第12話 セルシス王子とオルフェの出会い
翌日。
クロノス家はいつもよりバタバタしていた。
つい半刻前、城から知らせがあり、本日セルシス王子がアイリーンに会いに来るという。
(昨日お会いしたばかりなのにどうして……というかいきなりすぎよ!何故なの?今回こそ文句を言われるのかしら……?!)
アイリーンは身なりを整えながら、不安を感じていた。
生前セルシス王子とこんなに頻繁に会ったことはなかった為、いつかボロが出るのではないかと。
というかもう十分過ぎるほどにボロを出してしまっている為、怒られたり、失望されたり、最悪の場合今日にでも婚約破棄されるのではないかと。
「アイリーン、どうした?」
身なりを整え終え、王子を出迎える為玄関ホールまで降りて来たアイリーンに、オルフェが声を掛けて来た。
アイリーンの顔が曇っていることに気付いたのか、心配そうな顔で目線を合わせてくれる。
(オルフェ様はなんだかんだ言って優しい。でも何故かしら。優しくされる度、胸が痛む…………ん?
待ってよく考えたらオルフェ様がクロノス家の屋敷に滞在しているのって、体裁的にはあまり良くないことじゃ……?)
アイリーンがそう気付いた時にはすでに遅かった。
「オルフェ様!すみません、自室に戻って下さい!」
「アイリーン、突然訪問してすまない。」
アイリーンがオルフェへ自室に戻るようお願いしたのとほぼ同時のタイミングで、セルシス王子が屋敷に入って来た。
アイリーン、オルフェ、セルシス王子の3人が玄関すぐのホールで向かい合う。
「っ!!!で……殿下……!」
「!?……お前は誰だ?」
「ああ、王子か。」
3人それぞれが同時に言葉を発した。
(終わった……。今日婚約破棄されるのが今確定したわ。さよなら殿下。こんにちは茨の道。
せめてもう少しだけでも、時間が欲しかった……。立場的にも精神的にも独立した大人になる為の時間が……。)
アイリーンは絶望感に襲われ、その場にへたりと座り込んでしまった。
アイリーンの傍にセルシス王子が駆け寄り、その背を支える。
「アイリーン、大丈夫か?!……お前は誰だ?俺の婚約者に何をした!!」
そう言い、オルフェを睨みつけた。
「……俺は何もしていない。アイリーンをこんな目にあわせているのは、お前だろ。」
オルフェが小さな声でそう言った。その目は冷え切っていて、敵意すら感じるほどだ。
両者一歩も引かない。そんな空気を呑気な声が裂いた。
「殿下、ようこそいらっしゃいました。どうぞ客間に……あら?これは……もしかしてまずい状況?」
同じくセルシス王子の出迎える為に降りて来たアイリーンの母、アリシアだ。
アリシアの柔らかい声でその場の緊張状態が解れた。
「……アイリーン、とりあえず客間で事情を聞こう。案内してくれ。」
「……はい、殿下。」
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「……何故お前もいるんだ。」
セルシス王子は不機嫌そうな声でオルフェに問い掛けた。
アイリーン、アリシア、セルシス王子、そしてオルフェが客間のソファに腰掛け向かい合った。
「お前がアイリーンを虐めないか見張る為にいるんだよ。」
オルフェも不機嫌そうな声で答えた。
「っ!なんだと!!お前はアイリーンのなんなんだ!」
セルシス王子が立ち上がり怒鳴った。
(どうしましょう……なんて説明したら……!?
正直にタイム家の隠し子でなんて言ったらタイム家を窮地に陥れることになるかもしれないし、匿っている我がクロノス家も良く思われない……!)
アイリーンが困窮していると、アリシアが口を開いた。
「私からご説明させて下さい、殿下。
丁度近々、殿下にもご挨拶する予定でしたの。
……この者は私の親戚で、クロノス家の遠縁にあたる者です。名をオルフェと申します。
さぁオルフェ、まずは殿下にご挨拶を。」
アリシアは柔らかな笑みを浮かべ、オルフェに挨拶を促した。
(母様……!オルフェ様は市井で生きて来たのだから、きっと丁寧な挨拶をするのは難しいわ……!そんな嘘すぐにバレてしまう……!!)
アイリーンはそう心の中で叫んだ。
しかし、アイリーンの予想は外れた。
「ご挨拶が遅れ、申し訳ございません。
お初にお目にかかります。紹介に与りました、オルフェと申します。以後お見知りおきください。」
丁寧な挨拶と共に、オルフェは優雅にお辞儀をした。
その流れるように優美な挨拶に、セルシス王子も面を食らったような顔になる。
「あ、あぁ……。
……それで、オルフェ殿はなぜこの屋敷にいるのだ?」
セルシス王子がアリシアにそう尋ねる。
「実は、この者をクロノス家の養子にしようと思っております。
アイリーンが王家に嫁いだ後、このクロノス家を継ぐ者が必要となります。それをこの者に任せようかと。」
「「「!!」」」




