精霊の私と、こんなに自然に会話出来るなんて……素晴らしいわ。》
ウンディーネがそう言い、アイリーンの周りをくるくると周遊する。
アイリーンもつられてその場でくるくると回った。
「……何をなさっているのですか?」
騎士姫達が怪訝な顔をする中、オルフェだけはウンディーネの姿を追って目が動いているように見えた。
(……オルフェ様には見えている……?
あら?イゾルデ女王は……どこを見ているのかしら……。)
アイリーンはオルフェとイゾルデ女王の視線に違和感を覚えた。
しかしその違和感を追求することは出来なかった。
ウンディーネが真剣な声色でアイリーンに話しかけて来たからだ。
《さて……此度の依頼に関してお話し致しましょう。》
ウンディーネの言葉に、アイリーンの身体が強張る。
「はい、ウンディーネ様。水の国第一王女様が失踪された件、伺っております。
時の魔法を使い、第一王女様の行方の手掛かりを探し出す……というご依頼でよろしかったでしょうか。」
《そうです……。しかしその件で、貴方にお伝えしなくてはいけないことがあります。
水の国第一王女、ソフィア姫は……すでに亡くなっているのです。》
ウンディーネは悲しみに満ちた声でそう告げた。