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第28話 人によって違う

アイリーンが詠唱した瞬間、辺りに黄金色の光の粒が舞い始める。


「……!?何、これ……。」


エフィリア女王が驚き辺りを見回す。

黄金色の光の粒は、どんどん1点に集まり像を成す。そしてそれは風の国騎士団に所属していた凛々しい男性、カイの姿となった。


『エフィリア様。』


「…………え……?カイ……?」


エフィリア女王は待ち合わせ場所に現れた彼の姿を呆けた顔で見つめた。思考が追いついていないのか、ぽかんとした顔をしている。


『ごめんなさい、今日も宿舎を抜け出すのに時間がかかってしまって……。お待たせしてしまい、申し訳ございません。』


カイの追憶の像が申し訳無さそうな顔で、エフィリア女王のもとへ近付く。


「…………。」


エフィリア女王は言葉を返すことが出来ず、沈黙していた。

カイの追憶の像は止まらず言葉を紡いでいく。


『ああ……拗ねないで下さい、エフィリア様。

俺だって、早く会いたくて仕方なかったんですよ。でも誰かに見られたら大変です。

俺は……この時間を失いたくないんです。』


カイの追憶の像がそう言った瞬間、エフィリア女王の瞳からぼろぼろと大粒の涙が零れ出した。


「私も……どれほどこの時間を失いたくないと願っていたことか……。

あなたは知らないまま、逝ってしまったわね……。


……アイリーン、近くにいるのでしょう?」


名前を呼ばれたアイリーンは、驚きと恐怖のあまり集中を切らしてしまった。

その瞬間、カイの追憶の像は黄金の光の粒へと戻り、辺りに散ってしまった。


アイリーンは居た堪れ無さに頭を抱えた。


(まずいわ……。きっとエフィリア様は怒っていらっしゃる……。こんなプライベートな姿を今日初めて会った私に見られ、そしてずかずかと干渉された。怒らないはずがない……!)


アイリーンは怒られる覚悟を決め、静かに茂みから姿を現した。


「あの……エフィリア女王……。」


(どうしよう……もしこの件がきっかけで、時の国との友好関係を解消されたら……。もう!なんでもっとよく考えて行動しなかったの、私!)


すぐに謝るべきだと頭では分かっているのに、不安と恐怖でアイリーンは声が出なくなってしまっていた。


その時、アイリーンを庇うかのように白い燕が姿を現した。


《エフィリー!これは僕がアイリーンにお願いしたんだ!傷を抉るようなことして、ごめんなさい!!》


そしてシルフはエフィリア女王の肩へ降り立ち、彼女の頬に小さな額を擦り付けながら言った。


《僕もアイリーンも、エフィリーの涙を止めたかったんだ。お願い、怒らないで……。》


そのシルフの必死な声に、エフィリア女王が微笑む。


「分かっているわ……アイリーン、シルフ。恥ずかしいところを見せてしまったわね。」


「そんなこと……。エフィリア女王、勝手なことをして申し訳ございませんでした。」


アイリーンはエフィリア女王の微笑みを見て、やっと謝罪の言葉を口に出来た。


「いいのよ。私別に怒っていないわ。

私はここで奇跡を待っていた。絶対に起きない奇跡。でも、さっき起きたのかと思ったわ。

……いいえ、起きたのよ。だって、彼の姿をもう一度ここで見ることが出来たんだもの。」


「エフィリア女王……。」


赤い目を擦りながら微笑みそう言うエフィリア女王を見て、アイリーンは胸が締め付けられるようだった。

奇跡なんて起きていない。ただ彼女に期待と失望を順に与えてしまっただけだ……そうアイリーンは思った。


「やだアイリーン!そんな申し訳なさそうな顔しないで!

何が良くて何が嫌かは、私が決めることでしょう?どう思うかなんて人によって違うのよ。

私は嫌じゃなかった。……むしろ嬉しかったわ。

だから、もうそんな顔しないの!」


そう言ってエフィリア女王がアイリーンの額を人差し指で強めに押した。


「わっ……!」


アイリーンが後ろへよろめく。倒れこむ体を柔らかな風が優しく支えた。エフィリア女王の風の魔法だ。


「うふふ!これで驚かしたことに関してはおあいこ。ね?」


エフィリア女王がアイリーンに手を差し伸べる。その手を握り、上体を起こしながらアイリーンは思った。


(エフィリア女王が言っていた言葉……。

『何が良くて何が嫌かは、私が決めることでしょう?どう思うかなんて人によって違うのよ。』という言葉。

なんだか大事なことに気付かせて貰った気がするわ。私いつも誰かの気持ちを決めつけて……臆病になっていた気がする。)


立ち上がったアイリーンはエフィリア女王の瞳を見上げた。確かに彼女のエメラルドに輝く瞳に、怒りは滲んでいなかった。

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