第24話 友好的なエフィリア女王
部屋の右側にあるソファスペースにエフィリア女王は座っていた。
「お待ちしておりました、アイリーン様。どうぞこちらへ。フーカは下がって頂戴。」
なぜメイドを下げるのだろうか。
アイリーンはまたエフィリア女王に対しかすかな不信感を抱いた。
「アイリーン様、こちらにお座りになって。」
「はい。失礼致します。」
とりあえず促されるまま、アイリーンはエフィリア女王の正面のソファに腰かけた。
すると上品な装飾が施されたティーポットとカップが宙を滑りアイリーンの目の前まで来た。
そして宙に浮いたままポットからカップに紅茶が注がれ……アイリーンの前にあったコーヒーテーブルにカップだけ着地した。
ポットはまた宙を滑り移動し、入口横のティーワゴンに着地した。
風の魔法を目の当たりにしぽかんとしていると、エフィリア女王が話しかけてきた。
「お会いできて光栄です。
精霊の落とし子。運命を背負いし子。悠久を司る時の精霊クロノスの血筋。
アイリーン・クロノス様。」
妙な呼ばれ方をたくさんされ、アイリーンは混乱した。
(なんの話……?時の精霊クロノスの加護を受ける、クロノス家の血筋ではあるけど……。
そのことだけを言っているとは思えない口上だった。
私について、何を知っているの?)
アイリーンは警戒した。
エフィリア女王がすべてを見透かしているような気がしたからだ。
エフィリア女王は真剣な眼差しでこちらをじっと見ている。
「……こちらこそ、お会いできて光栄です。エフィリア女王。お部屋にも招待頂き、ありがとうございます。」
とりあえず礼儀に倣い、アイリーンは挨拶を返した。
エフィリア女王は真剣な眼差しを崩さずに言った。
「アイリーンとお呼びしてもよろしくて?
この度招待させて頂いたのは、どうしても伝えたいことがあったからなの。
この大陸全土に関わる重要な話よ。
あなたの大事な“語り手”がいらしたら早速話すわね。」
(“語り手”……?なんの話だろうか)
その時ドアがノックされ、声が聞こえた。
「エフィリア陛下。フーカでございます。時の国王太子様がお見えです。」
どうやらセルシス王子も招待を受けこちらに来たようだ。
「入って。」
「ご招待頂き光栄に思います。
時の国王太子、セルシス・ラグナでございます。」
部屋に入りセルシス王子はすぐにエフィリア女王に挨拶した。
セルシス王子もエフィリア女王を少々警戒しているようで、表情や声音は硬い。
「招待をお受け頂き嬉しく思います、セルシス・ラグナ様。
改めまして、風の国の女王エフィリア・シルフです。どうぞこちらにお掛け下さい。」
セルシス王子がアイリーンの隣のソファに腰かけると、アイリーンの時と同じようにティーセットが宙を舞い、紅茶がセルシス王子の前に用意された。
セルシス王子もアイリーンと同じくぽかんとしている。
紅茶がセルシス王子の前に置かれてすぐに、エフィリア女王は真剣な声音で話し出した。
「さ、“語り手”様もいらしたことですし、早速本題に入らせて頂きますわ。
今回風の国が大災害により、甚大な被害を受けたことはお二人ともご存じよね?
風の精霊シルフの加護を受ける我が国にどうして暴風が吹き荒れ、大災害にまで発展したのか……。
その理由を知って頂きたいの。」
(“語り手”はセルシス様のことだったのね。どういう意味かしら……。)
アイリーンが“語り手”について考えていると、エフィリア女王が少しむっとした声でアイリーンに尋ねて来た。
「アイリーン。とても重大な話なのよ。しっかり聞いて頂戴。
……ちなみにアイリーンは、どうして我が風の国に暴風が吹き荒れるに至ったのだと思う?」
(う……エフィリア女王、少しお怒りみたい。
ところでエフィリア女王はなぜこんなに私に友好的なのかしら。)
「そうですね……暴風に理由があるとすれば、風の精霊シルフがなんらかの原因で暴走した、とかでしょうか……。
または怒り狂っているとか……。」
《僕はそんなことしないよ!ひどい!》
その声にアイリーンは固まった。
アイリーンの言葉に誰かが反論した。
少年のような声が聞こえたが、一体どこから聞こえたのだろうか。