第38話 オルフェの涙
「は?水の精霊ウンディーネからの依頼?!」
事の顛末をオルフェに話すと、オルフェは驚きのあまり叫んだ。
「はい……。その為3日後には水の国へ旅立ちます。」
アイリーンは憔悴した顔でそう言った。
「しかし水の国第一王女が行方不明とは……。
……おい、アイリーン。1度目の人生でこんなこと起こってなかったよな?」
オルフェははっとした顔をして、そう聞いてきた。
「え?……はい。私が覚えている限りでは、起こっていないです……。」
「風の国の王の崩御と言い……一体何が起きてるんだ……。」
オルフェはそう言い、何かを考え込み始めた。
(そういえばオルフェ様はドラゴンのことを知らないのだった。)
「あの……オルフェ様。風の国の件ですが……」
アイリーンは、ドラゴンが実在しており風の国を蹂躙したという話を、オルフェに伝えた。
「……!!!なんだよ、それ……。」
オルフェは相当驚いたらしく、言葉を失ってしまった。
当然の反応だろう。アイリーンも最初エフィリア女王から聞かされた時は混乱状態に陥った。
「オルフェ様……」
オルフェを安心させようと、アイリーンが言葉を紡ごうとした時、オルフェが急に立ち上がった。
「……水の精霊ウンディーネからの依頼、俺も同行する。」
「え……」
「絶対に行く。異論は認めないからな。
このことを水の国の使者に伝えてくる。」
そう言い、オルフェは歩き出した。
「え……え!待って下さい、オルフェ様!」
唐突な出来事についていけないでいたアイリーンは我に返り、オルフェを制止した。
「駄目です。
水の国の使者の方には、オルフェ様の身分を明かせません。
ご心配頂けるのは嬉しいですが、クロノス家の面子を考えるとオルフェ様を同行させる訳にはいきません!!」
そう言い、アイリーンが扉の前に立つ。
「退け。何を言われようと一緒に行く。」
「退きません!!」
「なんで分からないんだよ!!」
オルフェが叫んだ。その顔は今にも泣き出しそうな、とても切ない表情をしている。
「!!」
アイリーンの胸がきゅっと締め付けられる。
「なんで……お前のことを守られせてくれないんだよ……。俺は、お前の為なら……。」
オルフェがそう呟く。
(そんな顔しないで。そんなこと言わないで……。だって……)
「私は応えられないの……。」
アイリーンは無意識のうちにそう答えていた。
はっと我に返ったアイリーンがオルフェの顔を仰ぎ見る。
オルフェの瞳から、静かに涙が零れていた。
アイリーンと目が合うと、オルフェは涙を隠すように顔を逸らした。
「そんなの……分かってる……。」
オルフェは身を翻しながらそう言った。
部屋に静寂が訪れる。
アイリーンが居た堪れなさに耐えかね、部屋を去ろうとしたその時、扉が開きアリシアが入って来た。
「アイリーン!ここに居たのね。
あら!オルフェ様も!丁度良かったわ。
2人に話があるの!」
アリシアの明るい声が部屋のぴんと張っていた空気を壊す。
アイリーンとオルフェがソファに座ると、向かいのソファに腰掛けたアリシアが話し出す。
「あのね、この度水の国イゾルデ女王……いえ、水の精霊ウンディーネ様より依頼を賜り、アイリーンが水の国へ行く事となったの。
そこにオルフェ様にも同行して頂きたいの。」
「「……え?」」
アイリーンとオルフェは同時に声を漏らした。
今まさに口論していた事を、アリシアの方から提案されたからだ。
「えっと……母様?
オルフェ様の身分は明かせませんよね?
水の国でどう説明すれば……」
「え?オルフェ様の身分はアイリーンの義兄よ。この間決めたじゃない。」
徐々に小声になるアイリーンの声に、アリシアが被せて言う。
(その設定を突き通して行くのね?!
……もしかして母様、本気だったり……?)
「とにかく!水の国に、14歳のアイリーンを1人で送り出すことは出来ません!
それに初めて“クロノス家の魔法使い”として受ける依頼です。粗相のないよう、アイリーンの師匠であるオルフェ様にサポート頂きたいのです。
私は魔法が使えませんから……。」
そう言いアリシアはオルフェの方に向き直る。
「オルフェ様、どうかアイリーンをよろしくお願い致します。」
アリシアの目はとても真剣だ。
その眼差しには、“アイリーンを守って欲しい”という意思が込められているのが分かる。
「勿論だ。俺はアイリーンの師匠だからな。」
オルフェは自信に満ちた顔でそう答えた。




