第23話 エフィリア女王
白い肌に、オレンジがかった茶色の髪、少しつり目気味の目はエメラルドのような輝く緑。
緑のマントの下から覗く白いドレスがとてもよく似合っており、可憐という言葉を体現したかのような美しい女性だった。
「時の国の王、ナハト・ラグナです。
この度風の国の王に即位なされたこと、心よりお祝いを申し上げます。
また同時に、前王フィージオ・シルフ王のいきなりの崩御、誠に残念に思います。
風の国とは長年友好関係にある為、前王ともよくお会いしておりました。
これからは友好国の王として、隣国の王として、そして前王の友人として現王をお支え出来ればと思っております。」
時の王はそう挨拶し、お辞儀をした。
アイリーンとセルシス王子もそれに合わせ、深くお辞儀をする。
その時、ふわっと優しい風が吹いた気がした。同時に花の香りがした。
「面を上げて下さい。」
女王エフィリアの声がした為頭を上げると、時の国の王の手にはスズランの花束が握られていた。
隣にいたセルシス王子の礼服の胸ポケットにもスズランの花が。
そしてアイリーンが耳付近に違和感を覚え手を添えると、スズランの花が差されていた。
(いつの間に……?)
アイリーン達全員が驚いた顔をしていると、可愛らしい笑い声が聞こえた。
「ふふっ!驚きました?
これは風の国流のもてなしの魔法です。前王はまじめな方だったのでしなかったでしょうけど。
いらして下さった感謝の意が少しでも伝わればと思いお花を送らせて頂きました。」
(いたずらが成功して喜ぶ子供みたい……。見た目に反してお茶目な方なのね。)
「っこれはこれは!」
時の国の王も笑い返し、場は明るい雰囲気に包まれた。
「長旅でお疲れでしょう。
今夜の即位記念パーティーまでまだ時間がありますので、どうぞ客間にてお休みください。」
エフィリア女王がそう言うと、控えていた使用人たちがアイリーン達を誘導した。
「王太子と次期王太子妃は、あとで迎えを遣わせますから、そうしたら私の部屋へいらして下さいね。」
謁見の間を後にする直前、エフィリア女王がセルシス王子とアイリーンにそう声をかけた。
エフィリア女王の声は明るい声というよりもどこか固い声だったことに、アイリーンはなんとなく不安を覚えたのだった。
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(なんだか心がざわつく。
私たちは友好国の王太子と次期王太子妃。この即位の祝いに呼ばれたことには別に強い違和感はないけれど……。
何故かしら。風の国の女王には何か、特別な意図があり私たちを呼んだような気がする……。
私たちを女王の部屋に呼ぶのもなんだか違和感がある……。
面倒な事が起きないといいけれど……。)
そう考えながらアイリーンが客間で一人頂いた紅茶を口にしていると、その時は訪れた。
部屋のドアがノックされた。
「失礼致します。エフィリア女王の遣いで参りました。
エフィリア女王が時の国次期王太子妃様を自室に招待したいとのことです。
お受け頂けますでしょうか。」
ドアの外から女性の声がした。
「お入り下さい。」
アイリーンはエフィリア女王の遣いに部屋に入るよう言った。入ってきたのは若いメイドだった。
「改めましてご挨拶申し上げます。
エフィリア女王の遣いで参りましたメイドのフーカと申します。
先ほども申し上げましたとおり、女王が時の国次期王太子妃様を自室に招待したいとのことです。お受け頂けますでしょうか。」
風の国にいる以上、招待を断る訳にもいかない。
アイリーンは招待に素直に応じることにした。
「ご招待頂きありがとうございます。お受け致します。女王陛下のお部屋まで案内頂けますか?」
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「こちらになります。」
長い廊下を抜けて、アイリーンはエフィリア女王の自室に到着した。
「エフィリア陛下。フーカでございます。時の国次期王太子妃様がお見えです。」
「入って。」
招き入れられた部屋は白とエメラルドグリーンで統一された優美な部屋だった。
窓は美しいステンドグラスになっており、エメラルドのような緑のガラスに白い燕とスズランが描かれている。