第11話 ノスタルジア
「えっと……そもそも魔法の名前とはどういうものなのでしょう?なにか例を教えて頂けませんか……?」
「はぁ!?お前魔法の名前も全く憶えてないのか?なんでそんな状態で新しい魔法を生み出せるんだよ!」
「わ、私にも分かりません!」
「はぁ……。相変わらず凄いな、お前は。」
そう言ってオルフェは腰に下げていた小さな魔法書を開いた。
「記録を見せよ、“メモリアル”」
そうオルフェが言うと、魔法書の上に小さな人が現れた。
「これは時の魔法の一つ、“メモリアル”という魔法だ。目の前で起きたことを数秒記録して、こうやって後から見ることが出来る。
……「再現せよ、”メモリアル・ファイア”」。」
オルフェがそう呪文を唱えると、魔法書の上の小さな人が手を前に翳し、火の玉を生み出した。
「今見たのが火の精霊と契約している血筋が使える、火の魔法の一つ「ファイア」だ。」
(これが別の精霊と契約している者の魔法!面白い……!)
「もっと他の魔法も見せて下さい!」
アイリーンは目を輝かせながらオルフェに頼んだ。
「お前は本当に魔法が好きだな。いいぜ。
……「再現せよ、“メモリアル・アクア”」。」
次は先程と違う小さな人が現れ、回りながら手を下から上に振り上げた。すると小さな人の周りに水の球体が生まれる。
「すごい……!これはきっと水の精霊と契約している血筋の方が使える魔法ですね!綺麗な魔法……!」
アイリーンは目をこれ以上ないほど輝かせて、食い入るように魔法の記録を見ていた。
(魔法ってなんだかわくわくするわ……!)
「オルフェ様!次!次は何ですか!」
アイリーンは心躍らせながらオルフェに別の魔法の記録をねだった。
それを受けオルフェが優しく笑いながらアイリーンに言った。
「こらアイリーン。もう十分参考になっただろ?この記録を見せる魔法も結構高度な魔法なんだ。
今日はこのあたりで勘弁してくれ。」
幸せそうに微笑みを浮かべながらアイリーンにそう言うオルフェを見て、アイリーンも何故だかとても幸せな気持ちになる。
「あら、オルフェ様はもう疲れてしまったの?オルフェ様ほどの人ならもう少し出来るでしょう!」
そう軽口を言いアイリーンはふんわりと微笑んだ。
その笑顔を見たオルフェが一瞬驚いたような顔をし、素早くアイリーンを抱き寄せた。
オルフェがじっとアイリーンの目を見つめる。オルフェの息遣いまで感じられる距離に、アイリーンは一瞬で緊張した。
心臓がバクバクと音を立てている。そしてまた何故か胸がきゅうと痛む。
「あ、の……オルフェ様……。」
アイリーンの声でオルフェは我に返ったのか、ぱっとアイリーンを抱いていた手を解いた。
「すまない。一瞬、お前が俺のことを思い出したんじゃないかと思って……。……無礼を許してくれ。」
オルフェはアイリーンから目を逸らしながら謝罪した。
「……いえ、大丈夫です。私こそ我儘を言い、申し訳ございませんでした。」
魔法書をしまいながら、オルフェがアイリーンに問い掛けてきた。
「アイリーン、お前はさっき何がきっかけで魔法を使ったんだ?」
きっかけ。アイリーンはバードバスを再び見て答えた。
「なんだか、あのバードバスを懐かしく感じたのです。その懐かしさの源を知りたくて……それで……。」
「なるほど、“懐かしさ”か。いいかもしれないな。」
オルフェがアイリーンの言葉を拾い、続けた。
「なら魔法の名前は、“ノスタルジア”」なんてどうだ?」
「“ノスタルジア”……。」
その名前を聞いた瞬間、アイリーンは自然とあの黄金色の光の粒を思い出した。そしてそこから聞こえてきた声も。
「とてもいい名前だと思います。“ノスタルジア”という言葉を聞いただけで、今あの黄金色の光の粒が頭に浮かびましたもの……!」
「決まりだな。あとは呪文か……。あの魔法を再現するのにぴったりな表現……。……お!」
オルフェが何かを閃いた表情になり、言葉を続けた。
「集え黄金の記憶の欠片たち。織り成すは追憶の影。再現せよ、“ノスタルジア”!」
オルフェがそう言い、バードバスに触れる。
すると黄金色の光が再びバードバスから溢れ、また幼いセルシス王子が現れ……すぐに消えた。
黄金色の光が消えるのと同時にオルフェがその場に崩れる。
「なんだこのめちゃくちゃ魔力を使う魔法!お前、こんなの使っていたのか!」
「オルフェ様!大丈夫ですか!」
アイリーンはオルフェに駆け寄り顔を覗き込んだ。オルフェの額から汗が滴り落ちてきている。しかし表情は晴れやかだ。
「さっき魔法を使ったせいもあって、魔力不足状態になっちまった。……悪いな心配かけて。少し休めば大丈夫だ。
……ところで、どうだ?魔法の名前と呪文。俺は再現出来たぞ。お前も出来そうか?」
少年のようにニカッと笑い、オルフェはそう言った。
「オルフェ様が再現出来たのですから、私も勿論出来ると思います。……ちょっと言うのが恥ずかしい呪文ですが。」
オルフェが魔法の再現に成功し、喜ぶ姿を見て、アイリーンもやはり嬉しくなってしまう。
アイリーンもくしゃっとした顔で笑い、そうオルフェに言い返した。




